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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第10章 抵抗は燃え上がる

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第602話 【エリス】は激高した

「いい時間だし、そろそろ帰るか?」


 シャノンが黒鉄の剣を背中の鞘にしまう。

 疑問形だけど帰る気満々じゃねーか。


「確かにそうですね。結構ポータルから離れてしまいましたし」


 カズヤがいないことで地図係を兼任することになっているロージアが言う。

 25層は砂漠地帯で遮蔽物が砂の丘陵くらいだから、空に向かって立ち上るポータルの光を見失うようなことはないが、確かに遠いな。

 まだ空は色づいていないが、ポータルに辿り着く頃には真っ赤になっているに違いない。


「ちまちまポータルの開通進めておいてよかったな」


 本格的なパワーレベリングは今日が初めてだが、空いた時間を使ってヴィーシャのポータル開通は25層まで進めてあった。

 おかげで今日のパワーレベリングが順調にできたというわけだ。


「皆さんのおかげです」


 深々とヴィーシャは頭を下げた。

 さらりと長い銀髪が流れるように肩を滑り落ちていく。


 こういうところでちゃんと教育を受けた子だなとわかる。

 師匠ベクルトんところで悪い影響も受けてはいるが、基本的には礼儀正しいのだ。


「むしろありがたいのはこっちだよ。ニーナがアーリアに残る以上は、回復役は必須だったしな」


 あたしらはポータルに向けて油断はせずに進みながら雑談をする。

 途中で再配置リポップされたサンドワームはおまけで倒して進む。


「とは言ってもレベル1の回復魔法使いでは普通はパーティに入れようなんて思いません。それこそ駆け出しでもなければ。私にはやまいもありますし」


「領主のせがれと婚約してたんだろ。そっちのがいいと思うけどな」


 素直な感想が口をついて出てしまう。

 いや、だってどう考えてもそっちのほうがいいじゃん。


「じゃあ交代します?」


「それは嫌だよ。面倒そうだもん。貴族とか。あたしにゃ冒険者の方が性にあってる」


「それと同じですよ。私にとっても性に合わなかった」


「まー、そうか。体を鍛えるためとか言いつつ、あそこまで剣術を鍛えるこたねーもんな」


 ヴィーシャは不意を突けばレベル10くらいの相手なら制圧できていた。

 健康のために剣術を習う者がいないわけではないが、ここまで強くなる必要はない。


 レベル20になった今なら、もっと高レベルの相手とだって戦えるだろう。

 とは言ってもレベル20からは選択スキルによる戦いが激しさを増す。

 これまでのように簡単に、とはいかないだろう。


「魔石も結構集まったな」


「こっちでは売らないんだっけ?」


「カズヤが言うにはあっちで売ったほうがいいらしいからな」


「あっち、ですか?」


 あ、しまった。ヴィーシャにはまだ話していないんだった。


「あ、ーっと、今度移動する町だ。そっちのほうが魔石の価値が高いらしい」


「なるほど。すでに行き先について情報を集めていらっしゃるのですね」


 あたしらの失言でカズヤの評価が上がるのはなんか納得いかねーなあ。


「金はまだまだあるんだし、ぱーっとやろうぜ」


「あの私は普通に帰りますけど」


 ニーナが言う。


「念のために私が送っていくわね」


 とはロージア。


「ということはアタシらは飲めるな」


「私も帰ります。家族にスキルの報告をしたいですし」


「じゃあ結局いつもの二人じゃねーか!」


 気兼ねがなくていいけどよ。代わり映えもしねえなあ。


 そんなことを言っている間にポータルに辿り着く。

 この階層で狩りをする冒険者は滅多にいないのでポータルも無人だ。


「それじゃ帰りましょうか」


 臨時リーダーのロージアがポータルに触れ、あたしたちはダンジョンの外に出現し、そして待ち受けていた騎士団に取り囲まれた。

 連中はあたしらを見て一斉に剣を抜いた。

 あたしらも咄嗟に臨戦態勢に入る。


「なんだ? こんな時間からダンジョン演習か? はい、ごくろうさん。道を開けてくれ、こっちはレベル上げ帰りで疲れてんだよ」


「女戦士どもはアーリアの問題児シャノンとエリスだな。ヴィーシャという娘が一緒にいるはずだ。領主様のご命令だ。引き渡してもらおうか」


 あたしらに向かって剣を構えたまま騎士団員の一人が言う。

 十人隊長くらいかな。

 レベルは60くらいだろう。


 他の騎士団員もレベル50以上。

 それが20人ほどいる。


 騎士団は入団条件がレベル50で、階級が上がると大迷宮への出張でさらにレベルを上げるとは聞いていた。


 つまり、あたしらでは勝てん。


 ポータルに逃げ込む手はある。

 だが食料の問題でいつまでもダンジョンに潜んでいることはできない。


「ヴィーシャという女性だけ引き渡してもらえば、お前たちは昨日と変わらぬ日々を送ることができる」


 この状況は想定していなかった。指示も受けていないのでカズヤも同じだ。


 領主がいきなり市民を連れて行く。

 別によくあることだし、領主にはその権限がある。

 領民というのは領主の許可があって生きているのだから。


「私さえ付いていけば他の方は何の責も負わないと約束してくださいますか?」


 ヴィーシャが唇を噛みしめて言う。


「ああ、この場にいる者たちは(・・・・・・・・・・)な」


「ヴィーシャ、一点突破で逃げ切れる可能性もあるぞ」


 薄い目だが、ロージアの[水生成クリエイトウォーター]で場を水面に変えれば、瞬間的に地の利を得られるだろう。


「エリスさん、彼らは騎士です。馬が用意されているに違いありません。逃げ切れませんよ」


「だが……」


「皆さんにご迷惑はかけられません。今日は本当にありがとうございました。おかげさまで生きるのが少し楽になりました。このお礼は必ずいたします」


 泣きそうなツラでなに言ってんだよ。

 あたしにとってお前はもう仲間なんだ!


「おい、エリス」


「やったろうぜ」


 その気になりかけていたあたしたちだが、途端に逸り気が失われていく。

 ニーナの回復魔法系統[沈静カーム]だ。

 ロージアの入れ知恵だな。


 くそ、心が落ち着くと勝ち目がないことがはっきりと理解できる。

 激情にかまけた突撃はもうできない。


 そしてヴィーシャは前に出て、騎士団に保護、いや、拘束された。


「カズヤさんにお伝えください。さようなら、と」


 あたしにゃ別の言葉に聞こえたぜ。

 だから伝える。

 必ずな。

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