第605話 【メルシア】は勝てない相手に挑む
私のレベルは41。
冒険者ギルド前を確保する四人の騎士たちは50ちょっとというところだと思う。
領主様が王様にこの地を治めることを任じられているように、騎士たちは領主様からこの町を守るように任じられている。
その扱いは貴族に近くて、私のような平民よりは明確に上だ。
騎士には疑わしい平民を罰する権利があって、それはその場で刑を執行することも含まれる。
だから平民は騎士の人たちを恐れている。
彼らが最低でもレベル50に達しているということもあるだろう。
アーリアのダンジョンは50層で打ち止めだから、レベル50の冒険者にとっては旨みが少ない。
レベル50まで到達するようなやる気のある冒険者は、その前にアーリアを出ていくのが普通だ。
だからアーリアには騎士以外にレベル50に到達している人はほとんどいない。
例外はアーリア出身の冒険者が引退して戻ってきているとか、そういうパターンくらいだろう。
結局なにが言いたいのかというと、アーリアで騎士に逆らうというのは普通では考えられないということだ。
石のひとつでも投げれば死罪は免れない。
裁判の前にその場で切り捨てられるだろうけど。
本当に騎士に刃向かっていいか?
私は一度考えてみる。
普通に考えたらいいはずがないからだ。
だけどひーくんは騎士に狙われている。
剣を抜いて問答無用という感じだった。
じゃあ、仕方ないかあ。
冒険者ギルドを攻撃しているのも謎だ。
冒険者ギルドは国の機関で、領主様であっても口出しができない。
いや、命令ができないからか。
命令か、要請を断られたから、強硬手段に出ているのかも。
私は剣を抜いて十分に魔力を通すと、[地術]を発動してひーくんを置き去りにする。
さらに[魔法剣・風]を追加発動して加速する。
速度もここまでくると空気が重い。
泥の中に全身で突っ込んで行っているようだ。
だから姿勢を低くして、少しでも抵抗を受けないようにする。
極端なまでに低い姿勢。
近くであれば見失うほどだけど、これだけ離れていたら騎士たちも気付く。
騎士たちも剣を抜く。
私は地面を足で押して、推進力と化した剣を横に振る。
私の体は急転回して騎士たちの背後に回り込む。
騎士たちは反応こそ間に合っていないが、見失いもしなかったようだ。
振り返ろうとしている。
同時に剣を振る姿勢だ。
だけど[地術]+[魔法剣・風]の速度には及ばない。
騎士たちの間を抜けながら斬りつける。四人全員に一撃ずつ。
だけど軽戦士の攻撃は軽い。
レベル差のある全身甲冑の騎士たちにダメージを与えられない。
魔銀の剣がいくら切れ味に優れると言っても、レベル50が装備する金属鎧を切り裂けるほどではない。
火花を散らしながら、私は振り返りながら剣を振った騎士たちの背後に抜ける。
私は止まらない。
速度で騎士たちを翻弄しながら、死角に回り込みながら攻撃を当て続ける。
騎士たちは剣を振り回す。
闇雲な動きではない。
私の動きが見えていて、確実に当てにきている。
騎士たちにとっては軽い攻撃。
だけど一撃でももらえば戦闘不能、死ぬかもしれない。
それを回避しながら私は攻撃を続ける。
全身甲冑と言っても隙間はある。
そこに剣を捻じ込めればダメージを与えられるだろう。
だけどそれをすれば私の動きも阻害される。
狙っている振りはしつつ、実行はしない。
実行しようと思っても難しいだろう。
騎士たちの動きは全身甲冑を装備しているとは思えないほど鋭い。
鎧の上から斬りつけながら、私はそっと左手で騎士の鎧に触れる。
用意してあった構成に魔力を流す。
一瞬だけど[湧水]の魔術によって鎧の内側に水が流れたはずだ。
これ地味に嫌なんだよね。
濡れた衣服は体にまとまりつく。動きの邪魔になる。
そして何より不快感がある。
「この、小娘がっ!」
騎士たちの敵意が高まるのを感じる。
地味な嫌がらせが効いてきた証拠だ。
私はじわじわと冒険者ギルドの前から離れていく。
頭に血の上った騎士たちは自分たちが誘導されていることには気付いていないようだ。
私を攻撃することに夢中になっていて、視野が狭い。
スキルで気配を消したひーくんが冒険者ギルドの中に入っていくのが見えた。
大丈夫かな?
冒険者ギルドの中にいる騎士たちはこの騎士たちより強いに違いない。
いまのひーくんは決して弱くはないけれど、それはレベル41にしては、という感じだ。
スキル構成も戦闘向きではないし、正直なところ不安。
この騎士たちを倒せるなら私も加勢に向かうのだけど、ちょっと無理だな。
私にこの騎士たちは倒せない。
時間稼ぎが精一杯だ。
その時間稼ぎだっていつまで続けられるかわからない。
ひーくん、お願いだから急いでね。




