第600話 【緋美子】は準備を整える
[夢見]スキルの話を聞いてアセンディア研究会に足を運ぶ多くの人は勘違いをしている。
確かに[夢見]スキルは未来を夢に見せるスキルだ。
そしてその未来は変更が可能だ。
多くの人がそこで間違える。
変更可能なのであれば夢見で見たものより、より良い未来を掴み取れるのではないか? と、夢見とは違う行動を取り、失敗する。
毎回ちゃんと説明をしているはずだ。
同意書も音読の上で署名してもらっている。
どんな最悪な未来を夢に見たとしても、それが無数に分岐する未来のうちで一番マシな未来なのだ。それが最善の答えなのだ。
失敗したかに見える夢を見ても、その通り失敗しなければならない。
それが[夢見]スキルの正しい運用法だ。
だけど人は悲劇が待ち受けていると知ると、回避するために力を尽くしてしまうらしい。
その運命と闘うことにロマンを感じてしまうらしい。
定められた未来などない、とか言い出す。
そうだね。
人は未来を変えられる。
その通り。夢見より悪い方に。
「緋美子さま、樋口湊への連絡は言われた通りに終わりました」
氷守の報告を受けて私は頷く。
[夢見]スキルで見た未来では、この段階でこれ以上の情報を樋口湊に伝えていない。
だから今のところこれで正しい。
「予定通り私たちは立方体に向かいます。明後日までに不動、雷鎚、韋駄天、百祈のレベルを40まで上げなければなりません。立方体の40層で経験値稼ぎをします」
私と氷守はレベル40に到達していて二つ目の選択スキルを入手しているが、他の四名はそうではない。
今回は取得すべき選択スキルも前もって伝えてあるので、私たちのシナジーはさらに強化されるはずだ。
「かなり無理をしなければなりませんが……」
立方体はアセンディア研究会が秘匿し、独占するダンジョンだ。
その名の通り、ダンジョン内はすべて立方体の部屋で構成されており、部屋ごとに違うイベントが発生する。
まあ、多くの場合はモンスターとのエンカウントなのでそれほど恐れる必要はないが、稀に嫌らしい罠が仕掛けられている場合もあり、油断がならない。
起きるイベントは攻略しても一定時間で復活するが、必ず同じ物が発生するため、二度目の対処は容易だ。
問題は純粋に40層の敵の強さだ。
私の[火焔]スキル+[自由自在]に、氷守の[氷結]スキルを、氷守の[融合]スキルで合わせた技[嗢鉢羅焦熱]は立方体の狭い空間では使いにくい。
樋口湊たちとの戦闘でもかなり無理をして使った。
空間が水で覆われていなければ、ビルごと燃えていた恐れがある。
結局、相手の水魔法による浸水で大損害を受けたわけだが、私の中では予定通りだし、怒られるのも想定内だ。
「無理をすれば可能だということです。[夢見]でもできていました」
[夢見]で見た未来を実現するのは簡単、というわけではない。
とてつもない努力を要する場合は少なくない。というか多い。
なぜなら[夢見]は最善の未来を予知するスキルであるから、それに至るには当然に支払うコストが大きくなるのだ。
でもまあ氷守に文句を言う筋合いはある。
[嗢鉢羅焦熱]を使わない立方体の攻略は氷守の[氷結]スキルに頼っているからだ。
[嗢鉢羅焦熱]も氷守の力に頼るところ大ではあるのだけど。
「今回は私も前衛として戦います」
「それはあまりにも危険ではありませんか?」
スキル[自由自在]は他のスキルと組み合わせることで効果を発揮する。
私の場合は[火焔]スキルと組み合わせて、炎をまるで物質のように操っている。
攻防一体の強力な合わせ技だが、意識の外からの攻撃に弱い。
だけどデメリットなどどうでもよいほどに強力なスキルだ。
「それがもっとも効率が良いですから。それに[夢見]でも私はそう戦っていましたから」
「緋美子さまがそう仰るのであれば、私は全力でお守りするだけです」
「ありがとう、氷守」
私たちを待ち受ける試練はあまりにも苛烈だ。
まったく知られていない技術体系の世界で、そこでちゃんと訓練を受けた軍隊を相手にすることになる。
なぜそうなるのかまではわからない。
だけど[夢見]はそれが私にとって最善の未来だと言うのだ。
ならば私はそれを求める。
目指すのはこのゲームにおけるハイスコアだ。




