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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第10章 抵抗は燃え上がる

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第654話 人の心がわからない

 話の通じない相手だからこそ、僕は慎重に言葉を選ばなければならない。


「まず大前提としてあなたの誤りを訂正しておきます。ヴィーシャさんはすでに安全な場所に移動させました。あなたの手出しのできない場所にね」


 僕がそう言うとパトリックは大仰に頷いた。


「ふむ。僕の見立てよりキミは優秀なようだ。あるいはとても愚かだ。目的を達したのであれば、なぜさっさと立ち去らない? 危険に身を晒し続ける理由(わけ)は?」


 どうやらヴィーシャさんをこちらがすでに確保していることは信じるようだ。

 まあ、エインフィル伯爵をこうして拘束しているわけだしね。


「第二の前提を破壊しましょうか。僕はいま危険ではありません。あなたがあなたを守ってくれると信じているアーリア騎士団如きでは、僕を止められない」


「アハハッ! キミはレベル40くらいだと聞いているよ。アーリア騎士団の団長はレベルが60だ。レベル40と60の間には越えられない壁がある。あまりにも高い断崖絶壁だ。天地がひっくり返ったところでキミに勝ち目は無い。しかもアーリア騎士団は何十人といるんだ。レベル50を超えた猛者が何十人も」


「ええ、ええ、そう思うのが当然なんでしょうね。ところが天地はひっくり返り、もう一転した。自分のことをレベル60だと言っていた女性の騎士なら僕が殺しましたよ。きっちり首を落としてね」


 僕がそう言うとパトリックは腹を抱えて笑い出した。


「アッハッハ! 夢でも見ているんじゃないのか。そうでなければ阿片(アヘン)でも吸ったのかな」


「彼の言うことは事実だ。パトリック。ヘルミヤは(わし)の目の前で殺された。この男に」


「父上?」


 パトリックは目を細めて拘束されている自分の父を見る。


「なにか幻覚でも見せられたのでは? 精神作用系のスキルとか」


「事実なのだ。パトリック! この男は完全に武具を身に纏ったヘルミヤをたった二回。たった二回の攻撃で殺して見せた!」


「まさか、そんなのレベル80でも無理な話だ。それこそプレイヤーでもなけれ……ば、……まさか、プレイヤーなのか? まさか、そんなはずは」


 それはつまり、プレイヤーならレベル60の全身甲冑騎士を二撃で殺せるということだろうか。

 そこらへんはまだ詳しい話を聞けていない。

 メルもそこまでプレイヤーについて詳しいわけでもなかったからね。


「さてね。なんにせよ、あなたの望む助けは来ない。かと言って大人しく拘束される気も無さそうですね」


「待て、キミはヴィーシャが欲しかっただけだろ! それ以上に何が必要だって言うんだ?」


 エインフィル伯爵の態度から、それが事実だとようやく理解したのだろう。

 パトリックの声音が変わる。


「そんなこともわからないんですね」


 罪の無い人が理不尽に傷つけられたと知れば胸が痛む。

 加害者に報いがあれと願う。


 この男にはそんな感性が無いのだ。

 誰かの痛みに共感するという人の心が無いのだ。

 だからこそ平気で人を傷つける。


「金か? それとも権力か? クラッコなら渡してもいい! それで手を打とうじゃないか。なあ! キミはクラッコの領主になれるぞ。エインフィル領主として約束する!」


「と、息子さんは言っていますが?」


「息子ではない。そいつは勝手にエインフィル領主を名乗っている不届き者だ。煮るなり焼くなり好きにするがいい」


 すっかり覇気を失ったエインフィル伯爵が絞り出すように言った。

 元々皺が多くて年寄りって感じの見た目だったけれど、さらに老け込んだように見える。


「ということだそうですよ。つまり――」


 僕が続きを言いかけたとき、無線機(トランシーバー)が電波を拾った時のノイズが耳に入る。


『ひーくん、こっちは片づいたよ。何人かには逃げられちゃったけど、いいんだよね?』


 僕は無線機(トランシーバー)のスイッチを押し込んだ。


「ありがとう。こっちに来てくれるかな。エインフィル伯爵は確保したけど、その息子をいま詰めてるところなんだ」


『はーい。とりあえず私だけでもすぐ行くね』


「わかった。もう危ないことはないと思うけど気を付けて」


 僕らはパーティを組んでいるので、メンバーがどこにいるのかはなんとなくわかる。

 アルブレヒトさんの護衛ありとは言え、ニーナちゃんを加勢に行かせたのも、この感覚でニーナちゃんがメルたちと合流できるとわかっていたからだ。


「声を届かせる魔道具……」


 エインフィル伯爵が呆然とした様子でこちらを見ている。


 そう言えば通信の類いってアーリア側の世界にしてみれば技術革新もいいところなんだっけ。

 なんか監視塔からモールス信号みたいなの光らせてたのは見たけれど、声を直接届けるとなるとまた別物なのだろう。


「さて、何の話をしていましたっけ」


「そやつは(わし)の息子では無いから好きにしてくれというところだ」


「そうでした。つまりですね――」


「おまたせっ!」


 いくらなんでも早すぎィ!

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