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魔国の首都

 

 港町で一泊したアーデル達は、魔国の首都ダストへと向かっている。


 乗り物はいつものゴーレム馬車で、快適さや速度が乗るたびに上がっている。普段パペットが何をやっているのか分かっていないが、自分を含めたゴーレムの強化をしているのは分かる。


 そして今回はブラッドとパペットが作った護衛用ゴーレムを港に残した。魔族が敵対的ではないとは言っても何があるかは分からない。船員達も不安そうだったので安心させるためにも残したのだ。


 ブラッドも戦力としては少々微妙だが、数分なら全力でも戦えるし、指揮を執ることも可能だ。それにいざとなったら船で逃げていいと伝えてある。


 アーデル達だけ魔国に残ってしまうことになるが、戦力的に考えて問題はないと本人達が言ったからだ。ブラッドは「下手したら魔国を征服するかもな」と冗談を言ったが、それくらいの戦力があると言ってもおかしくはない。


 コンスタンツ曰く、そんなことにはならないとのことだ。魔族の王クリムドアのことはあったが、基本的に魔族は温厚で滅多に力を振るうことはない。


 問題があるのはクリムドアを信仰している魔族たちだが、それは魔族の人口の百分の一にも満たないと言われている。それに若い魔族が多く、当時を知っている魔族はもっと少ないと言われている。そんな魔族たちが何かやらかしたとしてもアーデル達の敵ではない。


 ただ、生まれ変わりであるクリムドアのことがばれてしまうとその勢力が拡大する恐れはある。それだけは注意しなくてはならないと皆が警戒していた。


 ほとんど揺れないゴーレム馬車の中で、アーデルは昨日から作っていた大きなリングをクリムドアに渡した。


「そいつを足にでもつけておきな。魔力の形をある程度はごまかせる。それなら魔力の形を知っている誰かに見られても知らぬ存ぜぬを突き通せる」


「助かる。お年寄りの魔族の前でこそこそするのは少々面倒だと思ていたからな」


 港町にあった宿でも年老いた従業員はいて、クリムドアは移動に細心の注意を払っていた。最初はブラッドと共に船に残ることも検討したが、どこかにいるという魔王クリムドアの魂を見つけるためにも幼竜クリムドアは必至だ。


 アーデルは寝る間を惜しんで魔道具を作り出し、ようやく渡せたところだ。


「それじゃ、私は疲れたから眠らせてもらうよ」


「はい、お休みください。首都のダストまでは二日くらいらしいので、野営地が決まったら起こしますので」


 広いゴーレム馬車の中にはオフィーリアが準備した寝床がある。さすがに宿のベッドほど広くはなく快適というほどでもないが、高級ソファのような座り心地の場所を独占できるならそこそこ寝ることができる。


「何かあったら起こしてくれて構わないからね」


 そう言ってアーデルは眠りにつく。


 クリムドアはともかくとして、人間の中でもかなりの強さを誇るオフィーリアとコンスタンツがいて、さらには最強とも言えるゴーレムがいるので危険はない。


 アーデルは何の心配もすることなく、少しだけあくびをしてからすぐに横になるのだった。




 旅は順調そのもので、予定よりも早く首都ダストについた。


 港町を出て二日目の夜に到着する予定だったが、二日目の夕方には到着してしまった。


 魔国では魔物も強いが、さすがはゴーレム馬車と言うべきか、色々な迎撃システムが搭載されており、アーデル達が戦うことなく魔物を屠っていた。


 牙や毛皮といった素材を取るために何回か停まることはあったが、それだけだ。馬車という名の戦車という感じで途中で立ち寄った町などでは魔族たちの注目の的だったが、それを気にせずに魔都を目指した結果だ。


