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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第10章 抵抗は燃え上がる

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第650話 言葉選びを間違えるな

「顔を少しばかり傷つけられた程度のことで!」


 その言葉に僕は頭を殴られたような衝撃を受けた。

 アーリア騎士団の団長。

 エインフィル伯爵を守る最後の盾は女性だった。

 そのことから僕は、彼女がヴィーシャさんに行われた陵辱を知れば、実行役をこちらに差し出すくらいのことはしてくれると思い込んでしまっていた。


 だが現実はどうだ?


「あれを、少し、と?」


 ミニガンを持つ手が震える。

 力が入りすぎて、今にも引き金を引いてしまいそうだ。


 ヴィーシャさんの額に残った傷は言葉になっていた。

 パトリックという男の所有物であることを受け入れたという意味合いの文字列に。

 もっともグロテスクなのは最後にハートマークが添えられていたことだ。

 地球側でも、アーリア側でも、それは愛情、あるいは親愛の表現だ。


 それが、少しのことだ、と?


「言葉は大切に扱っていただきたい」


[異界言語理解]というスキルを得てから、僕は異世界で言葉に苦労したことはない。

 でもこのスキルは元々居た世界の言語までは翻訳してくれない。

 メルが配信で色んな国の言葉に返事をしているのを見て、それらをまったく理解できない僕は思った。


 言葉というのはお互いを理解するためのツールだ。

 相手を知り、自分のことを伝えることができる。


 だからこそその取り扱いを間違えると、取り返しのつかないことになる場合だってある。

 何気なく発した言葉が、相手の国の文化では決して許せない侮辱であったりするのだ。


「あなたはいま、ヴィーシャさんが受けた傷を軽んじた。僕はそう受け取りました」


 そして彼女の放った言葉を僕は許すことができない。

[異界言語理解]が何かの間違いをしていない限り、僕は彼女を許せない。


「ハッ! 生きていれば傷痕が残るなどよくあることだ。それが顔であれ、別の場所であれ、そのようなことで一々嘆くなど、所詮は婦女子よ」


 チリチリと目の奥が燃えているようだった。

 何故か視界は本当に少し赤らんで見えた。

 焦点はぼやけ、女性の声を発する甲冑は幾重にもぶれている。


 それでも僕は冷静さをなんとか一欠片だけ残していた。


 この件において、真に怒りを発していいのはきっと被害者(ヴィーシャさん)か、あるいは完全に無関係の第三者だ。

 僕のように加害者側に関与した人間が激情を(あら)わにするなどあってはならない。


「お声からするとあなたも女性のようですが……」


「私をそこらの婦女子どもと同列に扱ってもらっては困る。私のレベルは60だ」


「そうですか。で? それが顔を、体を、心を傷つけられた女性に厳しい言葉を使っていい免罪符になるとは思えませんが?」


「力の無い女は男の所有物だ。何をされても仕方がない。そういうものだろう」


「わかりました。わかりあえないことが、わかりました」


 アーリアは男尊女卑の社会だ。女性の権利が守られているとは言いがたい。

 けれど、レベルを上げて、力を得て、騎士団という組織でトップにまで上り詰めた女性が、男尊女卑的な考えを持っているとは思わなかった。

 彼女は女性の代表者ではなく、僕からすると古くさい男社会の代弁者なのだ。


「後ろの男性をこちらに引き渡していただきたい。そうすればこれ以上、余計な血を流さないで済みます」


「断る! アーリア騎士団団長ヘルミヤの名に誓い、閣下を連れて行かせはしない」


 もう言葉を交わすことに意味はない。

 僕は返事の代わりに引き金を引いた。

 ミニガンの銃身がモーターによって回転を始め、そして弾丸を放ち始める。

 毎秒百発にも及ぶ連射が甲冑姿の女性を襲う。

 曳光弾が光の線になって、その射線を描き出す。


 一方的な暴虐が騎士団長ヘルミヤを襲い、その鎧に弾かれた弾丸によって、辺りの物が次々と破壊され、破片が舞った。


 一瞬だけ彼女は耐えた。

 無数の弾丸による衝撃に耐えた。


 だけど現実は非情だ。

 ミニガンが彼女に与える物理的衝撃は耐えるとか耐えられないとかではなく、純粋にその重量では止められない。

 彼女は姿勢を低くして衝撃に耐えようとするが、その体は見る間に押されていって、その背に守るエインフィル伯爵ごと壁際まで追い詰められた。


「閣下、必ずお守りいたします!」


 彼女は体の向きを入れ替えて、エインフィル伯爵を押しつぶさないように壁に両手をついて、衝撃に耐える姿勢になった。

 なんらかのスキルの恩恵だろうか。

 弾丸は彼女の鎧の隙間を抜けては行かない。

 その代わりに全ての衝撃を彼女が受け止めているようだった。


『アルブレヒトさん、さっきの斧を取ってきます。10秒お願いします』


(うけたまわ)った。2本お願いできるだろうか。セドリック殿だけではこちらの騎士を抑えきれない故』


 まだ死んでいない応援の騎士が一人残っている。

 アルブレヒトさんとセドリックさんで叩きのめしている最中だったが、黒鉄の全身甲冑の防御力のせいで倒すには至っていない。


『わかりました』


 僕は[キャラクターデータコンバート]を使用して横田基地の拠点に転移する。

 魔石式処刑斧エクセキューショナーを持った米兵が待ち構えている。


「2本ください。Two EXECUTIONERS and new MINI-GUN, please.」


「カズヤさん、私も行きます。ヴィーシャさんも命に別状はありませんし、あちらのほうが役に立てると思います」


 ニーナちゃんが駆け寄ってくる。


 僕は2本の魔石式処刑斧エクセキューショナーを左手で受け取った。

 使用直後で銃身が灼けたミニガンも新しい物と交換する。


「わかった。メルたちの支援に行ってもらうことになると思う。危険だよ」


「わかっています」


 ニーナちゃんの決意は固いようだ。

 それにニーナちゃんが来てくれたら本当に助かる。


「ヴィーシャさんは?」


「こちらの方々に任せました。ご両親と一緒です」


「了解。じゃあ、僕に触れておいて」


「はい!」


 僕は再び[キャラクターデータコンバート]を使い、アーリアへと転移した。


 ヴィーシャさんのためにも、一刻も早く報いを受けさせるのだ。

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