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最も優秀なエルフ

 

 アーデルとクリムドアは町から離れ、近くにある森へとやってきていた。


 近くとは言っても普通なら歩きで半日以上はかかる。だが、アーデルは飛行の魔法が使え、クリムドアもこれまで大量に食事を採ったおかげなのか、高速で飛べるようになっていた。


 張り切りすぎたのか息を切らして地面に伏せているクリムドア。それを横目にアーデルは魔法を使って薬草を見つけ、必要な分だけ採取している。


「宿で待っていても良かったんだよ?」


「特にすることもないんでな。それに久々に飛べて疲れはしたが気分はいい」


「そんなもんかい。ま、しばらく休んでなよ。この辺りは人が来ないのか薬草がいっぱいでね」


 クリムドアは呆れた顔で先ほどアーデルが倒した巨大なワニの魔物を見る。こんな魔物が徘徊している場所に人が来るわけない、そんな風に思いながらクリムドアは休む。


「アーデルはリンエールのことを知っているか?」


「ん?」


 いきなりの質問にアーデルは薬草を手に取る動作を止めてクリムドアを見る。


 四英雄の一人、リンエール。アーデル達ともに魔族の王を倒した女性のエルフで、その容姿は金髪碧眼の美女だという。


 もともとエルフは島国であるエルフの国から出てくることは稀。国として交流はあるものの、エルフが個人で他国へ出向くことはほとんどない。


 それは他種族と寿命が違うためとも言われており、何百年も生きるエルフはその一生をほとんどエルフの国だけで過ごす。


 魔族と同等、もしくはそれ以上の魔力を持ち、魔法の使い手としても優秀、エルフが本気で他国に攻め込んだら瞬く間に世界を支配できるだろうとも言われているが、平和主義なのか戦いを嫌っている。


 そのため魔族の王が全世界に向けて侵攻を開始した後も最初は傍観していたが、エルフの国が魔族に侵攻されて初めて人間達と手を組んだ。


 リンエールは「最も優秀なエルフ」という触れ込みでエルフの国から派遣され、当時、最も魔族の王を倒せる可能性があると言われていたアーデル達と共に戦ったという経緯がある。


「……とまあ、私が知っているのはこの程度で、私自身は会ったこともないよ」


「そうか、世間で知られている内容と変わらないな」


「ただ、ばあさんから聞いた話が少しだけあるね」


「どんな話だったんだ?」


「魔法陣構築の天才だって言ってたね。それに――」


 アーデルはそう言ってから少しだけ言いにくそうにしている。


「それに、なんだ? 言いにくいことなのか?」


「そうじゃないんだけどね、まあ、いいか。リンエールは人間どころか同族であるエルフも嫌っていて、簡単に言えば誰にも興味がなかったと言っていたよ。ばあさんたちとは結構仲が良かったみたいだし、聞けばなんでも答えてくれたけど、仲間だろうと常に対価を必要としていたとも言っていたね」


「そんな感じだったのか。それに対価か……」


「ばあさんは氷結の魔法が使える魔道具を貸し出していたみたいでね、おそらくそれを対価にホムンクルスのことを教わったんだと思うよ」


 クリムドアはそれを聞いて「ううむ」と考え込んだ。


「何か気になるのかい?」


「エルフは長命である話は知っているよな?」


「まあ有名だからね」


「実は俺が生きていた時代でもリンエールは生きていたという話がある。実際に生きていたかどうかは確認していないが」


「はぁ? エルフの寿命が長いと言っても三百年か四百年くらいだろう? クリムがいた時代は二千年後くらいじゃないか」


「だからおかしいんだ。エルフの国の話は未来でもあまり語られていない。それに世界の滅亡とは関係ないと思ってあまり調べていないんだ。だから今更ながらにおかしいと思い始めてな」


 魔女アーデルを倒せば世界の滅亡は回避される。そう考えていたクリムドアはそれ以外の情報を詳しく調べていない。この時代での話を聞けば色々とおかしな話が未来にはあったが、全ての知識を持ち込む余裕がないほどに未来は追い込まれていた。


 必要最低限の情報をもとに過去へと移動したクリムドアは最近の話から考えて何か見落としがあるのではないかと思い始めている。それをアーデルと共有しようと思ってここまで付いてきたのだ。


 それをクリムドアは説明すると、アーデルは首を横に振った。


「未来を知らない私にとっては違和感や見落としなんて何も分からないよ。リンエールが二千年後でも生きているという話には驚いたけどね」


「魔女アーデルは移魂の技術をリンエールに教えたという話はないんだよな?」


 クリムドアの質問にアーデルは眉をひそめるが、なぜそれを聞いたのか理解した。


 二千年後にも生きているならホムンクルスの技術を使った可能性がある。新しい体へ魂を移したという技術があるなら、何千年でも生きられるのだ。


 だが、アーデルは首を横に振る。


「確実だとは言えないけど、リンエールが魔の森にあるばあさんの家に来たことはないよ。少なくとも私が生まれた後に来たことはないはずだ。ばあさんは一日以上家を空けたこともないし、ばあさんから研究の成果を受け取る機会はなかったと思うけどね」


 研究が成功したのならそれはアーデルが生まれた後になる。それ以前の研究成果を渡していた可能性はあるが、ホムンクルスの秘術はともかく、アーデルに魂がある以上、魔女アーデルは移魂の魔法を使ってはいない。


「まあ、リンエールが移魂の魔法を完成させたという可能性はあるけど、そんなこと気にしても仕方ないじゃないか。だいたい、リンエールが長生きしたことは問題なのかい?」


「長生きしたことは問題ではないが、何のために、という疑問はある。それに滅亡する世界でエルフの最後の生き残りがリンエールだという話もあった。当時は三英雄と言われていたし、アーデルとの関係もよく分かっていなかったので気にしなかったが、今の状況を考えるとな……」


 アーデルも、なるほど、とは思ったが、思っただけだ。


「推測はいくらでもできるけど、別に知らなくてもいいんじゃないかい? どうしても気になるなら、今度聞きなよ」


「……それもそうだな」


「私は自分のことを聞きたい、クリムはリンエール自身のことを聞きたい、エルフの国へ行ってそれらをリンエールに問う、それだけでいいじゃないか。世界の滅亡に関わってくるなら話は別だろうけど、たぶん、関係ないと思うよ」


「そうか……ずいぶんと楽観的になったな?」


「悩んだって仕方ないと思うことは多くなったよ。私の周りにはそういう人が多いからね」


 クリムドアがニヤリと笑う。


「フィー達のことか」


「いや、飯を食べてる時のアンタもそうだからね? 塩辛くて硬い干し肉だってうまいって言いながら幸せそうに食べるからこっちはそれだけで腹いっぱいだよ」


「うぐ」


 そんなことないぞ、実は味にはうるさいんだ、と言っているクリムドアを放っておいて、アーデルは薬草の採取を再開させるのだった。


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