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謁見と認識の訂正

 

 王族の離宮ホワイトパレス、その一室にあるテーブルにはこれでもかというほど豪勢な料理が並んでいた。


 肉類のような料理ではなく、ほとんどが菓子類で飲み物も酒類はなく果汁のみ。昼前に食べる量ではないが、もてなしの気持ちがあるということはよく分かる。


 アーデル達はそんな料理が並んでいる長テーブルに片側一列に並んでおり、対面にはシャルナンド王がいる。


 アーデルの左側にはオフィーリア、そして右側にはコンスタンツが座っており、さらにその右側にはアルバッハが座っている。アーデルの正面にはシャルナンド、その右後ろにはベリフェス、左後ろにはここまで案内してくれた初老の男性が立っていた。


 本来であれば王族と同じテーブルで食事をするなど相当な貴賓扱いなのだが、アーデル達はその「相当」な扱いなのか、コンスタンツやアルバッハが驚いている間に座るように促されるほどだ。


 アーデルは何の遠慮もせず、オフィーリアは気持ちがいっぱいいっぱいなのか、言われたとおりにしか動けないほど。なのでコンスタンツもアルバッハも、まあいいか、と椅子に座った。


「この度は私の申し出を受け入れてくれて本当に感謝しているよ。ぜひとも話を聞かせて欲しいと思って招待したのだが、色々と巻き込んでしまって申し訳ないね!」


 本当に申し訳ないと思っているのか怪しいところだが、頭を下げて謝罪をしているのだから受け入れないわけにもいかない。見た目はともかく王が頭を下げているのだ。


 それを見たベリフェスは両目を右手で抑えるようにして天を仰ぎ、初老の男性は苦笑いをしている。それだけでアーデルは異例のことなのだろうとは思えた。


 ただ、確認しなくてはいけないことがあるとアーデルは口を開く。


「一つ聞きたいんだけどね」


「おや、質問かな? 何でも聞いてくれ」


「アンタ、本当にこの国の王なのかい?」


 その問いかけに緊張が走る。オフィーリアだけは緊張で何が起きたのか分かっていないようだが、アーデルは一国の王に本物かと尋ねたのだ。不敬だと言われて当然のことをやってのけた。


 そもそも庶民は王の顔など絵画くらいでしか知らないが、王に謁見する予定は前々から決まっていたこと。王の顔を知らないなど準備不足というよりも馬鹿にしているとしか言えないのだ。


 だが、シャルナンドはまったく気にしていないようだった。


「自分の証明はなかなか難しいね。だが、間違いなくこの国の王であるシャルナンドだ。君が怖くて影武者を用意していると思ったのかな?」


「いや、そもそも顔を知らないんだよ。確認だけど偽物だろうとなんだろうとアンタと話をすれば終わりでいいんだろうね? 後で本物とも話をしてくれと言われても嫌だよ」


「なんで全部言うんですか!」


 コンスタンツが隣からアーデルにツッコミを入れる。


 影武者を疑っているという形で不敬をなしにしようとした相手に対して、顔を知らないとまで言ってしまえば不敬が確定。できるかどうかは別として捕らえられてもおかしくはない。


 相手がそういう風にしようとしていたとコンスタンツが説明すると、アーデルは眉間にしわを寄せながら口を開く。


「そんな面倒なこと知ったこっちゃないよ。私がここにいたくているとでも思ってんのかい。文句があるならとっとと帰らせな。それにこんなことでアルデガロー王国にいちゃもん付けるようなら受けて立ってやるよ」


 これまた問題発言だが、その言葉に笑ったのはシャルナンドだ。口を大きく開け、満面の笑みで笑っている。


「いやいや、さすがはアーデル殿だ。一国の王に対しても態度を変えるつもりはないのだろう。だが、それでこそだ。リゲル、ベリフェス、この場において不敬というものは存在しない。良いな?」


 ベリフェスとリゲルと呼ばれた初老の男性は恭しく頭を下げる。それを確認したシャルナンドは改めて笑顔を作ると、アーデルを見て口を開いた。


「先ほどの質問だが間違いない。たとえ私が偽物だとしても私と話をするだけで今回のことは終わりだ。別の人と対面するなどはないから安心してほしい」


「そうかい。ならいいんだけどね」


 話をしたいという依頼うんぬん関係なしに、アーデルは目の前の男が本物だと認識した。先ほどのベリフェス達に向けた命令だが、そういうことに慣れしていると思えたからだ


 アーデルは目の前にあるアップルパイらしきものを一切れ手に取って口に入れた。オフィーリアもたまに作る食べ物だが、それに負けず劣らず美味しいと思える。


 となりでコンスタンツが「まだ食べていいとは言ってないですのに……!」と言っているが、アーデルには関係ない。出されているのに食べていけない理由があるなら教えて欲しいものだ。


 上品な美味しさのアップルパイを飲み込んでからシャルナンドを見た。


「それで私と話をしたいって何の話をしたいんだい?」


 シャルナンドはその言葉に微笑むと、アーデルと同じように目の前にあるアップルパイを一切れ、手に取った。ベリフェスが困惑したような顔をしたが、シャルナンドからは見えないのか、構わずに口に入れた。


