第645話 【騎士】は凍りつく
◆◇◆ エインフィル邸 裏庭にて
爆発音とともに仲間が盾ごと真っ二つにされ、俺たちは敵の、というか、その武器のヤバさにようやく気付いた。
レベル差を貫いてダメージを与え、前方に刃を通し、後方には金属片を飛散させる。
金属片のほうは全身鎧を着ていれば防げるが、刃がやべえ。
レベル50が装備する黒鉄の盾と鎧を貫いて真っ二つにするなんて、レベル60でも無理だろう。80以上の前衛職がスキルを併用すればできるかもしれない。
だけど目の前の敵はレベルが80以上には見えない。
その動きはレベル40相当だ。
いや、もっと悪い。
おそらく身体強化魔術を使ってないな。
他の魔術を使ってんのかと思ったが、そんな様子もねえ。
強さの基準としてはアーリアのレベル30少しくらい。
普通にやれば相手にもなんねぇよ。
だからこそあいつも斧を余裕で受けた。
簡単に受け止められると思ったんだ。
だってそうだろ。
黒鉄装備は、ちょうど強さの段階がひとつ上がるポイントだ。
攻撃力より防御力の上昇が大きくて、全身甲冑の黒鉄装備同士で殺し合ってもなかなかトドメまでいかない。
鎧の上から殴ってる時間が一番長いくらいだ。
それを両断?
両断だって?
ありえない。
ありえないが、目の前で起きている現実だ。
「蜴�サ九〒縺吶�縲るュ疲ウ輔b隧ヲ縺励※縺翫″縺セ縺吶°」
「だからなに言ってるのかわかんねーんだよ!」
ここらで見かけない風貌の六人。
状況からしてカズヤの仲間なのは間違いない。
二人いる女の一人が、斧を仲間に投げ渡すと、その周囲に細い炎が幾本も立ち上がった。
火系魔法使いか!
「ニール!」
「[雨の匂いが満ちる]」
魔法使いギルドから派遣されてきた水魔法使いが使った魔法で辺りの湿気が増す。
そしてこの魔法は火系統魔法の威力を減衰させる。
水系魔法は火系魔法よりも汎用性に優れて――、
ずるっと足元が滑る感触。なんとか踏みとどまる。
辺りを季節に合わないひんやりとした空気が覆っている。
足元が、凍りついている。
「[氷結]スキルだ! 足元気を付けろ! 炎の矢が来るぞ!」
水系魔法使いと火系魔法使いを同じパーティに入れるとか何考えてんだ。
普通に相性が悪いだろ!
縦に細く伸びていた炎は点に変わった。いや、俺に向いたのだ。
放たれた炎の矢は真っ直ぐに俺に向かって……、来ない。
謎に複雑な軌道を描いて、凍りついた足元に踏ん張れず転んだ仲間に当たった。
ボッと炎が上がる。
いや、待てよ。
炎の矢ってそんな魔法じゃないだろ?
真っ直ぐ飛んで、突き刺さり、熱ダメージを与えるのが炎の矢だ。
曲がって飛んだり、こんな風に着弾点で大きく炎を膨れ上がらせたりはしねえ!
魔法使いの女二人を殺しに行きたいが、[咆哮]の効果で重戦士の男から目が離せば弱体化を受ける。
魔法使い二人が揃って移動しているのはありがたいが、視界から離れられると、どこから魔法が飛んでくるかわからない。
[氷結]スキル持ちは少なくとも[水魔法]の熟練度20と[氷魔法]熟練度20まである可能性が高い。
となると[水生成]にも気をつけなきゃならねえ。
水没からの窒息は全身甲冑を装備している相手への基本的な攻撃パターンだ。
炎に包まれた仲間がどうなったのかを確かめたいが、敵の前衛二人が前に出てくる。
その手にはあの斧。
くそ、足下が凍り付いているのになんであいつらは普通に走れるんだ!
足が滑る。
[突撃]が使えねえ。
ろくに身動きの取れない俺に向けてあの斧が振るわれる。
使い慣れた[弾き返し]か、まだスキルを習得できていない受け流しか。
なぜその二択で迷ったのかは自分でもわからない。
だが体は自然と染みついた[弾き返し]を行う。
できるだけ遠くに弾き返せば、刃が届かないかもしれない。
全身全霊の[弾き返し]が発動して、斧を正面から弾き、
ボッ!
と、腹に響く音を立てて、俺の上半身は宙を舞った。
◆◇◆ 残された騎士
クソが!
聞いてねぇ! 聞いてねえ! 聞いてねえ!
音と光でどうのって話じゃねえのかよ。
なんだよ、あの馬鹿げた武器は。
一瞬でみんなやられちまった。
レベルでは圧倒しているはずなのに、訳のわからない方法であっさりと死んだ。
残った前衛は俺だけだ。
当然敵の注目は俺に集まる。
俺は足下に気を使いながら後退する。
「回復はできねえか?」
「あれは即死ですよ。手の打ちようがない」
「そうか。じゃあ後は任せた」
俺は、名前はなんつったか、魔法使いギルドから派遣されている回復魔法使いの肩をぽんと叩いた。
[なすりつけ]を使う。
敵の脅威度判定を狂わせるスキルだ。
抵抗される恐れもあるが、これだけレベル差があればまず通る。
敵意の向きが変わった。
前衛の俺より、まず回復役を潰すべきだ、という思考になっているはずだ。
精神操作系のスキルで習得していることすら隠しているが、ここで使わない手はないよなあ。
俺は[氷結]によって凍り付いた大地から逃れるために、屋敷の窓をぶち破ろうとした。
その手が、氷に、絡み取られる。
パキパキと音を立てながら、氷が俺の腕を覆っていく。
そんな馬鹿な。
レベル差がある相手を氷結させるなんて、熟練度が相当高くても難しいのに!
パキパキと俺の右腕は氷に変わっていく。
「やめろ、やめ――」
肩、首、頭へと氷は俺を包み込んで――。
そして気付いた。
これは俺を凍らせてるんじゃねえ。俺の周りに氷で檻を作っているだけだ。
でもだったらレベル50の筋力で簡単に割れるはずじゃねぇか。
なんでこんな金属みてぇに堅ぇんだよ!
くそ、呼吸が、うまくできねえ。
意識が遠のく。
こんな終わり方は嫌だ。
助けて、ママ……。




