表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第10章 抵抗は燃え上がる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

640/652

第637話 【ヴィーシャ】は泥蝦蟇に呑み込まれた

 アーリアのダンジョンで騎士団によって拉致された私ですが、その扱いは丁重そのものでした。

 手枷を嵌められることもなく、縄をかけられるわけでもない。

 ただ二人の騎士が私の左右にずっと付いていて、私に逃げるつもりはありませんでしたが、彼らもまた私を逃がすつもりはないようでした。


 馬に乗った騎士の前に座らされ、そのままアーリアに入った騎士によって、中心部である貴族街に連れて行かれました。

 そしてよく見知った赤い屋根の邸宅、つまりエインフィル伯爵邸へと到着します。


 流石の騎士たちもここで我が物顔とは行かず、邸宅の使用人を呼んで、邸内に走らせました。

 騎士たちが別の使用人に馬を預け、しばらくすると報せに行った使用人が戻ってきて私たちを邸内に迎え入れます。


 ああ、ここはこの町でもっとも偉い人たちの住む邸宅だというのに、まるで泥蝦蟇マッドトードの大口が開いたかのように私には思えました。


 私たちが案内されたのは想像した通り、エインフィル伯爵家嫡男のパトリック様のお部屋でした。


 つい先日までは私の婚約者だった人の部屋。

 幼い頃から何度も出入りしたことがあります。

 いえ、幼い頃こそ頻繁に呼ばれていた。


 最近はふみのひとつも寄越さなかった元婚約者が、なぜ今更になって私の身柄を求めるのでしょうか。


「よう、パトリック様、あんたを無碍にした婚約者だ。見かけたから連れてきたぜ」


 私を連れてきた騎士が言います。


 では、ではあの場に騎士たちがいたのは偶然だった、ということなのでしょうか?

 私を狙ってきていたわけではない?


 いえ、どちらにせよ私たちに選択肢はありませんでした。

 ニーナさん、ロージアさん、エリスさん、シャノンさんを危険に晒すわけにはいきません。

 あの場では私が大人しく投降するのが最善だったはずです。


「ヴィーシャか。久しいな。また随分と、大人になったな」


 パトリック様は見目麗しい殿方です。

 やや年は取っておられますが、外見は若々しく、知らなければ二十代前半にだって見えるでしょう。

 ただ私が幼い頃から見た目がほとんど変わっていないのが、どこか不気味でもありました。


「よくやった。褒美だ」


 パトリック様は騎士に小袋を投げて渡します。

 騎士が受け取った時にした音からして、お金が入っているのでしょう。

 金貨だとすればかなりの額だと思います。


「パトリック様、今後ともよろしくな!」


 騎士たちはそう言って去って行きました。

 残されたのは私とパトリック様、そしてパトリック様付きの使用人が三人です。


 私はどうするべきか迷いました。

 パトリック様は確かレベル20のはず。

 最初の選択スキルだけは取っておく。

 貴族家の嫡男としてはよくあるレベルの上げ方です。


 一方で私もつい先ほどレベルが20になりました。

 つまりパトリック様と一対一であれば、それなりに抵抗ができるということです。

 ただそれは使用人たちがいなければの話。

 領主の嫡男に付けられた使用人ということであれば、その護衛も兼ねている。

 つまりレベル20以上であることが考えられます。


 いえ、そもそも私が抵抗すればそのるいが家族やニーナさんたちにも及びかねません。


 私は唇を引き締め、パトリック様の次の言葉を待ちました。


「僕との婚約を破棄したいと望んでいる。そう聞いた」


「はい」


 そう言ってから続きを口にするべきかどうかで迷いました。

 表向き婚約破棄の理由はカズヤさんが私を求め、その対価を鏡の製法という形で支払ったから、ということになっています。

 しかしそれをパトリック様に告げれば、その怒りがカズヤさんたちに向く恐れがあります。


「パトリック様こそ、私にもう興味がないのでは?」


「そうだな」


 椅子から立ち上がることもなく、パトリック様は肯定の言葉を口にしました。


「なら――」


「だが、僕のモノを横からかっ攫われるのは気に食わん。おまえは僕の所有物モノだ。おまえがどうなるかを決めるのは僕であって、他の誰でもない」


 そうでしょうね。

 この町の貴族、特に領主の嫡男ともなれば、町の住人すべてがその所有物に思えるのでしょうし、それは間違っていません。

 領主になれば領民の生殺与奪の権を持つ。

 それが貴族としては普通の考え方ですから。


「領主様のお考えはどうなのでしょうか? カズヤさんは見合うだけの対価を払ったと思いますが」


うるさい!」


 強い敵意ヘイト

 物事が思い通りにならないからと癇癪かんしゃくを起こす子どものような様ではありましたが、レベル20の圧はそれなりにあります。

 もしも私がレベルを上げていなかったら耐えられなかったでしょう。

 いえ、耐えられるところを見せるべきではありませんでした。


 パトリック様の冷たい瞳が私を射貫きます。


「ダンジョンで見かけたとか言っていたな。レベルを上げたのか」


「ええ、レベル20になりました」


「チッ、これだからレベルを上げた女は」


 一般的に貴族の間では女性のレベルを上げることは推奨されません。

 何故ならレベルを上げると女性でも男性に抵抗ができるからです。

 そんな女性は貰い手が無くなる。


 領主様の嫡男に見初められた私がレベルを上げられなかった理由でもあります。


 そのために私がどれほど病に苦しめられたと思っているのか!


 この怒りすらレベルがなければ抱くこともできなかった。


 強さは心を後押しすると私は気付きました。


 体が弱いながらも心が強い人もいるでしょう。

 しかし体が強ければ自ずと心も強くなるのです。


 だからこの後、パトリック様にどのような目に遭わされても私は耐えられる。


 私はそんな風に思っていました。

 この時までは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