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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第10章 抵抗は燃え上がる

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第649話 【セドリック】は策を弄したい

 それは交渉とはとても呼べない。

 騎士を二人、それぞれ一撃で殺して見せて、武器を相手に向けてするそれはつまり交渉ではなく、脅迫だ。

 しかしそれでは俺が困る。


 カズヤには最低でも兄をこの世から消してもらわなければ、俺がエインフィル領を手に入れられない。

 親父は叛逆罪でどうとでもなるが、兄を処刑するには叛逆への加担割合が少なすぎる。

 カズヤが兄を殺さなければ、エインフィル領は兄が継ぐことになるだろう。


 俺はやぶ蛇になる可能性に怯えながら口を出す。


 ここはリスクを取ってでも話に関わっておく必要がある場面だ。


「待ってくれ。ヴィーシャって名には聞き覚えがある」


 嘘じゃない。

 それはパトリックの婚約者の名前で、騎士団員が昨日拉致してパトリックに引き渡したというところまでは聞いている。

 その後どうなったかなんて考えるまでもない。

 あの兄のことだ。

 殺しはしないが、死なせてやったほうがマシなくらいのことはしたんだろう。


「兄の婚約者の名前だ。先日、兄のところに連れて来られたという話も聞いた」


「そうですね。彼女を傷つけた下手人ということであれば、パトリック様ということになるでしょう」


 副団長アルブレヒトがありがたい助け船を出してくれる。


「それで、あなたは誰なんですか? あなたが裏切ってくれたお陰でなにかとスムーズだったのは認めます」


 父とヘルミヤ団長に円筒形の魔道具を向けたままカズヤは俺に問う。

 こちらには一瞥もくれない。

 カズヤとアルブレヒトとの間に何があったのかは知らないが、背中を預ける程度には信頼しているようだ。


「自己紹介が遅れてしまったな。俺はセドリック・エインフィルだ。そこで女性の陰に隠れている男の次男だよ。この度は俺の家族が随分と迷惑をかけてしまったようで、慰めにもならないだろうが、代わって謝罪する。済まない」


「あなたの謝罪は必要ありません。僕はヴィーシャさんを傷つけた人たちの身柄がいただければそれでいい」


 少なくとも俺はカズヤの攻撃対象からは外れたと見ていいだろう。


 ただ身柄を受け取れたらそれでいいというのは、少し弱いな。

 殺すと明言してくれたらありがたいんだが……。


 ついでに親父も殺してくれたら手間が省ける。


「おそらくだが、その一件、そこにいる父も噛んでいる。ヴィーシャという娘を捕らえたのはアーリア騎士団だ。だが兄は騎士団への命令権など持たないからな」


「事実ですか?」


「事実ではない!」


 叫ぶように答えたのはヘルミヤ団長だ。


「閣下はそのような命令をされていない!」


「僕とヴィクトルさんへの捕縛命令は出ていましたよね?」


「待て! おまえが求めたのはヴィーシャという娘を傷つけた者たちだけだろう! おまえ自身にかけられた捕縛命令などの責任所在を問うてはいなかったはずだ!」


 答えたのは親父だった。

 貴族らしく言葉尻を捕まえて、上手いこと逃げようとしているが、そうはさせねえ。


「カズヤ、あんたに向けて出ていたのは捕縛じゃなくて殺害命令だった。鏡のことを外で漏らされる前に口封じをするのが狙いだ。父はあんたを殺そうとしていたんだ」


「それは大体想像がつきます。ですが正直、それはどうでもいい」


 どうでもよくないんだよなあ。

 できれば親父も殺してもらいたいんだ。


「カズヤくん、そういう意味では私も罪人のひとりだ。あの娘が苦しむのを見ていることしかできなかった。裁きは甘んじて受けよう」


 待て、アルブレヒト、おまえは俺の作るエインフィル領のアーリア騎士団に必要なんだ。命を無駄にするようなことを言うんじゃない!


 だが俺の心の声を余所(よそ)に二人の間で話は進む。


「そうですか。わかりました。どちらにしても下手人への処罰はヴィーシャさん自身に決めてもらうつもりです」


「あいわかった。その上で言うのであればエインフィル伯はあの娘への尋問を命じていた。君やヴィクトルの居場所を吐かせるために、手段を選ぶな、と。ただ結果的に酷い尋問は行われていない。その前に娘が言葉を失ったからだ」


「言葉を……? でも僕は彼女が話すのを聞きましたよ」


「娘は幼児退行と失語症を併発しているように見えた。その上で君の姿を見たときに、すべてが一気に戻ってきたのではないだろうか。そして耐えきれずあのような凶行に。あの娘は無事なのだろうか?」


「ええ、少なくとも命に別状はありません。僕のところには優秀な回復魔法使いがいるので、体の傷はすぐに治してくれましたよ」


 くそ、二人が何について話しているのかがよくわからない。

 ヴィーシャという娘についてだということはわかるのだが、直近で起きたことまで把握しているわけじゃない。


「ではそのパトリックという人と、あなた、アルブレヒトと呼ばれていましたっけ。それからエインフィル伯。この三名の引き渡しを僕は求めます」


「そんなことが認められるか!」


 ヘルミヤ団長が吼える。

 団長は親父に取り立ててもらった恩があるから、忠義を尽くしているんだろう。

 女性を騎士団に登用した挙げ句、騎士団長まで任せるなんて話を余所(よそ)で聞いたことはないからな。


「えっと、次男さん。あなたの意見は?」


 ありがたいことにカズヤが俺の意見を求めてくれる。


「父にも責任はある。領主として、そして父親として、あのような長男を放置してきた罪には罰があって然るべきだ。父の連行に同意する」


「セドリック、おまえ! 親と兄を害してまでこの地が欲しいか!」


 欲しいに決まってんだろ!


「団長、問題はそういうことじゃない。カズヤが怒ってることと、それはいま関係がないんだ。彼はあの娘が傷つけられたことに怒っている。深く関わった者への断罪を望んでいるんだよ。俺にも彼が何者なのかはわからないが、騎士を三人、正面から押し戻せる武器を持っている男だぞ。ここは従うしかない。むしろ俺がこの場にいて良かっただろ。エインフィル領はなんとか存続できる」


「顔を少しばかり傷つけられた程度のことで!」


 ヘルミヤ団長は冒険者上がりの騎士団長だからそう思うのかもしれないが、一般的に女性の顔に傷がつくって大事なんだよ。どんな傷かは知らないがな。


「あれを、少し、と?」


 カズヤが強い敵意(ヘイト)を発している。

 ヘルミヤ団長に向けて、周りにもわかるほど強く。


 どうやらヘルミヤ団長は俺が策を弄するまでもなくカズヤの逆鱗に触れたようだ。

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