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シンボル

 

 アーデル達が国境に近い町ギムアックに到着してから三日経った。


 三日間、アーデルは製薬、オフィーリアは奉仕活動、パペットは鉱山での採掘などをしていた。


 コンスタンツとジーベイン王国の宮廷魔術師ベリフェスは、気が合うのかは微妙だが、言い争いをしながらも魔法談義に花を咲かせ、さらにはアーデルを巻き込むことが多かった。


 町の方も鉱脈が見つかったことで活気に溢れ、耳が早い商人などは一儲けしようと我先にと町へやってきている。領主もコンスタンツに会いに宿まで来たが、アーデルがいるのが分かるとアーデルにも戦争が終わった件で感謝の言葉を伝えていった。


 コンスタンツ曰く、ここの領主はまともな貴族という評価らしい。


 そして三日目の昼を過ぎた頃、アーデル達が泊っている宿にサリファ教本部からの使いが来た。


 白いローブを身に着けた四十代くらいの男性と、同じサリファ教の信者と思われる護衛の二人がアーデル達が泊っている部屋までやってきて、三人は頭を下げた。


 白いローブの男性が口を開く。


「聖女オフィーリア様、こちらがアーデル様が安全だと認める証明書となります」


「ありがとうございます。確かに受け取りました。遠いところをわざわざすみません」


「いえいえ、これもサリファ様のお導きですので」


 白いローブの男性はそう言うと部屋にいる全員に笑顔を向けてから、「サリファ様の祝福があらんことを」と指で魔法陣のようなものを書いてからお辞儀した。


 オフィーリアは心づけとして金貨を数枚渡すと、男性は改めて「ありがとうございます」と深くお辞儀をしてから大事にそれを受け取って帰っていった。


 その一連の状況を見ていたアーデルがぼそっと口にする。


「普通だね?」


「え? なにがです?」


 オフィーリアは不思議そうにアーデルを見る。不思議そうな顔をしているのはオフィーリアだけだが、他の人達も何となくアーデルと同じ気持ちなのだろう。


「いや、サリファ教ってほら、変じゃないか」


「なに言ってんですか、世界で最強の宗教ですよ!?」


「最強って言葉が出てくる時点でおかしいけど、サリファ教の教示っていうのかい? それを聞くとなんかこう、変じゃないか。だから信者も変なのかと」


 先ほどのやり取りはどう見ても普通。ごく一般的なやり取りだ。


 なにか一波乱ありそうなことを予想していたアーデルはちょっと拍子抜けしている。


「いやいや、サリファ様はちょっとだけ武闘派の女神様であって変じゃありませんから。世界で最も信仰されている――つまり最強の宗教なだけで変じゃないんですよ!」


「まあ、それでもいいけどね。フィーやメイディーがちょっと特殊なだけだと思っておくよ」


「私も普通ですけど?」


 その言葉にはアーデルも誰も反応しなかった。


 アーデルは話題逸らしのためにフィーが持っている物に視線を向ける。


「その羊皮紙に何が書かれているのか見てもいいかい?」


「もちろんです。サリファ様のシンボルが入った証明書なので、ここに書かれていることはサリファ様が認めたと言っても過言ではありませんよ」


 そのサリファはクリムドアの話だと亡くなっているらしいが、アーデルは空気を読んでそれは言わない。メイディーにもそのことだけは言わなかった。


 そんなことを考えながら羊皮紙をアーデルは受け取る。


『魔女アーデルとその弟子であるアーデルは安全な人間だとサリファ教が認める』


 そう書かれている文章を見てアーデルは嬉しくなった。


 自分のことだけでなく、魔女アーデルのことも安全だとサリファ教が証明したのだ。


 現在も国が魔女アーデルに対する正しい認識を自国や他国へ宣伝している。国の正しい歴史としてもそれは残るのだが、別の組織でもその情報が残るのはアーデルにとって嬉しいことだ。


 もちろん、自分自身のことも安全だと書かれているのは嬉しい。


 何をもってそう判断したのかは分からない。ただ、自分が何かに認められたのが嬉しいのだろうと想像する。メイディーが何らかの手をまわした結果なのかもしれないが、それでも証拠として残ることは体がくすぐったい感じになる。


 ふと、サリファ教のシンボルが目に入った。


 女性の横顔、その左下に開かれた本、そして何かを自動で書いているような羽ペンというシンボルだ。


 女性は女神サリファで間違いないだろう。


「聞きたいんだけど、この本と羽ペンはどういう意味なんだい?」


「ああ、シンボルのことですね? 実は色々な説があるんですよ!」


「ちょっと待ちなよ、なんで色々な説があるんだい?」


 サリファ教のシンボルに色々な説があっては意味がない、なんで決まってないんだという話だ。そもそも誰が考えたのかという話にもなる。


「そもそもサリファ教ってずっと昔からあるんですよ。そのシンボルを考えた人も誰だか分からないほど昔の人でして、名前も伝わってません」


「サリファ本人ってことじゃないのかい?」


「いや、どうでしょう? サリファ様は『芸術は別の神に任せた』って明言している方ですし。右を向いた横顔、風になびいている髪、開いた本の上で踊る羽ペン、芸術関係がダメダメなサリファ様には描けない物かと」


「明言してるのかい。というか、フィーは女神を信仰してんじゃないのかい?」


 芸術関係がダメダメと信者が言っていいのかとアーデルは思った。サリファ教のことなので何かしらの教示があるのかもしれないが。


 アーデルも魔法陣を描くのは得意だが、芸術的センスは致命的。遊びでフロストと一緒に絵を描いたとき、肩に手を置かれて「絵がかけなくても大丈夫」と優し気な目で言われたことがあるほどだ。


 それはいいとして、オフィーリアはいくつかある説を話し出した。


 その中で最も有力なのが、歴史を綴っているというものだった。


「歴史を……?」


「はい、世界の歴史をその本に書き込んでいるんだって話ですね」


 それを聞いたアーデルは何か引っかかったが、うまく言葉にできない。


 だが、同じように考え込んでいるクリムドアを見て思い出した。


(ああ、アーカイブか。世界のすべてが書かれている本……キュリアスがいた場所に会った大量の本、あれが全部アーカイブってことらしいが、なにも書かれてなかったね。つまりあれを書くのはサリファ?)


 サリファが亡くなったから本が書かれなくなったのか、というところまで想像していると、オフィーリアが得意げに話を続けていた。


「まあ、他にも勉強しているとか、教示、恨み言、日記を書いているとか言われていますけど、それらはサリファ様からのお言葉から色々推測しているにすぎないんですよね」


「なるほどね、だから色々な説があるのか」


「はい、ちなみにそれを証明した人にはサリファ教から懸賞金が出るんですよ。サリファ教の学者系信者はそれを解こうと日夜頑張ってますね」


 それって寄付のお金なのではと思ったが、それでこそサリファ教の信者だともアーデルは思ってしまった。


 そんなサリファ教ではあるが、この世界で信頼されている。明日にでも国境を越えてジーベイン王国へ向かおうとアーデルは準備を始めるのだった。


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