第624話 【セドリック】の夜は照らされる
「それで実際のところどうやるんだ? 案があるんだよな?」
デズモンドがそう訊ねてきたが、セドリックには案などなかった。
どうするかを今決めたところである。
だが跡取りの保険として育てられた彼は戸惑いを見せることもなく、それっぽく回答することにする。
「いくつか案はある」
こう言っておけばここからなにを言っても事前に予定済みだったと思わせることができる魔法の言葉だ。
「ひとつはアーリア市内を闇雲に探す」
「そりゃ案にもなってないぜ。他の騎士に先行されすぎている」
「先行されてもいいんだ。デズモンド。条件が変わったことでそうなった」
「どういうこった?」
デズモンドの疑問に対し考えながらセドリックは思いつきを口にする。
「カズヤは生け捕りにされる。その上で騎士団本部なり、屋敷に連れて行かれることになるだろう。それを横から奪う」
「仲間とやり合うってことか? それはちょっとな」
デズモンドがまともなことを言うとは。
セドリックは面食らったが、それを顔に出すほど愚かではなかった。
「お前が騎士団長になるためにはむしろ今の仲間たちは邪魔だろ。できるだけ減らせ」
デズモンドは騎士団で優秀な側ではない。
優秀なアーリア騎士団員というのが、まず団長と副団長しかいないわけだが、それには目を瞑ろう。
「だからこのプランでは、捜索中に遭遇した騎士たちを各個に撃破していくことが含まれる。俺たちは顔見知りだから向こうも油断するだろう。油断しているうちに殺す」
「まあ、親父と兄を殺す覚悟をしてるんだもんな。それくらいは朝飯前か」
そう笑ったデズモンドだったが、すぐに真顔になる。
「だが誰かがカズヤを捕まえたところで、どうやってそれを察知する?」
「そこで俺たちはあれに昇る」
セドリックは近場にある監視塔を指差した。
「上からなら魔術の光を追いやすい。真っ直ぐこちらに帰ってくる灯りがあれば、狙い目だ」
「杜撰だぜ、そりゃ。誰かが捕縛したなら他の騎士たちも一緒に帰ってくるだろうに。油断している二人組なら殺せるかもしれん。だが四人は無理だ」
「そうかな? 偶然出くわせば合流するだろうが、探し回っている騎士同士がアーリア市内で出くわすなんてそうそうないさ」
アーリア騎士団の団員は三十名である。
アーリア市の広さを考えれば、偶然出会う確率はかなり低い。
「まあ、しゃあねぇか。とりあえずは従うさ」
「そうしてくれると助かる。それに冒険者ギルドに行った連中が言ってたろ。カズヤは激しい光と音を出す道具を使うってな」
「誰も信じてなかったが?」
「もし本当だとすれば、監視塔の上からならハッキリ見えるはずだ。もしも情報が本当なら団員が遅れを取る可能性もある」
「なるほど。その上、俺たちは事前にそれを知ることができるってぇわけだ」
「そうだ。有効な対策が取れるかどうかはわからないが、事前に知っているかどうかは大きな違いだ」
少なくともカズヤたちは八人の騎士を相手に逃げ延びている。
騎士たちが酒に酔っていたのだとしても、何かしらの手段があるのだろう。
何故なら騎士たちは冒険者ギルドを壊滅させるところまではできているのだ。
「基本的に俺たちはカズヤに協力する。表立ってそう動くのは難しいだろうがな」
「だがカズヤとやらがどう動くか想像できないぜ」
「カズヤはヴィクトルの娘欲しさに鏡の情報を売ったという話だろ。我が兄に囚われた哀れな娘を置いて逃げたりはしないさ」
「ということは?」
「カズヤを支援していれば、ヤツは屋敷に押し入ってくる」
といいんだが、策もなく突入されても困るっちゃ困る。
可能であれば屋敷にヘルミヤ騎士団長と副団長が詰めていること、彼女たちのレベルやスキルについてカズヤに共有したいところだ。
「カズヤが父を討つかは正直わからんが、ヴィクトルの娘にした仕打ちを目にすれば、兄は……」
そう言ってセドリックは手のひらを自分の首に当てるように振った。
エインフィル家の跡継ぎである兄パトリックは、騎士団に入る予定がなかったので、レベルは20だ。それもパワーレベリングでの急造品。実力はレベルにはとても見合わない。
話によればカズヤたちはレベル40を越えているらしいから、兄は抵抗らしい抵抗もできないに違いない。
兄が一人でいれば、の話ではあるが。
「団長と副団長をどうにかしないとな」
デズモンドが神妙に呟く。
「あの二人は一緒にいれば最強だが、それぞれならまだなんとかなるかもしれん。つまり俺たち二人がかりでなら。顔見知りで油断を誘うことが前提だが」
「おいおい、あんまり弱気になんなよ。言い出しっぺはお前だぜ」
監視塔の下に辿り着いたセドリックとデズモンドは長い階段を上り始める。
黒鉄の全身甲冑で階段を昇るのは重労働だ。
[身体強化]の魔術を使って昇っていく。
「任務お疲れさまです!」
監視塔の上に到着したセドリックとデズモンドを衛兵が敬礼で出迎えた。
普段は冒険者などに委託している監視塔からの監視業務だが、夜間外出禁止令が出ていることもあって、衛兵たちで仕事を回しているようだ。
だが、
「一人か?」
「はい」
「それでは異変を発見しても連絡できないだろう」
「そうなんですが、市内の捜索、防壁の見回り、桟橋の確保、東の森の封鎖で衛兵は手一杯でして。こんなに暗い夜ですし、監視塔はなんなら人を配置しなくてもいいのでは、という案があったくらいなんですよ」
桟橋の封鎖や、東の森の検問などは騎士が抜けた分を衛兵が埋めているだろうから、人手が足りていないのは本当だろう。
「そうか。こっちはカズヤとか言う商人を上から見つけられないか昇ってきてみたんだが、こんなに暗くては難しそうだな」
「ええ、[灯火]の魔術はあちこちに見えるんですが、それだけでして。その中にそいつが混じっていてもここからではわかりませんや」
「確かにな」
どれがカズヤの[灯火]かなんてわかるはずがない。
そうセドリックが思ったときだった。
真っ暗闇の夜空に、突如として太陽が現れた。




