第646話 【騎士】の芯は燃える
アーリア騎士団はクソ野郎の吹きだまりだ。
そんなこたぁ、誰よりも俺自身が知っている。
いいよな、北区生まれのヤツは。
最初からどん底だから、最低最悪の目に遭っても、いつも通りの不幸だって思うだろ?
俺たちのほとんどがそうではない。
アーリアに生まれた者だけではなく、ルリュール王国の色んなところから、貴族の家に生まれたのに落ちこぼれた連中だ。
中には伯爵家の三男坊だっている。
いや、さっき死んだから、いるとは言えないか。
幼い頃はいい暮らしをしていた。
弟が死ねば俺が家を継ぐことになる。そういう可能性が残されている間は。
ところが弟が家督を継いだら、俺はお役御免。
貴族としての籍さえ失った。
それでも俺は運がいい方だ。
家に金があったから事前にパワーレベリングを受けることができた。
エインフィル伯爵への紹介状だって書いてもらえた。
無事に騎士として召し上げられた。
おかげさまで妻と四人の子を食わせていける。
本当に俺の子かどうかは怪しいもんだが。
妻の話もしたいが、それはあまりにも脱線というものだろう。
俺以上の転落を経験した女性だから、多少は好きにさせてやっていいと思っている。
俺も好き勝手してるしな。
閑話休題。
結局俺が言いたいのはつまり、落差の話なんだ。
成功者の人生というのは客観的に成功しているかではない。
例えばレコフだ。
北区で生まれたあいつは、どん底から這い上がってアーリアの騎士にまで到達した。
荷物持ちから冒険者、そして騎士へと人生のステージを上がっていく人生だった。
結局死んだわけだが、上がっていく人生はさぞかし楽しかっただろう。
最終到達地点がアーリア騎士団だとしても、あいつは成功者だったと俺は思うね。
一方の俺は男爵の妾の子とは言え、長男だった。
正当な後継者はどう考えても正室との間に生まれた弟だったが、弟が死ねば男爵家に食い込めると考えた連中がいる。
町に蔓延った既得権益に阻まれ利益の少ない新興の商人たちだ。
連中は俺の母を唆し、その手に毒を握らせた。
そして欲に目がくらんだ母は、使用人に命じて、弟に毒を盛った。
その使用人が賢くて、妾の言うことを聞くより、毒を手に正室に相談するような娘であったことで、母は保養地送りとなった。
まだ幼かった俺はなにも知らなかったのが幸いして、家に残ることができたが、その後の扱いがどうなったかなんて言うまでもないだろ?
それでもパワーレベリングまで受けさせてもらえたのは、母親に似た弟とは違い、俺の外見が父によく似ていたからだと思う。
だがそれは父に守られていたということだ。
父が病没すると、途端に俺は家を追い出された。
一方で恨みに思われたら困ると思ったのだろう。
エインフィル伯爵への紹介状を持たされた俺は、そのまま弟の手配でアーリアへと出発した。
そこで俺を待ち受けていたのが、このアーリア騎士団、というわけだ。
どうだ? 下がって、下がって、下がって辿り着いたアーリア騎士団だ。
レコフと同じ場所にいるのに、ずいぶんと印象が違うだろ。
母が馬鹿でさえなければ、弟はちゃんと暗殺され、俺が領主になっていたはずだった。
俺はこんなところにいるはずの人間ではないのだ。
それなのにここじゃどいつもこいつも口を開けば酒と女と賭博の話ばかり。
なんて程度の低い連中なんだ。
どいつもこいつもクソばかりだ。
アーリア騎士団も、それを一蹴する侵入者どもも!
俺のパーティと、そして侵入者を挟み込むように逆側にいた騎士団のパーティは、まるで押しつぶすように侵入者どもに襲いかかった。
とにかく先手必勝だ。
敵の要は間違いなく[氷結]の使える魔法使いだ。
だからそいつを最初に潰す!
俺は凍り付いた地面の一歩手前で[突撃]を発動させる。
攻撃系のスキルは攻撃が終わるまで一部地形などの影響を受けない。
[突撃]だと発動から攻撃終了まで進行不可の障害物に接触しない限り、前進しながら突き攻撃が発生する。
段差などがあると、空中を駆けるということも発生するスキルだ。
だから地面が凍り付いていようと、攻撃が終わるまでは足を滑らせない。
十分な助走距離のあった[突撃]は簡単には止められない。
水系魔法使いは氷の壁を生成して俺の進行を阻もうとしたが、無駄だ。
こんな氷くらいで[突撃]が止まるかよ。
俺は氷の壁をぶち破り、水系魔法使いに肉薄する。
もう一歩で攻撃が届く。
そう思ったときだった。炎が俺の足に巻き付いた。
その炎はまるで実体があるかのように、俺の足を引っ張って、俺を空中に持ち上げる。
[金剛身]スキルを発動させる。
防御力を上昇させ、同時に肉体の重量が増すスキルだ。
流石に俺を支えきれなかったのか、炎は俺の足にまとわりついたままだが、地面に落下した。
そして顔を上げた俺は信じられないものを目にした。
荒れ狂う炎の鞭だ。
それが一斉に攻撃をしようとしたアーリア騎士団2パーティをそれぞれに襲っている。
火系魔法にこんなのがあったか?
「縺ァ縺ッ荳豌励↓縺セ縺�j縺セ縺励g縺�°」
二人の魔法使いは手と手を合わせて向かい合う。
暴れ狂っていた炎の鞭は消え、俺たちは自由を取り戻す。
こいつらはヤバい。今殺さないとヤバい!
「「蝸「驩「鄒�┬辭ア」」
女たちが声をそろえて意味のわからないことをいう。
すると二人の周りから一斉に赤い氷が膨れ上がった。
「「螟ァ蝨ー迯�!」」
膨れ上がった赤い氷から無数の枝が生えてきて、枝から枝が生まれて、辺りを覆い尽くす。
もちろん俺にも逃げ場はなく、赤い氷の枝に捕まった。
触れた場所が焼けた鉄に触れたみたいに熱くて、痛い。
気温の上昇で、呼吸が苦しい。
辺り全てがこうなっていた。
熱のある氷が全てを覆い尽くしていた。
「こなくそ、俺は!」
喋るだけで喉が焼ける。
「こんなところに!」
凍っているのに火が付いた。燃えだしたのは俺の体だ。
黒鉄の鎧の中で、俺はあたかも蝋燭の芯になったかのようにジリジリと燃えている。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!
焼けた黒鉄の鎧に蒸し焼きにされながら、じわじわと燃えていく。
俺はこんな終わり方をするべき人間じゃないのに!




