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未来の知識

 

 クリムドアはリンエールに対して子供の病気を治してやると言った。


 自分には未来の知識があるとも言った以上、こちらの事情を全部伝えるつもりなのだろうとアーデルは考える。この場を穏便に済ませるならそれがいいのかもしれないが、問題はこちらの話をリンエールが信じるかどうかだ。


 その懸念通り、リンエールは目を細めてクリムドアを見ている。リンエールにとってこの問題はアーデルを裏切ってまで叶えたいこと。それを嘘くさい話で治してやると言われれば怒り出してもおかしくはない。


 そこまでではないようだが、時間が経つにつれリンエールは敵意をむき出しにしている。


 そんな状況でもクリムドアはどこ吹く風だ。自信があるのか、何も考えていないのかは分からないが、態度からすると自信があるのだろう。


 ただ、リンエールは偽物の英雄と自分で言っても、魔族の王を倒した英雄の一人。アーデルはあまり怒らせるなよとクリムドアに言いたくもなる。その力は未知数だが間違いなく強いのだ。


 そのリンエールはクリムドアを睨んだ。


「未来の知識があるだって? この幼竜は何をいってるんだ?」


「そのままだ。俺は未来から来た。約二千年後だな」


「それはすごいな。未来は平和か?」


「いや、滅亡寸前だった。おそらく俺がいた世界は滅亡しただろう」


「それは残念だったね」


「お前は最後まで生き残ったエルフとして噂になっていたが、そのあとどうなったのかは知らないな」


「なんだって?」


「おそらくだが、二千年経っても娘さんを助けられなかったのだろう。何かしらの魔法を使って延命しつつ、ずっと娘さんを助けようとしたんじゃないかと思っている」


 今度は確実に殺気を放った。リンエールの両手には魔法陣が高速で構築され、風による刃がクリムドアを襲う。


 だが、それと同時にアーデルの魔法陣を構築し結界を張った。かなりギリギリだったので、アーデルは大きく息を吐く。


「クリム、いちいち怒らせるんじゃないよ。間に合ったからいいけど、今のは危なかったよ」


「もうすでに怒ってる。こういう場合は極限まで怒らせた方が話が早い。それにアーデルなら助けてくれると信じてたからな」


「人を試すのは止めな」


 信用されているのは嬉しく思うが、こんな形で試されるのは困る。やっぱりクリムドアの夕食は減らしてもらおうとアーデルは心に誓った。


 そんな誓いには全く気付かないクリムドアはリンエールに話しかける。


「エルフの寿命は長くても五百年程度。それに水はあるようだがこんな食料もない場所でリンエールは生きている。魔法で何らかの延命処置をしているのだろう。未来では肉体の植物化や制限や制約をつけることで延命できる魔法もあった。それらは禁呪として扱われていたが、ほとんどが遥か昔のエルフから伝わったと聞いている」


 クリムドアの言葉にリンエールが驚きの表情を見せた。


「俺が見たところ、リンエールはこの世界樹から出られない。いや、この場所から出ないことで延命する魔法を使っていると思う」


「……ただの幼竜でないことだけは分かった。結界を解くといい。もう攻撃はしない」


 クリムドアの指摘どおりなのか、リンエールから殺気や怒気というものが無くなる。話を聞こうと思ったのか、子供が入った水晶のから離れ、最初に話していた場所へと戻った。


 アーデルも結界を解き、クリムドアたちと一緒にその場所まで戻る。


 リンエールは水を一杯だけ飲むと、クリムドアを見た。


「お前の言う通りだ。私はこの場所にいる限り歳を重ねることはない。どこでもできるわけではなく、遥か昔に神が降臨した場所だからできることだがな。数年前に一度下に降りたが、それ以外はずっとここにとどまっている。この場で我が子の病気に関する研究をしていた。あとは神の降臨を願ったり――」


