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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第10章 抵抗は燃え上がる

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第636話 【エインフィル伯爵】は最後の晩餐を勧める

 連れて来られたカズヤを見た儂はまず騙されたと思った。


 若い男だとは聞いていたが、これほど若いとは思っていなかった。

 成人こそ迎えているだろうが、まだ子どもみたいなものではないか。


 儂は嘆息する。


 これは下手を掴まされたかもしれない。

 こいつは所詮丁稚(でっち)かなにかで、本当のことはなにも知らないに違いない。

 ただの使いっ走りだ。


 我々は邸宅の応接室で革張りのソファに腰を下ろしている。

 儂の勧めでカズヤも向かいのソファに腰を下ろしていた。

 ヘルミヤは立ったままで、いつでもカズヤを切れる位置取りをしている。


 いくら無手とは言え、儂よりカズヤのほうがレベルが高いからな。

 ヘルミヤがいなければ、カズヤは儂を縊り殺せる。


 だがヘルミヤがいればいつでもカズヤを斬り殺せる。


 儂は早速本題に入ることにした。


「お互いに望むのは交渉ということでいいかね?」


「ええ、取引こそが商人のすべきことですから」


「ではまず鏡の製法を教えてもらおうか。それが交渉の席を始めるための代金だ」


 儂がそう言うとカズヤは肩を竦めた。

 余裕のある態度だ。

 そう、あまりにも余裕がある。

 つまり交渉材料をまだ隠し持っている。


 喋れなくするまでに引っ張り出せるだけ引っ張り出さなければならない。


「それはいくらなんでも天秤が釣り合いませんよ。僕はこのまま帰ることだってできる」


 うそぶくカズヤだが、それなら武器も道具もなくここまで現れたりはしないはずだ。

 カズヤは自分を危険に晒してでもヴィクトルの娘が欲しいのだ。


「ヴィクトルの娘を返して欲しくはないのかね?」


「鏡の製法をお伝えすれば、僕らはもう用無しってところでしょう? 鏡の製法はヴィーシャさんの身柄を受け取ってからです」


 鋭い指摘だ。

 事実、鏡の製法の秘密はカズヤにとって命綱だ。

 儂がそれを知れば、カズヤはここで切り捨てられる。文字通り剣で。


「ヴィクトルの娘を渡したところで、鏡の製法を教えるという保証もあるまい」


「ではこうしましょう。まず透明な硝子ガラス板を作る製法をお伝えします。アーリアでは色付き硝子が主流ですよね。透明な硝子の製法はご存じですか?」


 痛いところを突かれた。

 アーリアで作られる硝子は緑がかっていて、完全な透明ではない。

 それでも鏡にさえなれば十分だと思っていたが、カズヤの持ってくる鏡は、硝子ではないものの、透明な素材でできていた。

 アーリアで作れる硝子では品質がどうしても劣る。


 本当に透明な硝子が作れるのであれば、それだけでも鏡に劣らぬ価値があるだろう。


 儂は素知らぬ顔でその提案を受けることにした。

 向こうから教えてくれるというのに聞かないという手はない。

 それに透明ガラスの製法を聞いたからといって、それで交渉に乗ると儂が約束したわけではない。


「ではまずは聞かせてもらおうか。どうすれば硝子は透明になる」


「この辺で石灰岩は採れますか?」


 石灰岩?

 別にどうということはないありふれた鉱石だ。


「クラッコの辺りでならば手に入るし、アーリアにも在庫があるだろう」


「ではそれを砕いて硝子の原料である珪砂に混ぜてください。具体的な配合比率は、珪砂の品質にもよりますのでなんとも言えませんが。あるいは石英岩が採れるのなら珪砂の代替品として使えますよ」


 石英岩もクラッコの周辺で採取が可能だ。

 だがそれが硝子の材料になるということは知らなかった。

 硝子職人なら知っているのかもしれないが、少なくとも儂はそう言う話を聞いたことがない。


「それだけで?」


「それだけです。それだけのことを誰も試していないから硝子が透明ではないのです」


「誰かを職人のところに走らせろ。石灰岩と、石英岩を運び込ませ、今すぐ試させるのだ」


「承知いたしました」


 家令が恭しく一礼して場を辞した。

 一瞬だけ場が静かになる。


 誰か使いの者が職人のところに走るのに半刻、そこから物を揃えて実験を行うまで何刻かかかるだろう。

 結果が出る頃には日は完全に沈み、夜の遅い時間になる。


「時間がかかるだろうな。どうだ、食事でも?」


「ヴィーシャさんは丁重に扱われていますか?」


 儂の提案にカズヤはまったく関係ないような問いを返してくる。


 さて、どう答えるべきだろうか。

 透明な硝子の話が本当であれば、交渉がここで終わるのは惜しい。

 鏡の製法というものにも信憑性が出てくるからだ。


 儂はある程度正直に話しておいたほうが今後のためだと考えた。


「不幸な事故があったようだ。治療は済んでいるが負傷はあった」


 それを聞いてカズヤの身が強ばる。


 しばらく黙っていたカズヤだったが、絞り出すように声を出した。


「命に別状は無いんですね?」


「それは約束しよう。食事をしていくかね?」


「ではご厄介になります」


 食事はいつも多めに作らせているし、パトリックの分を抜けばカズヤが食べるには足りるだろう。

 すぐに意味の無くなる食事だが、こいつにとっては最後の晩餐だ。

 それに相応しい豪勢な夕食にしてやろう。

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