第644話 【ヤクスン】は獲物を見つける
第644話 【ヤクスン】は獲物を見つける
◆◇◆ アーリア騎士団 騎士ヤクスンの場合
まったく、領主の屋敷を守れと言われても、なんの楽しみもねぇんだよな。
俺たちの担当は正面玄関だ。
カズヤの仲間が仕掛けてくるとしても、一番ありえない場所だろう。
謎の音と光にやられたばかりの俺を気遣って、ここに配置したという可能性もある。
なんにせよ、ずぅっと暇だということだ。
どうせならエリスが来そうな裏手側が良かったよな。
やられた分をきっちりやり返してやらなければ気がすまない。
鎧を着ている状態で歩き回るのも疲れるため、俺たちは正面玄関前で動かずの護衛と化していた。
「カズヤってあれだろ。さっき通っていったヤツ」
「あん? なんだ? もっと大きな声でしゃべれ!」
俺たちは耳に草を詰めている。
例の音と光への対抗手段だ。
どの程度意味があるかわからないが、ないよりはマシだ。
「カズヤだよ! カズヤ! あんなのを警戒する必要があるのか!?」
「丸腰で鞄も持ってなかったわな! ありゃどうしようもないバカだ!」
やれやれ。あんなバカを探し回るのに2日も駆け回ることになるとはな。
最初から鉱石商の娘を餌にすりゃよかったんだ。
「なにも起きないさ! 賭けてもいい!」
俺がそう言ったときだった。甲高い音がして上からガラス片が降ってくる。
「賤貨1枚な」
俺たちは意識を切り替える。
なにかが起きたということは、外からの襲撃も起こりうる。
何故なら誰かが退路を確保しなければ、カズヤは脱出ができない。
必ず誰かが外からも仕掛けてくるはずだ。
そして驚くべきことに、彼女らは正面から現れた。
陵辱するはずだったエリス、その相棒シャノン、ちっこい軽戦士に、見るからに後衛職という女。
たった四人だ。
おいおいおいおい、いくらなんでもバカにしすぎだろ。
こっちは後衛二人を含めた六人パーティなんだぞ。
ちっこい軽戦士がなにかをこちらに向けて投擲してくる。
「目を閉じろ!」
俺は叫びつつ、顔を背け、ぎゅっと身を固くした。
兜を被っているせいで、耳を防げないのだけが不安だ。
色彩が一瞬失われるような強烈な光と、耳栓を越えてくる暴力的な音。
ショックはでかいが来るとわかって準備していれば耐えられないほどではない。
相手の後衛が足を止め、そして仲間へと手を伸ばした。
こちらの水魔法使いも同じ仕草をする。
[汝の血は燃える]だ。
身体能力の強化スキルで、身体強化魔術と競合しない。
つまり重ねがけが可能だ。
俺たちは自分でも身体強化魔術を発動させ、エリスたちを迎え撃つ姿勢になる。
相手は全員が同じ武器を手にしていた。
長柄の斧だ。
先端部の形状からしてハルバードではない。
ただ刃と逆側がかなり大きな構造をしているので、そちらはハンマーとして使用できるのかもしれない。
黒鉄じゃないな。灼鉄でも、鋼でも、鉄でもない。当然魔銀でもない。
見たことのない金属でできている。
流石にオリハルコンってことはないだろう。あれとは色が違う。
「エリス! そんなに俺様が恋しかったか!」
「あん? 全員同じ鎧兜じゃ見分けがつかねぇよ!」
そしてエリスと俺が同時に[咆哮]を使用する。
「たっぷりその体に刻みつけてやるよ!」
「つまりあたしを散々殴る蹴るしてくれたやつってことだな。じゃあ遠慮はいらないな」
エリスはそう言って長柄の斧を振りかぶる。
そして横薙ぎに俺を狙った一撃を繰り出してきた。
かなり重そうな一撃だが、そりゃあまりにも振りかぶりすぎだぜ。
それに俺の胴体を狙っているんだろうが、鎧のもっとも分厚い箇所だ。
レベル40が使う武器じゃあ、傷が付いたらご愛敬ってくらいだな。
一応勢いだけ殺しておくか。
俺は剣でエリスの斧を受け止め、そして予想以上の重さに驚いた。
軽く止められると思っていたのに、バフが二重にかかった状態でなんとか止め――、
爆発音がして、
ぐるんと世界が回る。
俺は空を見上げていた。
なん、で?
立ち上がろうとしたが、両手がなくて、体を動かせない。足もなかった。
いや、それどころか、胸の少し下あたりからがなにもない。
なんで?
そう思ったっきり、俺の意識は途絶え、二度と浮上することはなかった。
◆◇◆ アーリア騎士団 騎士
それは例の音と光よりはいくぶんかマシな音だった。
ただ身構えていなかったのでビックリしたことは認める。
それよりも斧の威力に意識はすべて持って行かれた。
ヤクスンは完全に剣で防御したはずだ。弾き返していた。そう見えた。
だがその瞬間、斧が奇っ怪な爆発音を立てて、自らヤクスンを両断したのだ。
意味がわからないことを言っていると思うが、そうなんだ。
斧が勝手に動いたとしか言い様がない。
それもレベル50騎士の剣と鎧をまとめて両断するほどの威力で。
そして次の瞬間に思い出す。
こいつらは全員がこれを装備していて、次の標的は自分たちだ、ということを。




