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魔法を無効化する魔法

 

 時の守護者はオフィーリアの姿になった。


 ただ、その姿は禍々しいもので普段のオフィーリアではない。黒い修道服に血を思わせる模様が描かれており、頭のヴェールはない。背中には黒い粒子で作られた翼のようなものがあり、その姿は不吉の象徴のようだった。


 そして名乗ったのは「魔女殺しの聖女」。


 それはクリムドアがいた二千年後の世界でアーデルを殺したとされるオフィーリアの二つ名。


 実際にアーデルを殺したかどうかは不明で真実はクリムドアも知らない。


 ただ、二人は何度も戦い、いつのころからかアーデルは歴史から姿を消した。オフィーリアは何も語らず、孤児院で子供たちを育てながらその生涯を閉じた。


 それがクリムドアが知っている内容だ。それはアーデルにも教えてあるが、アーデルはそんなことはなかったと確信している。


 何かしらのすれ違い――オフィーリアがいた村を襲ったのがアーデルという推測から戦いはあったのだろうが、どんな世界であったとしても、オフィーリアが自分を殺すとは思えないのだ。


 アーデルはクリムドアの知っている歴史には何かしらの抜けがあると確信している。なので時の守護者が模倣しているオフィーリアを目の前にして、アーデルは今までにないほどの怒りを覚えた。


 オフィーリアにそんなことを言わせるな。お前がオフィーリアの何を知っている。一秒たりともお前の存在など認めない。そんな感情が渦巻くアーデルは最初から全力で魔力を解放した。


 それにはクリムドア達はもとより、リンエールも驚きを隠せない。その濃い魔力は周囲やオフィーリア達を侵食する勢いであったため、コンスタンツが慌てて結界を張ったほどだ。


 そしてその怒りが時の守護者にも伝わったのか、二歩ほど後ろに下がった。


「消えな!」


 どんな魔法陣が構築されたのかも分からないほど複合的な魔法が一気に時の守護者へ襲い掛かる。時の守護者も作っていた魔法陣で反撃したが、そんなものはお構いなしと連続で魔法を叩き込んだ。


 その場にいられないと判断したのか、時の守護者は飛ぶ。黒い粒子の翼がはためき、この空間を飛び回った。それはかなり素早く、アーデルの攻撃が追い付かない。


「フィーは飛ぶのが下手なんだよ!」


「アーデルさん!?」


 オフィーリアの姿をした時の守護者に言ったのだろうが、飛び火した感じになったオフィーリアが声を上げる。


 本当のオフィーリアはそんな風に飛べないという意味だったのだろうが、名指しでそう言われたオフィーリアは少しへこんでいた。


「カ、カ、カ」


 時の守護者が飛び回りながら、オフィーリアの顔で嗤う。


「コレハ、ベツノ、セカイノ、カノウセイ、ダ。ソレヲ、ヨビダシタ。マギレモナク、コレハ、オフィーリア、ダ」


 その言葉にアーデルは目が吊り上がる。


「くたばりな!」


 耳を塞がなければならないほどの轟音と共に雷が時の守護者を襲う。さすがに雷を躱すのは難しいのか、時の守護者に直撃する。


 時の守護者は力を失い、地面へと落ちた。だが、アーデルの攻撃は止まらない。その場所へ更なる魔法を打ち込む。


 炎、風、雷、そして分析ができない白い光線。そのすべてが時の守護者のところへ打ち込まれる。


「私と同じ顔なんですけどね……」


 服装はともかく、顔はそっくりのオフィーリアに対して何の躊躇もなく攻撃を仕掛けるアーデル。オフィーリアとしては思うところがあるのか、複雑そうな顔でそれを見ていた。


 そしてクリムドアとコンスタンツがオフィーリアの肩に手をのせて慰めている。


 その後、長い時間アーデルの攻撃が続いたが、ようやく落ち着いたのか攻撃を止めた。この場には魔法で作った光しかないのでアーデルからは良く見えないが、時の守護者は倒れたままだ。