「ふむ、こういう食べ方もなかなか美味い。それを知っただけでも有意義だが、知りたいのは魔女アーデル殿のことだ」


「ばあさんのこと?」


「うむ。アルデガロー王国には魔女アーデル殿がいた。その報復が怖くて近隣国は多くの無茶を受けざるを得なかった。そのあたりの事情はご存じかな?」


 アーデルはアルバッハとコンスタンツの方を見る。二人は顔に出していないものの、心の中ではばつが悪いと思っているのだろうと推測した。


 魔女アーデルは自ら魔の森へと行ったが、アルデガロー王国は魔女アーデルを不気味な存在として扱っていた。宰相に化けていた魔族の策略ではあるが、アルデガロー王国の当時の王ディグレスがアーデルに怯えていたのも事実だ。


 にもかかわらず、何かをすれば魔女アーデルが報復すると散々利用していたという過去がある。アーデルとしてはあまり思い出したくないことだ。


「もちろん知ってるさ」


「なら実際に魔女アーデル殿は存命中に報復するようなことがあっただろうか?」


「答えてやってもいいけど、先に質問の意図を聞いていいかい?」


「単なる興味というだけでは納得しないか……そうだな、我が父、先代の王はそれに関してかなり悩んでいたと言える。アルデガロー王国がこのまま国に攻め込んでくるのではないかとね。魔族の王との戦いで疲弊しているのに、今度はアルデガロー王国に理不尽なことを言われたからね。それが父の寿命を縮めたと言っていいだろう」


 これにはアルバッハもコンスタンツも少しだけ顔に出てしまった。


 それに気づいたシャルナンドは大丈夫というように二人に微笑みを返す。


「昔のことだし、君達二人がどうこうという話でもない。若くして国を受け継いでしまったということで文句を言いたいとは思うが、文句を言うなら先々代の国王であるディグレス殿に対してだろうから安心したまえ」


「理由は分かったよ。なら答えるけど報復はしなかっただろうね」


「魔女アーデル殿は戦争に参加はしなかったと?」


「自分の意思ではやらなかったと思うよ。ただ、ウォルスが危ないとかになったら参加した可能性は高いかもしれないね。ウォルスからの要請でも参加した可能性は高いとは思うけど」


「ウォルス……四英雄のウォルス殿か。なるほど、以前、二人は恋人同士だったと聞いたことがある」


「まったく、魔族たちは何がしたかったのかね。ばあさんを不幸にすることが魔族の王を倒された復讐になるとでも思ってたのか……全くつまらないことをしてくれたよ」


 そのおかげでアーデルが生まれてきたとも言えるが、それはそれとして何をしているんだと言いたくもなる。


 それを思い出してイライラしてきたアーデルは目の前の食べ物を両手で掴むとバリバリと味を楽しむことなく食べた。


 そんな中、オフィーリアがちょっとだけ右手を上げて「あ、あの!」と少し裏返った声で言葉を発する。


 それに対してアーデル達は不思議そうな顔をしたが、シャルナンドが微笑みを向けた。


「サリファ教の聖女オフィーリア殿か。なにか言いたいことが?」


「ふ、不敬ではありますが! て、て、訂正した方がいいところが、あ、ありまして……!」


「訂正? ほう? どの部分かな?」


 アーデル達はさらに不思議そうな顔をする。どこにも訂正するような部分はなかったはずだと全員がオフィーリアを見つめた。


「ま、魔女アーデル様とウォルス様ですが、よ、読まれることはなくとも、お、お互いに手紙を書くほど、お、想い合っていましたので、い、以前に恋人同士だったわけではなく、ず、ずっと恋人同士だったかと!」


 オフィーリアはそこまで言うと、大きく息を吐きだしてから近くにあったコップを掴み、ごくごくと飲みだした。それはアーデルのコップだったが、それに気づくことなく全てのみ干した。それでも緊張が収まらないのか、目の前にあったスイーツも食べ始める。


 その姿に全員がぽかんとしていたが、アーデルが笑い出した。


「確かにフィーの言う通りだね。ばあさんとウォルスは亡くなる直前までお互いに手紙を書いていたよ。読まれることはなかったし、五十年近く会うこともなかったけど、二人はずっと恋人同士だった。悪いけど認識を変えてくれないかい?」


 その言葉にシャルナンドも改めて笑顔を作る。


「なるほど。確かに私の認識が間違っていたようだ。オフィーリア殿、重要なことを教えてくれて感謝する。これは国で作る歴史書にも明記しておこう」


「ひゃ、ひゃい! ――うぐ、うぐぐ!」


 いきなり話しかけられたというわけでもないのだが、何かを食べていたところで無理に返事をしようとしたのがまずかったのか、オフィーリアは喉を詰まらせた。


 アーデルは優し気な顔でそんなオフィーリアの背中をゆっくりさするのだった。


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