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エルフの森と魔の森

 

 世界樹へ向かっている間、アーデルはどうしようかと悩んでいた。


 エルフたちが女神サリファを殺してしまったらしいが、クリムドアからそんな話は聞いていない。それがオフィーリアに知られたらまずい話だ。ここで暴れる可能性もある。


 このまま何も言わないのが正しい選択のようにも思えるが、モヤモヤした感じが残る。そもそもクリムドアがそんな大事な話を忘れるとも思えない。もしかするとエルフたちの勘違いの可能性もある。


 クリムドアに詳しく聞いてみたいところだが、この場にはエルフもオフィーリアもいて話ができる状況ではない。さてどうしたものかと思いながらエルフの後を歩く。


 正直、なんで自分がそんなことで悩まなくてはいけないのかとアーデルはちょっとイライラしていた。本当に迷惑をかける女神だねと、アーデルの中で女神サリファの評価が下がる。


 そんな状況で三十分ほど歩くと、エルフの集落に到着した。


 名前などはなく、南東の集落程度の認識しかないようだが、エルフたちはそれで困らないらしい。


 一部のエルフは船の上と同じようにアーデルを驚いた表情で見ているが、特に話しかけたり、嫌そうな顔をしたりすることはなかった。どちらかといえば好奇の目だ。それがいいわけではないが、敵対しないならそれで構わないというのがアーデルの考えだ。


「ここの長老に話をしてくる。すまないが少し待っていてくれ」


 案内してくれたエルフはそう言って周辺でも一際大きな木へ向かった。木の上の方に穴が開いているので、そこに長老とやらが住んでいるのだろうと解釈し、アーデル達はその場に留まった。


 暗い森を抜けてきたわけだが、ここは木が密集していないため太陽の光が入る。多少は手入れがされているのか、ほったらかしの草木があるわけではなく整えられている広場だ。


 アーデルが住んでいる魔の森とは全く違い、鳥の鳴き声は穏やかで、リスやウサギなどの小動物が普通に駆け回っている。同じ森なのにこうも違うのかね、とアーデルは思う。


「なんだか平和といいますか、争いなんかないって感じの場所ですね」


 オフィーリアのつぶやきにアーデルは頷く。


「実際ないんだろうね。こういうところに住みたいとは思わないけど、たまにはこういうところでのんびりしたい感じだよ」


 アーデルはそう言って遠いところを見るような穏やかな目になる。


 アーデルは最近になって魔道具の回収が終わったらどうするか、というのを考えるようになった。


 魔女アーデルへの不当な評価に対して人間に恨みを持っていたが、最近ではそのことを思い出すこともない。アルデガロー王国だけなのかもしれないが、今ではアーデルは世界を救った四英雄だと正当な評価がされているからだ。


 正当な評価が得られるように何かしようとは思っていたが、それは叶った。なので、魔道具を回収したあとは特にすることもない。魔法の研究をしたり、新しい薬を作り出したり、フロストの勉強を見てやるか、くらいのことを考えている程度だ。


 魔国へ行かなくてはならないので、まだまだ先の話だとアーデルは考えているが、それでも多少は明るい未来を想像する。怒りや不満に囚われずに生きられるとは思っていなかったこともあって、少し戸惑っているところもあるが。


「同じ森ですのになぜうちの領地の森とは全く違うのでしょう?」


 アーデルがつい先ほど思ったことを、コンスタンツは特に誰かにいうというわけでもなくそう言った。


 その言葉に反応したのがクリムドアだ。


「エルフの森は神の魔力、その残滓が残っていると言われている。逆に魔の森は魔力の吹き溜まりがあって、それが魔物を発生させ、さらに凶暴化させているという話だ」


「その魔物を倒した素材で生計を立てている領地なので文句はありませんが、もしかしてその吹き溜まりがなくなったら魔物が発生しなくなると?」


「可能性はあるな。おそらくだが、あの森はダンジョン化されているのだろう。もしかしたら何かの亜神がいるのかもしれん。未来でも聞いたことはないが」


 ダンジョンとは亜神が作り出す領域。それを使って魔力をあつめ、自分の望みを叶えるという。そのためにダンジョンでは魔物やお宝が際限なく湧き、人間を誘い込もうとしている、というのがクリムドアの言葉だ。


