第603話 簡単すぎる間違い探し
[夢見]スキルを持つという緋美子さんの言葉に従って、僕らは可能な限り装備を整え、アーリアへとキャラクターデータコンバートした。
キャラクターデータコンバートは簡単に言うとこのゲーム化した世界の、別の世界へと自分と任意の人を連れていけるスキルだ。
ポイントは出現位置がそのサーバーにおける僕の最終位置だということ。
僕は前回アーリアの自分の部屋から日本へとキャラクターデータコンバートしたから、日本からアーリアに戻るとき、出現位置は僕の部屋ということになる。
「――!?」
転移が終わった途端に異変に気付く。
僕は窓に駆け寄って外を見たけど、やはりここは僕が借りている部屋のようだ。
「なにも、ない」
部屋に置いてあった僕の私物がすべて無くなっている。
金、装備、その他のすべてが無くなって、部屋のなかはガランとしていた。
「待ち伏せはされなかったね……」
メルが剣を抜いて言う。
僕のネガティブ思考が回転を始める。
「僕が狙われていることは間違いない。だけど待ち伏せがなかったということはつまり僕のスキルについて詳細まではわかっていないということだ。みんなは無事か、口を割っていないかのどちらかということになる」
そこまで言って気付く。
「妙だな。冒険者ギルド長は僕のスキルについて調べがついている風だった。部屋から出てないことも把握されていたし、僕を狙うなら部屋で待ち伏せするのが自然だと思う」
「ひーくん、考える前にここから移動しよう」
確かにそうだ。
キャラクターデータコンバートは出現位置を任意で変更できないため、どこで使ったかを知られているかいないかはとても重要だ。
いったん日本に帰還するにしても、ここからというのはあまりよくない。
「まずは部屋から出て……」
そしてどこに向かうべきだ?
なにをするにしてもメルと自分の安全は確保しなければならない。
「アーリアから出てローレンスさんから借りている家に向かおう」
アーリアからはある程度離れているし、拠点として活用できる。
家具はないけれど、ひとまず屋根と壁があればそれでいい。
「とにかく冒険者っぽい人には見つからないように、市壁を登って外に出る」
アーリアの市壁は外敵からの防衛用に建造されているので、内側には階段がいくつもある。
巡回もそんなに頻繁ではないし、それとなく登って、外に降りることはできるはずだ。
「でも今すぐっていう緋美子さんの言葉に意味があるなら、いまじゃなきゃ間に合わないことがあるんじゃない?」
個人的には緋美子さんの言葉をあまり頼りにしたくない。
けれどメルは[夢見]スキルをかなり重要視しているようだ。
[夢見]スキルの神髄が悲劇の回避、だとして緋美子さんにとっての、なんだよな。
「ならニーナちゃんの安全確保だ」
緋美子さんが今後僕らにどうかかわってくるにせよ、僕らにとっての優先順位で事を進めるしかない。
僕らは部屋を出てアーリアの市内へと注意深く出て行く。
ニーナちゃんの家に向かいつつ、冒険者の少なそうなルート、となると東回りか。
遠回りになるけれど、今回は仕方ない。
この時間にアーリア市内をうろつく冒険者は少ないだろうけど、まったくいないわけではない。
今日を休養日にしている冒険者もいるだろうし、下手をすると依頼書に僕の捕獲とか出てる可能性もある。
状況がまったくわからないのが怖いな。
僕の部屋から荷物が失われている以上、部屋に踏み入られたことは間違いないのだし、危険な状況であることは間違いないのだけど。
「事情を聞けて、僕らの味方だと確信できる人がいればいいんだけど……」
足早にアーリアの町を移動しながらそう呟く。
パーティメンバーと合流できるのが一番いい。
こんなことは考えたくもないけれど、誰かが裏切っていたのだとすれば、僕の部屋での待ち伏せがあったはずだ。
それが無かった以上、パーティメンバーは信用できる。
「冒険者ギルドに目をつけられたら面倒なんだよね。知ってる人でも信用はしないほうがいいと思う」
メルの伝手にはちょっと期待していたんだけど、メルとしては頼りにできないようだ。
「ニーナちゃんがなにか知っていればいいんだけど」
「ギルドに顔を出す用事は無かったはずだし、難しいかも」
そうなんだよなあ。
僕らのパーティは目下ヴィーシャさんのパワーレベリングをアーリアでの目的としていて、そこに冒険者ギルドの依頼とかは絡んでこない。
パワーレベリングで得た魔石も冒険者ギルドに売らずに取っておいてもらうように頼んであるから尚更だ。
「もうちょっと急いだほうがいいかも」
ここでも僕とメルで危機意識に差があったようだ。
僕は走って目立つほうが危険だと思うんだけど、メルは目立ってもニーナちゃんの元に急ぐべきだと考えている。
「あんまり急ぐと目立つよ」
「ひーくんの顔立ちで十分目立ってるよ」
それはそう。
僕はアーリアで中心となる民族とは顔立ちが違うから、顔を出して歩いているだけで目立つと言えば目立つ。
そう、この町でカズヤという名が通っている、アジア人は僕くらいだ。
一目見れば僕だとわかる。
「カズヤだな」
それが顔なじみの冒険者たちではなく、この町を守る騎士たちであってもだ。
「おまえには領主様より捕縛命令が出ている。おとなしく付いてくるか、それとも」
金属鎧に身を包んだ巡回の騎士たちが剣を抜く。
問答無用という雰囲気だ。
一方でメルは武装しているけれど、僕は日本製のポリカーボネイトの盾だけ。
いや、問題はそこじゃない。
領主様、つまりエインフィル伯爵から狙われているのか、僕は。




