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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第10章 抵抗は燃え上がる

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第640話 【アルブレヒト】は火を灯す

◆◇◆ アーリア騎士団副団長アルブレヒトの独白


 領主様がパトリック様の謹慎とヴィクトルの娘の保護と尋問を命じられたとき、私は心から安堵した。


 終わることのない陵辱と拷問はただ少女の尊厳を徹底的に破壊するためだけに行われ、その目論見は成功していた。


 全てはもう手遅れだったが、それでも終わらないよりは、終わる方がマシだ。


 私は使用人に娘を治療し、体を清めることを命じた。新しい衣服と、額に刻まれた焼き印を隠せるようにつばの広い帽子も用意させる。


 それが何の救いになるとも思えない。

 私は何もできなかった自分を許すために娘に良くしているだけだ。


 あれほど懇願され、娘は全てを差し出したというのに、パトリック様は最後の一文字まで焼き印を刻みつけた。


 口枷を嵌め直されたときの娘の絶望は想像することすら恐ろしい。

 そこにいたのはただただ理不尽に対して泣き叫ぶ少女であった。

 喜色を浮かべて焼けた鉄鏝を押しつけるパトリック様は、それまでに幾度も吐精しているにも関わらず、少女が苦痛に痙攣する様に絶頂しているようだった。


 貴族は人ではない。

 人より優れた高貴なる血族だ。

 だから下賤にはなにをしてもよい。

 それは貴族として当然であり、その品位を下げるような行いではない。


 とされている。

 つまり貴族とは人を食らう化け物だ。


 私は私自身が騎士家の出身でありながら、このような貴族の意識にはどうしてもついていけない。

 だから長男でありながら廃嫡されるようなことになったのだ。

 まったく後悔していないかと言えば嘘になる。そうして行き着いた先がアーリア騎士団なのだから救いが無い。


 唯一団長だけは信じられる。

 過剰な忠義心を持ち盲目的ではあるものの、真っ当な感性のある人だ。この人がいなければ、私はとうの昔にアーリア騎士団を辞めて、どこかを放浪していただろう。


 そうなっていたらアーリア騎士団の副団長には碌でもない誰かが配置され、パトリック様の玩具を片づける前に自分でも遊ぶくらいはしていたかもしれない。


 それよりはマシだ。

 最悪よりは少しだけマシだ。


 娘が保護されたことに伴い、私は一時的にパトリック様の護衛から少女の護衛に配置換えされた。

 パトリック様が娘にこれ以上のなにかをするのを防ぐ目的のためだったようだが、これ以上のなにかがあるというのか。

 いや、あるのだ。

 人というのはどこまでも人を破壊する方法を思いつく。


 娘は私が近くにいると酷く恐れた。

 私は誓って彼女になにもしていない。


 そう、していないのだ。なにも。


 彼女がその尊厳を傷付けられる様を、私はただ傍観しているだけであった。

 娘にしてみれば私は見張りを務めた加害者の一味であり、加害者の一人なのだろう。

 そしてそれは事実なのだ。


 娘の世話は女性の使用人に任せ、私は部屋の外で見張りに立つに留めた。

 部屋から泣き声すら聞こえてこないのが酷く私の胸を締め付けた。


 使用人に話を聞いたところ、娘は食事も取るし、排泄も自分でできると言う。

 ただ話しかけても返事はなく、まるで言葉を失ってしまったかのようらしい。

[回復魔法]による治療は受けさせたので、物理的な傷ではないはずだ。

 心の傷についても一定の効果があるが、[回復魔法]は定着した状態を無かったことにはできない。

 死んだ心を蘇らせることはできないのだ。


 それ故に言葉を発せぬ娘は家令のどんな質問にも答えられなかった。

 家令のことを私と同様に恐れた。


 結果的にではあるが、手の施しようがないと、家令も諦めて領主様には適当な回答でお茶を濁すことにしたようだ。

 つまりこの娘が今以上に傷つけられることはない。


 そして娘の時間が止まってしまった一方でアーリアは激動を迎えていた。

 町中に紙片がばら撒かれ、騎士レコフがカズヤの一味によって殺された。

 領主様は邸宅の防備を固め、カズヤに向けて布告を出した。

 それは我々が保護――保護だって!?――している少女の身柄が欲しければ、何も持たず一人で現れよ、というものだった。


 馬鹿馬鹿しい。

 誰がそんな見え透いた罠に乗るものか。


 事実として時間は着々と過ぎた。

 やはりカズヤは仲間と共にアーリアから逃げ出したのだ。

 私がそう確信を持った頃、その報はもたらされた。


 布告通り、何も持たずにカズヤが現れたと言う。


 なんと、なんという愚かなことを。


 しかし私は胸に灯が点ったかのような熱を感じた。


 カズヤの行いは愚かだ。

 だがそれほどまでに娘を愛しているということの証明であった。

 彼女を失うくらいなら共に、ということなのだろう。


 火が付いた。

 小さな炎だ。

 だが凍り付いた私のなにかを溶かすには十分な熱があった。


 カズヤは変わり果てた娘を見てどう思うのだろうか?


 もし今の彼女を見ても彼の愛が変わらないのだとすれば、私は、私の騎士道にかけて二人をこの地から逃がそう。

 どうせ廃嫡された独り身だ。

 このちっぽけで薄汚れた命なら惜しくない。


 だからお願いだ。

 カズヤ、醜いのは彼女に刻まれた傷ではなく、それを行った私たち貴族なのだ。

 

 彼女は最後まで抗った。

 折れ、負け、穢されたが、そうさせたのは私たちだ。


 だからお願いだ。

 彼女を救えるとしたら、きっとそれはお前だけなのだ。

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