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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第10章 抵抗は燃え上がる

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第614話 【白藤綾乃】は特別になりたい

 私は優秀な人間だ。


 日本経済を裏から支える綾冬家の傍流である白藤の娘で、文武両道、眉目秀麗。

 非の打ち所がない。


 他人から見れば私はすべてを持っているように見えるはずだ。


 私自身、自分が恵まれた人間であるという自覚がある。


 だがそれはこう言い換えることもできる。


 綾冬の本家に生まれず、どの教科も優秀でこそあれ全国トップではない。

 見た目が美しいと言っても、一般人としては飛び抜けているというだけで、芸能人に囲まれたら埋没するだろう。


 私は優秀ではあるけれど、何一つとして飛び抜けたものがないのだ。


 だから私はなにか一つだけでも飛び抜けた才能を持つ人に強烈に劣等感を感じる。

 生活破綻者の芸術家、勉強のできないスポーツマン、美しいだけのタレントなど。

 他のすべてが欠けていてもいい。

 何かで唯一無二の存在になりたい。


 でもすべてをなげうってでも、それをしたいという欲望があるわけでもない。

 特別になりたいという思いだけがあって、これで特別になりたいという希望がないのだ。


 まるで水を与えられすぎた植物が根から腐るように、私は見えないところから腐り落ちていきそうだ。


 樋口湊から通話を切られた私は、なぜかそんなことを考えていた。


 あの男、つまり樋口湊、あるいは柊和也は怪物だ。

 少し前まではただの高校生だったにもかかわらず、お爺さまや、北森源治郎と対等の交渉を行っている。


 平凡以下の高校で、劣等生だったはずの彼は、おそらくダンジョンに関する飛び抜けた才能を持っていた。

 ゲーム化(ゲーマライぜーション)したこの世界では、レベルがすべてを覆します。

 運動能力が上がるだけではなく、思考も冴えるようになる。

 そしてダンジョンの深いところで得られる魔石は大金に換わる。


 つまりそういうことだ。

 なにかひとつ、特別に秀でたところのある人間は、それだけで他のすべてを得る、あるいはマイナスを無かったことにできる。


 私もそうでありたかった。

 その憧憬は、どちらかというとあの男への苛立ちに変換されてしまう。


 なぜあなたは得られて、私は得られないのか。


 私はスマホをどこかに投げ捨てようとして、しかしできない。

 こういうところが私を優秀止まりにしているところなのだろう。


 振り上げたまま行き場を失った手の中でスマホが震える。

 着信の通知は“樋口湊”で、出ないわけにはいかない。

 私は通話のアイコンをタップした。


「なにかご用ですか?」


『さっきの態度を謝りたい。大人げなかった』


 やめてほしい。

 そんな殊勝な態度を取られたら、私が癇癪かんしゃくを起こした子どもみたいだ。

 私たちは同い年なのだ。

 社会的に見ればどちらも子どもではあるけれど、少なくとも同い年に子ども扱いされるのは納得ができない。


『綾冬琥之佑、あるいは北森源治郎、いずれかと早急に交渉がしたいのは事実なんだ。君は連絡役だろう? 直通の連絡先とかを知らないのか?』


「直接は無理ですが、報告の窓口はあります。あなたが連絡を取りたがっていると伝えることならできます」


『急ぎでお願いしたい。急いでいることもちゃんと伝えてほしい。アメリカとのコンペだと言ってくれてかまわない』


「あなたさっき自衛隊の装備品を使いたいというようなことを……。まさか米軍にも同じことを持ちかけているのですか?」


『状況がとても悪いんだ。軍がダンジョン攻略に使っている装備品を借りたい。可能な限り早く』


 そんな緊急事態に心当たりはない。

 だが樋口湊が急いでいるのは確かなようだ。


「わかりました。他に必要なものはありますか?」


『君は交渉の窓口を開いてくれるだけでいい』


 その物言いにちょっと苛立ちを覚えるが、我慢する。


「わかりました。やるだけやってみましょう」


 通話は切れる。

 私はお爺さまの秘書である出内さんに通話を試みる。


『お待たせしました。ご用件をお伺いします』


 実際にはワンコールで出たにも関わらず出内さんはそう言った。


「樋口湊から連絡がありました。すぐにお爺さまか北森源治郎様と交渉がしたい、と。自衛隊の装備品の使用許可を求めたいようです。かなり切羽詰まっている様子で、米軍にも同じ交渉を持ちかけているとのことです」


『承知いたしました。そのままお待ちいただけますか?』


 通話は保留に変わる。

 電子音のグリーンスリーブスを聞きながら、しばし待つ。

 三十秒ほどだっただろうか、音楽が止まる。


『ご当主が自ら交渉をされるとのことです。あなたはそのまま役割を続けてください』


「わかりました」


 蚊帳の外、というわけだ。

 自分に権限がないことはわかっているが、伝書鳩にもなれやしないのか。


 ホーム画面に戻ったスマホを机に置いた。


 思わず姿勢を崩して机に上半身を突っ伏す。


 私は優秀な人間だ。

 それは間違いない。


 だけど何者でも無くて、特別でもないのだ。


 おそらく世界中のほとんどの人が私と同じだ。


 だけど私は向こう側に行きたい。

 特別な何かになりたいのだ。


 私に足りないものはなんだろうか。

 ほとんどすべてを持っている私に足りないものは。


 きっと誰も教えてくれはしないし、教えられたものでは納得ができないだろう。


 私でなければならない、何かが欲しい。

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