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魔女の強さ

 

 アーデルは魔道具の反応があった城の最上階へ突撃した。


 壁があったとしても関係なく、魔法でぶち破って部屋へ足を踏み入れた。


 アーデルとしては問題ない行為なのだが、一緒にいるオフィーリアは違う。生きた心地がしないほどだ。


「ア、アーデルさん! な、なにしてるんですか!?」


「なにって魔道具を回収しに来たんだよ」


「それはいいですけど、普通、部屋には扉から入るんですよ!」


「馬鹿にしてんのかい。それくらい知ってるよ」


「壁をぶち破ったじゃないですか!」


「クリムやオフィーリアをさらった奴らの砦だよ? 行儀よくする必要なんてないじゃないか」


「行儀が悪くても普通は扉から入るんですよぅ……」


 オフィーリアは腰を抜かしているのか、床に座って動けないようだった。


 とりあえず放っておき、アーデルは魔道具を探そうと周囲を見渡す。


「へぇ、ずいぶんといい趣味だね」


 もちろん褒めたわけではなく皮肉だ。部屋は金銀財宝、さらには多くの魔道具が置かれているが、アーデルの感覚では品がないと思えた。


 誰かの執務室なのだろうが、こんな場所にいいたら頭が痛くなるだろうと思いつつ、アーデルは水の出る魔道具を探す。


 それは簡単に見つかった。持ち込まれたのがつい今しがただったのか、机の上に置かれていたのだ。


 アーデルはそれを亜空間へ入れた。


「さて、ようやく取り戻せたよ。まだ一個目なのに前途多難だね」


「ええと、おめでとうございます?」


「ありがとうよ。さて、後はクリムを連れて村へ帰るかね」


 アーデルはそう言って腰を抜かしているオフィーリアを立たせた。


「歩けるかい?」


「い、一応……あの、本当に村長さん達は……」


「何を言われたか知らないが、私が助けておいたから安心しな。それに火傷を治す薬も置いてきた。あれは私の中でもなかなかの出来でね、帰った頃には火傷の痕も消えているさ」


「……それ、本当に薬ですか?」


 当たり前だろうと言いかけたところで、部屋の外が騒がしくなってきた。そして勢いよく扉が開く。


 先ほどの隊長が扉を開けたようで、怒りの形相でアーデルを睨んだ。


「貴様! 何をしている!」


「魔道具を回収に来たんだよ。これはもともとばあさんの物だからね。他の物には手を出さないから安心しな。アンタの物かどうかは知らないけどね」


 隊長はギリギリと奥歯を噛んでおり、こめかみには血管が浮いているほどだ。


「それじゃ邪魔したね。見送りはいらないからそこをどきな」


「このまま帰れると思っているのか!」


「なんだい? 邪魔できるとでも思っているのかい?」


 隊長は怒りから一転、口角をあげてアーデルを見下すように見る。


「お前はアーデルの名前を受け継いだ魔女だそうだな? この砦が何のためにあるのか知らんのか?」


「ばあさんが攻め込んできたときのために建てたんだろう? 無駄なことに金をかけたね。ばあさんなら二時間と掛からず更地にできるよ」


「ハッ! 死んだ奴の事ならなんとでも言えるな! 魔女が森から出てこなかった理由がこの砦にあるとなぜ思わん!」


「ばあさんがこの砦を怖がって森から出てこなかって言ってるのかい?」


「当たり前だ! 伝説の魔女と言っても話に尾ひれがついた詐欺師――どうせ他の英雄達と一緒にいただけの女だ! 貴様もくだらん奴の名前を受け継いだな!」


「……そうかい。それがアンタの――アンタ達の考えか。なるほどね」


「いいか、いまさら命乞いをしても意味は――」


 ない、そう言いかけた隊長は止まる。


 アーデルの身体から膨大な魔力が溢れ出したのだ。その魔力に触れた隊長は激しい痛みを受けた。


「ぐっ!」


「私のことは何を言われてもいいけどね、ばあさんを馬鹿にする奴は許さないよ。言っておくが、ばあさんは私の数倍は強かった。こんな砦を更地にするくらい簡単だと私が証明してやろうじゃないか」