 すぐに評議会の長であるルベリーに挨拶に行くという話があったのだが、それはコンスタンツが止めた。


「こういうのはちゃんとお触れを出してから出ないと舐められますわよ!」


 人間のマナー的なことが魔族にどれほど通じるのかは不明だが、そういうことも必要かとアーデル達は今日泊る宿を探すことにした。


 どの町でもそうだが、アーデル達は目立つ。そもそもゴーレムの馬が馬車を引いているということもあって珍しい状況なのだが、魔族は魔力に敏感という理由もある。


 アーデルなら完全に抑制することもできるのだが、オフィーリアやコンスタンツはある程度体から魔力が漏れる。魔族とは違った人間の魔力が珍しい――というよりも魔国の首都ではほぼ初めてということで、初めて感じる魔力に魔族たちは驚いている。


 クリムドアの件もあってあまり目立ちたくはないアーデル達だったが、これで目立つなは無理と悟り、せめてもの対策でコンスタンツが魔力を完全に開放している。


「アーデルさんの魔道具を疑っているわけではありませんが、クリムさんに目がいかないように私が目立っておきますわ!」


「コニーは普通に目立ちたいだけじゃないのかい?」


「そういう気持ちがないわけではありませんが、それは言わぬが花!」


 オフィーリアが「それは言ってますよ!」とツッコミを入れるが、コンスタンツは時に気にすることなく、扇子で仰いでいる。


 予定よりも早く着いたおかげか、泊まる宿はすぐに決まった。ただ、ここも港町にあった宿と同じで人間用ではない。むしろ人間が泊まるのは初めてという状況だ。


 質素な造りではあるが、老舗というか高級宿のようで部屋は広々している。バラバラで泊ると何かあったときに対処が難しいこともあるだろうと、全員で一つの部屋を借りたのだが、それでもかなり余裕がある部屋だ。


 アーデル達は案内された部屋でくつろぎ始める。


「やっぱり魔国は食料が不足しているんですね」


 泊る前、当然、宿代の話になったが、食料でもいいという話になった。


 ブラッドから金貨や食料を渡されていたアーデル達だが、どちらも大量にあるので、逆にどちらが良いか確認するとほぼ迷いなく食料で払って欲しいと言われた。


 ブラッドが来なかった分、うちの店の名を広めておいてくれと頼まれたので、ブラッド商会という名のもとに食料で支払った。主に小麦など主食になる物が好まれ、次に野菜、最後に肉という価値だ。


 魔国には魔物が大量にいるので肉には困らないという。逆に畑で採れるようなものは価値が高く、果物などはかなりの高値になるらしい。


 あとでブラッドに教えてやろうと思いつつ、まずはコンスタンツが言う通り御触れを出そうという話になった。


 コンスタンツはさらさらと紙に文字を書き、アルデガロー王国の魔法印で封をした。


「これはパペットさんにお願いいたします。決してパペットさんのことを下に見ているわけではありませんが、アーデルさんや聖女であるフィーさん、そして領主である私がこれを持っていくと下に見られてしまいますので」


「人間は面倒ですが、肩書は重要なんでしょうね。分かりました。バシッと叩きつけてきます。あと、私はゴーレム王だと名乗っておきます」


「ゴーレム王はともかく、果たし状ではないので普通に渡してくださいな。それと返事も貰ってきて欲しいですわ。こちらが指定した日時に問題があるならいつなら可能なのかも確認を。私達の方はいつでもいいので、一週間以上先と言われない限りはその場で承諾してもらって構いません」


「分かりました。常識的な日時であれば了承してきます。むしろ舐めた日時を出して来たらロケットパンチで分からせて――」


「舐めた日時なんて出すわけがありません」


 いきなり部屋の外から声が聞こえてきた。女性の声なのは分かるが、当然誰なのか分からないので全員がすぐに構えた。


「立ち聞きするような真似をして申し訳ありません。私の名前はルベリー。アーデル様がいらっしゃったと聞いたので、こちらから出向きました。よろしければ扉を開けていただけますか?」


 会いに行こうとしていた魔国の評議員の長、ベルリーが向こうからやってきて、アーデル達は顔を見合わせるのだった。


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