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祭の準備と魔力の出力

 

 アーデル達は逃げるようにアーデル村へと戻った。


 シャルナンド王都の謁見以降、ベリフェスが毎日疲れた顔で王からの手紙を持ってきたからだ。内容的には色々書かれているが、簡単に言えば「城に遊びに来ないか」だ。


 城は遊びに行くところではない。それは色々常識が欠けているアーデルにも分かることで、そもそも遊ぶような相手もいない。何かをやらせようとしているのか、それとも取り込もうとしているのか、行くわけがないと断っている。


 ベリフェスもそのあたりはアーデル達に同情的で、宿にまで手紙を持ってくるものの、自ら「断っておきますね」というほどだ。


 ただ、この行為すらも何人かは疑っていた。アルバッハやコンスタンツが言うには、シャルナンド王に関しての感情が悪くなったとしても同じように無茶ぶりされているベリフェスに同情的になってもらえればいい、そんな策略とのことだ。


 アーデルは国に対しては動かない。だが、個人に対してはそれなりの行動を起こす。シャルナンド王の目的としては、ベリフェスをアーデルと懇意にしようとしているとのことだった。


 事実、オフィーリアあたりはベリフェスにかなり同情的でベリフェスが好きな食べ物をおやつとして用意するほどになっていた。ベリフェス自身にはそんなつもりは全くなさそうだが、貴族ならあれくらいの演技はできるはず、とアルバッハとコンスタンツは疑っている。


 そしてもう一つ。これはアルバッハだけが言っていたことだが、ベリフェスをコンスタンツと懇意にさせるために送っているとのことで、婚姻を結ぼうと画策している可能性があるとも言っていた。


 魔法に関する知識や魔力量に関してはほぼ互角、良きライバルとも言えるが、たまに魔術談義をしていることから考えても相性は悪くないとのことだった。


 ただ、これに関してはコンスタンツは気付いておらず、アルバッハとしては国として考えると悪くないという状況らしい。今のアルデガロー王国は周辺国から色々と言われている。そこへ他国の貴族が来る、もしくは他国へ嫁ぐとなれば多少はそれらが収まる可能性があるとの考えだ。


 他国籍の者に宮廷魔術師の地位を渡すわけにはいかないが、コンスタンツがベリフェスを婿に取るという形が一番良いとのことだった。


 それを聞かされたアーデルの返答は「ああ、そう」だったが。


 そもそも婚姻とか結婚についてよく分かっていないアーデルとしては、本人同士がいいならいいんじゃないか、くらいの認識だ。ばあさんと慕った魔女アーデルとウォルスのことを考えると結婚という契約がどこまで大事なのかよく分からないというのが正直なところだが。


 それらのことを踏まえると、このまま王都にいるのは多くのことに巻き込まれて煩わしい。そう判断したアーデルはすぐに準備を整えてアーデル村へと向かうことにしたという経緯だ。


 アルデガロー王国の王都でアルバッハと別れ、そこから北上、アーデル村まで戻るというルートだが、さすがのゴーレム馬車というべきか、本来なら二週間近くかかりそうな移動を経った三日ほどで移動した。


 事前に鳥ゴーレムでメルディーやフロストに帰る旨の手紙を送っていたのだが、その翌日には着いてしまったということで二人に文句を言われた。


「もう、アーデルお姉ちゃんたちはお出迎えの準備もさせないなんてマナーがなってない」


「フロストちゃんの言う通りよ。一日で何の準備をしろって言うのかしら」


「早く帰ってきたのになんで怒られるんだい?」


 アーデルとしては町ぐるみで出迎えの準備されていたので逆に助かったという感じだ。逆にコンスタンツは、しまった、という顔をしている。


「凱旋ということでパレードをしてもよかったですわね。不覚ですわ!」


「別に戦って帰ってきたわけじゃないだろうに」


 それにこんな小さな村でパレードをしてどうするという気持ちもある。馬や馬車に乗って村を移動するなんて五分とかからないのだ。


 ただ、パレードはともかく、明日はお祭りということになった。なにやら楽し気な雰囲気を感じ取った水の精霊たちが噴水で色々準備していたのだが、アーデル達が思いのほか早く帰ってきたのでしゅんとしているのだ。


