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苦労人の神

 

 ジーベイン王国の王都にある港から出航して三日、アーデル達は順調にエルフの国へ向かっている。


 国王に会う話に関してはコンスタンツの要望が取り入れられることになった。


 形式にのっとった上で、アルデガロー王国の住人として正式に会う。当然、貴族のコンスタンツや聖女のオフィーリアも一緒だ。


 護衛としてパペットも、という話があったが、こんなヤバイゴーレムは王城へ入れられないとベリフェスが断った。


 ヤバイという評価が嬉しかったのか、パペットは特に文句をつけることもなく、クリムドアと留守番することが決まった。


 代わりにブラッドが四人目として招待されることになった。


 もともとブラッドはこの国だと有名な冒険者。商人としての顔つなぎも望めるため、ブラッドとしては断る理由もなく了承した。


 問題は服装だが、これに関してはジーベイン王国の仕立て屋に頼んだ。


 アーデルはめかし込む理由がなく、オフィーリアは聖女としての礼服があるので改めて必要ではないが、貴族であるコンスタンツは舐められてはいけないと気合を入れて頼んでいた。


 ブラッドは男性なのでそこまで着飾る必要はないが、商人としての力量を見せる必要があるとコンスタンツに言われ、納得した上で採寸を取っていた。


 あくまでもエルフの国から戻ってきてからの話だが、少しでも準備をしておこうと船に乗る前はそれなりに忙しい状況だった。コンスタンツやブラッドは船に乗ってからの方がゆっくりできたと言えるほどだ。


 その船だが、今回はブラッドが現地で貸し切りにした船だ。


 客はアーデル達だけしかおらず、船員たちは何度もエルフの国へ行ったことがあるベテラン。かなり高い金を払っているらしく、他国のアーデル達に対しても特に不平不満を漏らすようなことはない。


 航海は最初だけ少々海が荒れていたものの、今はずいぶんと穏やかになり、予定通りなら後四日で到着するとのことだった。


 天気がいい今日は船の甲板で食事をしようと全員が集まっている。


 そして食事をしながらエルフの国に対する情報交換をすることになった。


 そこで最初に発言したのは知識なら自分と言っているクリムドアだ。


「エルフは閉鎖的な種族だと言われている。一生を森で暮らすことが多く、未来でもあまりよく知られていないんだ」


「閉鎖的なのは知っているけど、その理由は?」


「エルフは人間やドワーフ、それに獣人や魔族とも違い、長命だ。そもそも時間の感覚が違うとも言われている。『そのうち』という言葉が数年単位になる可能性もあってこちらと全く合わないらしい」


 エルフの寿命は約五百年。人間の五倍から十倍くらいの時間感覚であり、他種族とは何をするにもかみ合わないという。


 ゆっくりしか動けないというわけではなく、他種族と同じように動くことができるが、生き急ぐ意味がないと考えているらしく、他種族のように生き急ぐエルフは仲間内からちょっと嫌われるらしい。


 また自然にあるものをあるがままに、という考えがあるらしく、原形をとどめていない加工品を嫌う。


 さすがに服などは加工品だが、一枚の大きな布を体に巻き付けるような服がメインで、仕立服などはないとのことだった。


 料理という技術もなく、素材をそのまま食するのが普通で、あらゆる面で他種族と違うらしい。


 その説明を聞いたブラッドが頷いた。


「その話は聞いていたから持ってきた食材もそのまま食べられるものばかりだ。特に果物系は好まれるみたいだな」


 オフィーリアが「そういうことでしたか」と納得気味に頷いた。


「食糧庫でなんとなく甘い香りがしたのはそのせいだったんですね」


「ああ、アーデルが食材を冷やす魔道具を用意してくれたんで、俺たちが食べる食料と同じ場所に置いといた」


 長い時間をかけて航海をするので、本来なら素で長期保存ができる食材を売りに行くのが普通。ただ、ブラッドから相談を受けたアーデルは、すぐさま魔道具を作り出した。


 普通の冷却用魔道具はそこまで広範囲ではないが、アーデルの作ったものは規格外。さらにアーデルが魔力を込めて起動させているので時間も長い。通常の三倍以上の量の果物が食糧庫に入っている。


 そんなこともあり、本来であれば航海中に食べられなくなるような足の早い果物も大量に用意した。


 実際にエルフに売れるかどうかはともかくとして、珍しい果物として見せることは可能になる。そこから商売の糸口を見つけたいとブラッドは語った。


 クリムドアも頷いた。


「リンエールと会うまでどうなるか分からないから、エルフに嫌われないようにしよう。向こうに着いたらこっちも料理はしないで、食材をそのまま食べた方がいい」


「そこまでする必要があるのかい?」


「正直言うと分からん。だが、エルフは自然を大切にしている種族だ。実際はどうだか知らないが、木の根に躓いただけでも怒るという話を聞くからな」


「へぇ、でも、なんでエルフはそこまで自然を大事にしてるんだい?」


「それは信仰している神の影響だろう」


「信仰している神?」


「創造神の一柱、オーベックだな。自然との調和というか、大地、空、海、そしてそこに住む生物を含めてすべてが一つの生命体という考えの信仰……だったはずだ」


 いきなり歯切れが悪くなるクリムドアだが、オーベックは創造神の中でもよく知られていないとのことだった。


 ただ、悪い神という話はまったくなく、自由奔放なサリファとキュリアスに振り回される苦労人の神だと言われている。


「もしかしてエルフの国にいるのかい?」


「あの国は全体が巨大な森なんだが、ひときわ大きな世界樹と呼ばれる木があって、そこに住んでいるとは言われている。だが、キュリアスの話からすればいないだろうな」


 神殿でアーデルが出会った創造神の一柱、キュリアス。


 次元の狭間と呼ばれるところにいたわけだが、神の力を捨ててもそこにいることが限界。強大な力を持つがゆえに、世界への影響が大きいと言っていた。


 ならば、創造神の一柱であるオーベックも同様で、現実の世界にいることはあり得ない。


「ただ、何らかの神託を聞けるのかもしれないな」


「神託……神の言葉を聞けるってことかい」


「それでもかなりの影響が出るとは思うが」


 神の声を聞くだけでも世界に影響が出る。


 アーデルとしては会って話を聞いてみたい気はするが、今のところ会わなければいけない理由はない。


 まずはリンエールとの接触、そして魔道具の回収と魔女アーデルが研究していた内容の確認をすること。これが重要だと全員と意識を合わせた。


 全員が頷くとパペットが手をあげた。


「どうかしたのかい?」


「私はものすごく自然なものではないのですが大丈夫でしょうか?」


 パペットはゴーレム。体はほとんど加工されたもので出来ている。自然のままの物は全くない。はっきり言ってエルフに喧嘩を売っているような存在だ。


「今回は留守番かもしれないね……」


「がーん……と言いたいところですが、そこまでエルフの国には興味がないで船で待ってます」


「そうだね、余計な揉め事が起きないようにしておこうか」


「ちなみに私はお土産にうるさいとだけ言っておきます。ぜひとも私を唸らせるお土産をお願いします」


 パペットを唸らせるお土産ってなんだと全員が首を傾げたが、そもそもエルフの国に何があるのかも分からないので、それは一旦保留となった。


 ただ、パペットの言葉をアーデルは考える。


 自分はホムンクルス。自然なものとは言えない。ただ、その秘術はエルフのもの。


 話を聞く限りその秘術を作り出した意味が分からない。


(なんだかややこしいことになりそうだ……)


 アーデルはそう思いながら、テーブルの上にあったクッキーを食べるのだった。


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