 魔力配分など全く考えずに攻撃したため、アーデルは魔力がほとんどなくなり、肩で息をしている。


 コンスタンツは結界を解くと、オフィーリア達と共にアーデルに近づく。


「アーデルさん、やりすぎですわよ?」


「……はっ、やり足りないくらいさ」


 そうは言いつつも、アーデルはかなり辛そうにしている。魔力効率などを全く考えない最大出力の攻撃をあれほど短時間に行ったので、相当な負荷がかかっていたのだ。


「待て! 気を抜くな! 時の守護者は生きてるぞ!」


 クリムドアが叫ぶ。


 その直後に倒れていた時の守護者が高速で飛んできた。


 アーデルとコンスタンツは慌てて結界を張るが、時の守護者はそれを殴るだけで破壊した。その衝撃でアーデル達は弾き飛ばされる。


 時の守護者は右手で倒れているアーデルの首を掴む。そして片手のまま持ち上げた。


 アーデルは地面に足が付かずに呻く。


 先ほどから残った魔力を使って魔法陣を構築しようとしているのだが、何かに邪魔されているのか分散されていた。


「ぐ、ぐ……!」


 アーデルは時の守護者の腕を両手で掴むが、その程度で離すわけもなくアーデルを見て笑った。


 そして「アー、アー」というと、口角を上げる。


「何度お前と戦ったと思っている? お前と魔法勝負で勝てるとは思っていない。だからこそ体を鍛え、身体強化の魔法を血を吐くほど訓練した。おかげでお前の魔法攻撃にも耐えられる体を手に入れたよ」


 活舌が良くなった時の守護者はそう口にする。それはオフィーリアの声と同じだった。


「が、がはっ……!」


「ああ、勘違いするな。時の守護者としてではない。魔女殺しの聖女としてだ。異世界のオフィーリアから知識と技術を手に入れるまで時間がかかったが、ようやくなじんだ。今の私は間違いなくお前と戦っていた魔女殺しの聖女だ」


「ふ、ふざけんじゃないよ……!」


「ふざけてなどいない。前回のパペットも他の世界から呼び出したものだったが、なじむ前に倒されたのでな。今度はそうならないようにしたが、上手くいったようだ。さて、お別れだ、存在しない魂よ。何者かは知らぬが、お前が消えれば世界は予定通り滅ぶ。ここで死ね」


 時の守護者は手に力を込める。


 だが、次の瞬間にその腕が切れた。アーデルはすぐさまその腕を放り投げるが、かなり苦しかったのか、かなりむせている。


「ここで騒ぐな」


 腕を切ったのはリンエールの風の魔法。一瞬で時の守護者の腕を切り落とした。


 だが、時の守護者は特に何もなかったかのように腕を拾い上げて切れた場所に腕をつなげる。すると、すぐに腕は接合された。その後、指が動くことを確かめてからリンエールに視線を向ける。


「あの時のエルフか」


「あの時? お前に会ったのは初めてだが?」


「魔国で会っただろう。あの時は魔族の王であるクリムドアの姿だったが」


「なんだと?」


「アーデル、ウォルス、グラスド、そしてお前……本当に余計なことをしてくれた。世界が滅亡するまでの時間が大幅に伸びてしまったではないか」


「お前は一体……」


「あらゆる世界は滅ぶ。それを正すために私がいる。お前達がやったことは大罪だと知れ」


 時の守護者が高速で飛ぶ。


 リンエールは結界を張ったが、先ほどのアーデル達を同じように殴っただけで結界が破壊された。


「無駄だ。オフィーリアが開発した魔法を無効化する魔法の前ではお前に勝ち目はない」


 時の守護者の拳がリンエールを襲う――が、そうなる前に時の守護者は地面に仰向けで倒されていた。


「なに……?」


 いつの間にかオフィーリアが時の守護者の攻撃をいなしつつ、背負い投げで床に叩きつけていた。


「サリファ様は言いました。戦闘中にべらべらとしゃべる奴は倒されるフラグだと!」


 直後にオフィーリアは時の守護者に自身の魔力を流す。


「貴様……! 何を……!」


「その魔法はメイディー様が研究されていた魔法です。別の世界の私は自分で開発したんでしょうけど、それには弱点があるんですよ」


「弱点だと……?」


「メイディー様が言ってました。魔法を無効化するのは表面だけだと。つまり、直接触れて魔力を流し込む攻撃には弱い。しかもその魔法中は魔力が外へ出ない。つまり……」


「ぐっ!」


「濃い魔力は体を蝕むそうです。今、私ができる最も濃い魔力を流し込みました」


「なんだと……!」


「アーデルさんとの戦闘でダメージを受けている貴方なら私の魔力でもかなりの毒でしょう。魔法を無効化する魔法は自身の魔法を無効化できません。貴方の魔力が無くなるまでそのままです」


「お、おのれ……!」


「最後に言っておきますが、どんな状況であろうとも私はアーデルさんを殺したりしません。そんな可能性は微塵もありませんので、もうさっきの二つ名は名乗らないでください。私はアーデルさんの友人である聖女オフィーリアです」


 時の守護者の体が痙攣すると、その体が崩れ灰となった。そして風もないのに灰は飛び散り、そこには最初から何もなかった状態になる。


 直後に世界樹の壁から光が差し込んだ。


 アーデルはようやく落ち着くと、オフィーリアの方を見た。


 差し込んだ光を見上げるオフィーリアは、その光で髪がキラキラと輝き、まさに聖女のようだと柄にもなくそんな風に思ったのだった。


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