 そんな理由から明日は「精霊祭」を実施することになった。


 主役がアーデル達から水の精霊たちに変わったことでやる気が倍増したのか、現在、急ピッチで噴水が豪勢になっていく。そして村長を含め、村の人達も我先にと準備を始めた。


 そんな状況をアーデルは冷ややかな目で見ている。


「別にいいけどさ、そこまではしゃぎたいのかね?」


「領主が仕事から帰ってきたのですからこれくらい当然ですわ! それに普段の不平不満を解消するためにもお祭りは重要です。実は魔女祭とかも考えていたのですが、この村の最初の祭りは精霊祭ですわね!」


「……魔女祭って何をするんだい?」


「魔女アーデル様を讃えるお祭りです。とはいっても、魔女アーデル様の功績を忘れないため、子供たちに人形劇を見せたり、本の読み聞かせをするくらいの内容でしたが。あと、皆さんで魔女様の恰好をするのもいいですわね!」


「……コニーにしてはいい案じゃないか」


「なぜ、わたくしにしては、と付けたのですか? わたくしの案はいつも最高ですわ!」


「待ってください! そういうことなら聖女祭もいいと思います! クッキーを振舞いますよ!」


「フィーはようやく完全復活したんだね」


 ついさっきまで本調子ではなかったオフィーリアだが、ようやく力が戻ったのか、いつもより肌の張りがいい。


「緊張が限界を突破して死の淵をさまよっていましたが完全復活しました! ああ、ここは私の安住の地……!」


「もう大丈夫なのかい?」


「はい、お騒がせしました。ところで王様に会った直後は記憶が曖昧なんですけど、失礼なことをしてませんよね?」


「してないよ。むしろ褒めてたくらいさ」


「そうですか。何を言ったのかよく覚えていないんですけど、失礼がなければ安心です! 王様は不敬とか言ってすぐに牢屋にいれちゃうんですよ!」


 失礼はなかったが逆にシャルナンド王の関心を引いたということは黙っておこうとアーデルは思った。ベリフェスが持ってきたシャルナンド王からの手紙はオフィーリア宛が一番多かったのだ。


「サリファ教の聖女として立派だったと聞きましたよ」


「メイディー様! よく覚えていないのですが、何とかなったのならよかったです!」


「ジーベイン王国にいるサリファ教の皆さんから色々と情報が伝わってきましてね、それはもう立派だったと絶賛していますよ」


「私もやるときはやると証明されましたか……!」


「ええ、緊張で息も絶え絶えだったのに、別室まで運んでくれた貴族の方を気遣ったとか。えらく感動されて皆さんに聖女オフィーリア様は素晴らしい方だと触れ回っています。私も鼻が高いですよ」


「……実は覚えていないんですけどね。私、何したんだろう……?」


 その状況にアーデルも鼻が高い。


 オフィーリアを運んだ貴族は王族と関係が悪い公爵家の派閥だったらしく、王からの依頼ということで最初はかなり混乱、もしくは罠ではないかと警戒していたらしい。


 ただ、オフィーリアに付き添った後に関しては派閥なんて関係ないと言わんばかりの状態でオフィーリアを褒めたたえ、今度はその周辺がかなり混乱しているとのことだった。


 それを教えてくれたのはベリフェスで理由についても説明してくれた。


 その貴族の女性は顔に傷の跡があったようで、それをオフィーリアが治したとのことだった。貴族の女性としては致命的だった顔の傷、それを傷跡が全く分からないほど見事に治ったことで本人はもとよりその伯爵家自体がオフィーリアに感謝しているとのことだった。


 今ではサリファ教やシャルナンド王のところへ「聖女オフィーリア様を呼んで欲しい」と直談判する貴族も増えているようで、それがシャルナンド王からの手紙の数にも影響していたという話だった。


 一度治ってしまった古傷を治すには相当な魔力と複雑な魔法陣が必要になる。魔法陣の方は勉強でどうとでもなるが、魔力の出力は一気に増えたりはしない。


 緊張で色々と限界だったオフィーリアは本来以上の魔力を出せたのではないかとアーデルは睨んでいる。そして一度出せてしまえば魂や体が魔力循環の効率を上げる。その証拠にオフィーリアの魔力はエルフの国へ行った時よりも増大した。


(魔力――魂というのは面白いね。緊張のしすぎて魔力の出力が上がるなんてフィーらしいけど)


 それはそれとして、自分もまだまだ成長できるのではないかとアーデルは思う。


 世界樹の頂上で出会った神、オーベックは別の世界でアーデルは時の守護者に勝てなかったと言った。ならば、自分が初めて時の守護者に勝てばいい。


 皆がお祭りの準備をしている中、アーデルはオフィーリアを見つめながらそう心に思うのだった。


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