 そしてそれはダンジョン――迷宮に限らない。亜神が作り出す領域には色々な種類があり、迷宮のような閉鎖空間でないものもあるという。


 建物であったり、巨大な魔物であったり、島一つがそうだというものもあるらしい。なので、魔の森も亜神が住み着くダンジョンの一つではないかとクリムドアは推測している。


「私はあの森の最奥まで行ったことがあるけど、そんなものはいなかったけどね」


「亜神そのものが姿を現すとうのは稀だ。フロストが住んでいた場所のダンジョンにはドラゴンゾンビがいただろう? ああいう感じの魔物であることが多い。もしかしたらアーデルはそんな魔物を気付かず倒してしまったのかもしれないな」


「倒したら魔の森じゃなくなっちまうんじゃないかい?」


「亜神を完全に消滅させるのは困難なはずだ。この世界に影響を与えることもできないほど弱っているだけかもしれん。最近は多くの人が魔の森へ入っているからそれで魔力を得ている可能性はあるな」


「お待ちくださいな。それは問題ではありませんか?」


 コンスタンツの意見はもっともである。


 亜神が魔力を蓄えたらどうなるか。それは分からないが、あまりいいイメージはない。魔の森を肥大化させてしまう可能性があるなら、領主としてもう少し慎重に事を進める必要がある。


 だが、クリムドアは首を横に振った。


「確かに問題だが、そんな簡単に魔力は溜まらない。亜神が必要とするような魔力なら何百年という時間が必要だ。のちに対策は必要かもしれないが、今はそんなに問題はないと思うぞ」


「ですが、これは領地で代々受け継ぐべきか課題ですわね。今はどうしてもお金が必要なので魔の森へ入らないといけませんけど、それに頼りすぎてはいけないことだけは分かりました。やはり何かの特産物というか、売りが必要ですわね……!」


 やっていることは強引なところもあるが、領主として頑張るコンスタンツには支持者が多い。一番の理由は村の噴水を自分で掃除していることだが、水の精霊たちに遊ばれているのも好感度が高い理由だろう。


 アーデルとしてもコンスタンツがあの辺りの領主でよかったと思えるほどだ。それを言葉にしたりはしないが。


 そんな話をしていると、案内してくれたエルフが戻ってきた。


「長老の許可は得た。これから世界樹まで案内するが、休憩は必要か?」


「いや、大丈夫だよ。すぐに案内してくれるかい?」


「分かった。ならこっちだ」


 アーデル達はさらに森の奥へと進むのだった。




 それからさらに一時間ほどで世界樹のある場所に着いた。


 最初は何かの壁があると思っていたのだが、それが世界樹だった。入り口が一か所しかなく、世界樹の壁に沿って歩いていたのだが、三十分以上歩いても入り口に着かないというのはアーデル達も驚きを隠せない。


 たしかに船から見た世界樹はかなり巨大だったが、ここまでとは思っていなかったのだ。


 少なくとも5km程度は歩いた。それでも世界樹のほんの一部でしかない。円周がどれくらいあるのか想像もできないほどだ。


「ここが入り口だが、私の案内はここまでだ。中はアーデル達だけで行ってくれ。ちなみに、歩いても行けるが、飛行の魔法を使った方が早く行けるはずだ」


「アンタは私達の監視も兼ねていると思ったんだけど、いいのかい?」


「人間を見る目があるとは言わないが、ここまで来て何か邪悪なことをするつもりなのか?」


「いや、しないけどさ」


「なら構わない。我々エルフは全てを受け入れる。もし、お前達がここで何か邪悪なことをするのなら、それもまた神の思し召しだ」


 潔いのか考えることを拒否しているのかは不明だが、アーデル達にとっては助かる話だ。


「ならその信頼に応えられるように邪悪なことはしないと約束するよ」


「そうしてくれ。私はここで瞑想しながらお前達の帰りを待っている。帰ってきたら声をかけてくれ」


 エルフはそう言うと、世界樹の壁に寄り掛かるように座って目を閉じた。


 アーデル達はそのサバサバとした対応に若干面喰いながらも、世界樹の中へと足を踏み入れた。


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