 今度はアーデルの方へと視線を向ける。


「アーデルが秘術を完成させてやってくるのを待っていた。残念ながら、今のところどれも叶ってはいないが」


 リンエールはクリムドアの方へ視線を戻した。


「お前が未来から来たかどうかはどうでもいい。我が子を治せるのか?」


「絶対に治せるとは言わないから期待はしないでくれ。ただ、未来ではほとんどの病気が治せた。それは我が母でもある、竜の神がもたらした知識だ」


「竜の神……? 竜の王ではなく?」


「竜の王だった母は世界のすべてが記されたアーカイブを見て竜の神となった。時渡りの魔法もそこから得た情報だ」


「時渡りの魔法……話半分に聞いておこう。それで私はどうすればいい?」


「娘さんの症状を詳しく教えてくれ。そこから病名を特定して対策する」


 藁にも縋る思いということなのか、未来のことは信用していないものの、リンエールはクリムドアに従って子供の症状を伝えていく。そして、先ほどの魔道具の場所にも行き、水晶の中を指さしては色々と説明していた。


 アーデル達は少々手持ち無沙汰になったので、クッキーを食べながらお茶を飲んでいた。


 そこでオフィーリアが大きくため息をついた。


「サリファ様ってエルフさんの秘術で亡くなったんですね……こんなことを知って私はどうしたら……というか、メイディー様が知ったら、エルフの国と戦争になりませんかね?」


「それは知らないけど、本当にそうなのかね?」


「というと?」


「ただの人――この場合はエルフだけど、本当に神を殺せるのかなと思ってね。なにか勘違いしてるんじゃないのかい?」


 神が降臨したことでこの巨大な世界樹という木ができ、さらには島全体が木で覆われるような場所を見ると、神を殺したこと自体があり得ないと思える。その程度で神を殺せるとは思えないのだ。


 アーデルは神の一柱であるキュリアスに会ったことがある。胡散臭いとは思ったが、倒せるとは微塵にも思わないほどの力の差を感じた。しかも、あれでかなり力を失った状態だと聞いている。


 影響が大きすぎるので神の力をほとんど捨てたとしても、あの怪しげな場所にいるのがギリギリだと言っていた。


 エルフの言う通り、ホムンクルスの体にサリファを入れようとして失敗してから神は降臨していないのだろうが、その程度で殺せるとは全く思えないのだ。


 クリムドアに事情を聞こうと思ったが、今はリンエールと話をしているので、これが終わったら聞こうとアーデルは思う。そうしなければ、オフィーリアはともかく、メイディーにばれたときが大変だからだ。


「勘違いですか。まあ、そうかもしれませんね……となると、クリムさんが言ったサリファ様が亡くなっているというのも勘違いかもしれませんね!」


 アーデルもそれには同意する。そもそも神が死ぬとは思えないのだ。


「まあ、クリムに事情を聞けば――」


 そう言いかけたところで、耳が痛くなるような高い音が周囲に響く。


 壁の隙間から入っていた光がなくなり、階段があった場所も枝で覆われた。


 アーデルはすぐさま光を放つ魔法を使う。


 輝く玉が周囲を照らすと、世界樹の壁や床が腐ったような状況になっていた。


「これは――!」


「アーデル! 時の守護者が来るぞ!」


「クリム! アンタ、何したんだい!」


「すまん! 水晶に触ったらこうなった!」


 自分だけでなく、クリムドアが触ってもそうなるのかとアーデルは舌打ちする。


 よくよく考えればドワーフの坑道でも、グラスドが作っていたゴーレムにパペットが触れた途端に時の守護者が来た。それを忘れていた自分が恨めしい。


「バラバラは危険だ! 集まりな!」


「これは一体なんだ!?」


「リンエールもこっちに来な! おどろいている場合じゃないよ!」


 今まで時の守護者には全戦全勝。だが、今回もそうとは限らない。毎回強くなっているのだ。


 次は何が来るのかと思っていると、世界樹の上の方に黒い淀みが出現した。そこから黒い液体が零れ落ちる。その黒い液体は徐々に人の形になった。


「え? ちょっと、アレって……?」


 オフィーリアが驚きの声を上げる。アーデルを含めた他の皆もその姿を見て驚いた。


 その姿はオフィーリアそっくりなのだ。


「ワ、ワタシハ、マ、マジョ、ゴロシノ、セイジョ……マジョハ、コロス……!」


 黒い服に身を包んだオフィーリアらしき者はそう言うと、背中に黒い翼が生える。そして周囲には複数の魔法陣が浮かび上がった。


 全員が驚く中、アーデルの殺気が膨れ上がった。今度は全員がそれに驚く。


「フィーの姿でそんなことを言わすんじゃないよ!」


 アーデルの魔力が膨れ上がると、偽物のオフィーリア以上の魔法陣が周囲に浮かび上がった。


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