 隊長は後ろに下がると近くにいた兵士に指示を出した。


「対魔法部隊! あの女を取り押さえろ! 殺しても構わん!」


 隊長がそう言うと、複雑な模様が描かれた鎧を着ている兵士達が入ってきた。アーデルの魔力に触れても特にダメージを受けている様子はなく、武器を構えたまま近寄ってくる。


「そいつらに魔法は効かんぞ!」


「へぇ、面白いじゃないか。でも、こんなのが切り札だとは言わないだろうね?」


 アーデルは念動力の魔法を使って部屋にある金貨を宙に浮かせた。それを高速で投げつける。


 念動力は魔法だが、金貨は魔法ではない。それを高速でぶつけられて鎧を着た兵士達が吹き飛び、壁に激突した。鎧がへこむほどの衝撃を受け、痛みで床を転げまわっている。


「な、な……」


「急所は外してやったから後で治療でもしてもらいな。さて、二時間で更地にできるか試そうじゃないか」


 そしてアーデルの破壊が始まった。




「迎えに来てくれたと思ったらいつの間にか砦が崩壊しているんだが……ずいぶんと短時間でやったな」


「やだね、そんなに褒めないでおくれよ」


「褒めてない。呆れてるんだ」


 地下の牢屋に閉じ込められていたクリムドアは地上で騒ぎがあるのに気づいていたが、まさか砦を破壊しているとは思っておらず、何をしているんだとずっと疑問に思っていた。


 しばらく経つとオフィーリアが牢屋へやって来て鍵を開けてくれた。そして外へ出てみると、砦を囲んでいる壁や城が全て破壊され瓦礫と化している。呆れるなという方が無理だろう。


「ばあさんのことを悪く言われたんでね、つい、カッとなっちまったよ。さてと――」


 アーデルはそう言って座り込んで呆然としている隊長の前に立つ。


 隊長の怯え方は尋常ではなく、何もしゃべれないほどだった。


「次はもっと強固な砦を建てるんだね。私でも二時間持たないなんて拍子抜けだから。こんなものでばあさんを止めていたなんて金のかかる冗談はもうやめた方がいいよ。まあ、一応は笑えたけどね」


 そう言ってアーデルは笑った。


 クリムドアはいまだに呆れていて、オフィーリアは「ははは」と乾いた笑いをしている。


「ああ、そうそう。寝床がなくても村には来るんじゃないよ。アンタのせいで村が焼かれてベッドがないからね。それに今度手を出したら、こんなもんじゃすまないからそれも覚えておきな」


 隊長はその言葉にびくっとなるが、口をパクパクさせるだけでしゃべることはできなかった。


「さて、それじゃ帰ろうか。もう夜も遅いからね」


「アーデル――様!」


 帰ろうとしたアーデル達の前に門番だった男が立ち塞がる様に現れる。


「ああ、アンタには世話になったね。でも、見送りはいらないよ。それとも私に一矢報いるつもりかい?」


「い、いえ、そんなことは……こ、この度は大変申し訳なく――」


「そんな口だけの謝罪はいらないよ。アンタの隊長が村を襲ったことを謝りたいっていうなら、あの隊長とやらの悪事を暴いてしかるべき処置をしな」


「は、はい、それは、必ず」


 アーデルは少しだけ考えて、亜空間から薬を大量に取り出した。


「アンタみたいな奴らも巻き込んだのは悪いと思うから薬をやるよ。私が調合したものだが効くはずさ」


「よ、よろしいのですか?」


「構わないさ。瓦礫で怪我をした奴もいるだろうからね。それとこっちはちょっと特殊でね、塗ると傷は塞がるが死ぬほど痛い。隊長に塗ってやりな」


「……分かりました。しっかり塗り込んでおきます。それとしかるべき処置も」


「任せたよ」


 アーデルはそう言ってオフィーリア達と歩き出した。


 しばらく歩いたところでクリムドアが口を開く。


「アーデルなら殺すかと思ったんだがな。怪我はさせても死者はなしか」


「ばあさんが言ってたんだよ。魔法で人間を殺せば魔力が汚れるってね。だから極力殺しはなしだ。まあ、村長達が死んでいたらそんなの関係なくやってたけどね」


「そ、それなんですけど、本当に村長さん達は――」


「何度も言っているように無事だよ。ただ、家が燃えちまったから今日は野宿になるだろうね。まあ、オフィーリアが顔を見せて美味い物でも食わせてやれば今日くらいは問題ないさ」


「分かりました! とびきり美味しいものを作りますよ!」


「そうしてやりな。ところで今日貰ったクッキーっておやつはうまかったよ。あれはなんだい?」


「なんだいと言われてもクッキーとしか言いようがないんですが。奮発して砂糖をたっぷり入れましたけど」


「ほー、いいじゃないか。実は砂糖が好物なんだよ」


「砂糖そのものが好物だっていう人は初めて見ました……それじゃ砂糖を使った料理――お菓子の作り方をお教えしますね」


「そいつは楽しみだね」


「ちゃんと塩を使う料理も教えてやってくれ」


 そんな懇願をするクリムドアに、アーデルとオフィーリアは笑う。


 その後、どんな料理を学ぶのがいいかと話し合いをしながら、満天の星空の中、村へ向かって二人と一匹は歩くのだった。


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