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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第9章 瑞穂の亡霊たち

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第599話 最悪を想定する

 僕らは公共交通機関を使って神楽坂の部屋に戻ってきた。


「ゆうべはおたのしみでしたね」


 当たり前のように白河ユイがいるのはもういいとして、そのセリフはなんなの?

 なんでわかるの?


「ヒロさんは起きてからまだちゃんと鏡を見ていませんね。歯磨きはちゃんとしましたか」


 シャワーを浴びたときに歯磨きはしたんだけど、特になんも思わなかったな。


 白河ユイがちょんちょんと自分の首筋を指差す。


 僕はハッとして自分の首筋に手を当てた。

 当てたところで見えないんだけど。


 そう言えば昨晩メルに散々……、


「歯形だらけでかなりグロいです」


 噛まれたんだよなあ。

 グロいほどだったか。


 僕はどうにも自分の顔を直視するのが苦手で、歯を磨くときもなんとなーくでしか鏡を見ない。

 髪をセットする時も髪に集中していて、顔あたりはぼんやりとしか見てないから、首筋なんてまったく目に入ってなかったよね。


「ワイシャツならなんとか誤魔化せるかもしれませんね」


「適切な助言をありがとう」


 僕らが荷物を置いている間に白河ユイはクローゼットからアイロンのかかったワイシャツを取り出してきて渡してくれる。


「じゃあ着替えるから」


「はい、どうぞ。ネクタイなら任せてください」


 強い。妻のいる目の前であたかも正妻の如きムーブ。


 一方、メルは鞘に入った剣を手にする。


「やっぱり魔銀の剣かなあ」


 真っ二つにされるのは僕か、白河ユイか、それとも二人共か。


「ひーくんはこっちに武器持ってきてないよね」


 ああ、そうだった。アーリアに武装して行けと言われてるんだった。


「そうだね。主な武具類はあっちの部屋に置いてある」


 メルはトリエラさんの宿屋を引き払った流れでそのまま全部こっちに持ってきてるもんね。


「魔銀のショートソードならあるけど、ひーくんは苦手か」


「そうだね。魔銀系は扱いがね」


 魔銀は常態では比較的柔らかい金属で、魔力を流すと硬さと鋭さが増す扱い難い素材だ。

 軽くて取り回しが利くのだけど、戦闘中は魔力を緻密に操作するか、常に全開で流し続けるかになる。


 僕が諦めて上着を脱いだら、白河ユイはそれとなくワイシャツを広げてくる。

 着せてあげる、ということらしい。


 二度目の諦めで、白河ユイにされるがままにワイシャツに着替える。


 なぜかメルは白河ユイの世話女房ムーブには文句を言わないんだよね。

 なんというか部屋を片づけてくれる分の代金みたいに思ってない?


「あちらに行くんですか?」


「ちょっと様子をね。どうなるかわからないからユイちゃんは部屋に戻ってて」


「いえ、お構いなく。好きにしますので」


 白河ユイは僕のネクタイを器用に締めながら言う。

 いや、帰れよ。


「私はフル装備で行けるけど、ひーくんの防具がないなあ」


 メルはパチパチと装備を身に着けていく。


「転移したらそこにあるから大丈夫でしょ」


 別にそんな気にするようなものでもないと思う。


「確かにそうなんだけど、氷守さんはなんて言ってたんだっけ?」


「『可能な限り早く、可能な限り武装して、パートナーと共にあなたのユニークスキルを使いなさい』だね」


「それって装備状態でスキルを使えって意味だよね」


「それはまあ、言葉としてはそうなるけど」


 そんな細かいところまでニュアンスが厳密なんてことあるかなあ?


「ユイちゃん、なにかひーくんでも装備できそうな装備持ってない?」


「盾ならありますけど、武器は持ってないですね」


 そう言えばこの子探索者なんだった。

 それも[調教]スキルでモンスターを引き連れてソロ攻略してたタイプの。


「それでいいから貸して」


「今度ヒロさん貸してくださいね」


「それでもいいから」


「やった。持ってきます」


 白河ユイは駆け足で部屋を飛びだして行く。


 よくないよ!


「そこまで深刻になるようなこと?」


「むしろひーくんにしては楽観的だよね。[夢見]スキルの逸話をあんまり知らないからか。言ったよね。悲劇回避に特化してるって。私は最悪の状況を想定するべきだと思う」


「最悪というと冒険者ギルド長が僕の存在に我慢がならなくなって、捕縛の依頼を出したとかか。赤の万剣は引退したとは言え、他にも有力な冒険者パーティはいっぱいいるからなあ。そうなると待ち伏せもありうるか……」


 僕は本来悲観的な人間だ。

 だからスイッチが入ると、次々最悪のパターンが思い浮かぶ。


「ニーナちゃんだ」


「ニーナちゃん?」


「アーリアの冒険者ギルドが敵に回るとしたら、僕らはニーナちゃんを確保に動かないといけない。ヴィーシャさんはまだ実戦投入できるほどじゃないだろうし、ニーナちゃんのところに辿り着けるかどうかが勝負になる」


「というか、ニーナちゃん自身も危ないんじゃない?」


「それは最悪の最悪だな。冒険者ギルド長が目を付けているのはあくまで商人としての僕だから、30層以降の魔石を取ってこれる冒険者であるニーナちゃんに手は出さないと思いたいけれど……」


「とにかくアーリアに行ったらニーナちゃんの確保だね」


「他のメンバーとはその後で合流を図ろう。冒険者ギルド長の暴走だと仮定して、僕がもう出て行くことを伝えたら収まるはずだ」


「お待たせしました!」


 白河ユイがポリカーボネイトの円形盾ラウンドシールドを僕に手渡す。

 正直無いよりはマシ、程度か。

 万が一が無ければ僕の部屋に捨てていくことになるけど、その場合は代わりを買うから許してね。


「それじゃ行こうか」


「うん」


 メルとはパーティを組んであるから、この距離ならキャラクターデータコンバートの効果範囲だ。


 僕はスキルを発動し、アーリアへと転移した。


 そこで待ち受けるものを、完全に勘違いしたままに。

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