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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第9章 瑞穂の亡霊たち

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第598話 たった一つの冴えたやり方

 シャワー後、ルームサービスで届いたイングリッシュブレックファストを食べながら先日の情報共有を行う。

 特に魔石が爆発するという情報についてはメルの確認が必要だ。


「いわゆる自爆石だね」


「自爆石?」


「レベル30くらいからは魔石を割れるから、いざという時のための自爆用に持ち歩く人もいるんだ。最悪な死に方をするくらいならいっそ、みたいに」


「その層で拾った魔石を使うんじゃなくて、持っていくのか」


「あはは、例えば30層魔石なんか起爆させたらパーティメンバーも巻き込んじゃうよ」


「こわ」


 メルの返答からわかることは、魔石の爆発は火薬の爆発とは違い、システムに組み込まれた正規の処理で、レベル補正を備えているということ。

 つまり高レベルを相手にダメージを与えられる。


 うーん、これ地球側はまだ気づいてないよな。

 魔石を爆発させるために必要な威力にもよるけど、爆弾で囲んだ魔石を投射して起爆すれば対モンスターの遠隔武器になる。

 経験値は入らないだろうけど、窮地をしのぐ切り札としてはとてつもなく有効だ。


 それ以外にも魔石爆発は色々と応用が利きそうだ。

 爆発の程度によるけれど、面白いことができそうな予感がする。


「じゃあ家とかは手に入るんだね」


「綾冬翁に頼る形にはなるけどね。その代わりにすぐに手に入ると思う。そこは正直ありがたいな」


「家の管理は?」


「一旦は僕の家族にお願いしようかなって。秘密だらけの家になるから、信用できそうな人をおいおい雇っていく感じで」


「なるほどね」


 ただ父さんと水琴にはオリヴィア関係でも手伝って欲しいところなんだよな。

 父さんはWebメディアに一定の造詣があるみたいだし、水琴は今時の女子中学生だ。僕らの知らない普通の若者がどんなものを好むのかのサンプルになる。


「後は船を下りたら『組織』や綾冬琥之佑、北森源治郎なんかの裏取りをして、問題なさげなら進める予定」


「船は何時に港に戻るんだっけ?」


「10時の予定だからもうちょっとだね。下船の最終時刻としては16時までらしいよ」


「急いで降りたほうがいいかもね」


 それはある。

 このクルーズは『組織』が主催であり、乗っている限り、『組織』の監視下にある。


「じゃあ、降りる支度しておくか」


 荷物をスーツケースに放り込んで、僕らは帰宅態勢になった。


「ひーくんの今日の予定は?」


「とりあえず代筆屋と印刷屋に連絡だなあ。それから咲良社長にも連絡したい」


「咲良さんに?」


「僕らの一張羅をクリーニングに出したいからさ。こういう高級品だと普通の店ではたぶん取り扱えないと思うから。あと白藤綾乃の件についても一応事情を教えておきたいかな」


 瑞穂商事の狙いが僕との接点を持つことであればそれは達成されてしまった。

 だから白藤綾乃のプロデュースという話自体が無くなる可能性はある。


 咲良社長としては儲けたいというよりは、瑞穂商事という大企業相手に断れなかったというのが本当のところだから、この話が流れたとしてもショックではないはずだ。


「ん~、じゃあ私はどうしようかな。YouTube関係でなにか進めておきたいとは思うんだけど」


「あー、それじゃ探索者証の取得をしておいてくれると助かるかも。オリヴィアがダンジョン攻略を指南する動画は作りたいしね」


「それだと新宿の都庁ダンジョンに行けばいいのかな?」


「そうだね。ダンジョンのあるところでは必ず講習やってるはずだから、都庁ダンジョンでも受けられるはず。ひとりで大丈夫?」


「心配しないでよ。そろそろ東京の公共交通機関にも慣れてきたし、スマホがあれば大丈夫」


 すっかりスマホの扱いに慣れちゃって。


 窓の外にはお台場の風景が流れ始めた。

 そろそろ東京国際クルーズターミナルだ。

 着岸したらすぐに降りる客に混雑するだろうな。


「さっさと行って並んでおこうか」


「そうだね。ここにいてもすることないし」


 僕らはスーツケースを転がして客室を後にする。


 レセプションのあるフロアは思っていたより混雑していなかった。

 金持ちは急がない。そういうものなのかもしれない。

 あるいは船内の設備をギリギリまで利用したいとか、乗船客との顔つなぎをまだしたいとか、そういう理由なのかもしれなかったけれど。


 一番手ではないけれど、僕らは七組目くらいの順番で下船する。

 受付でクルーズカードを返し、デポジットの残りとスマホを返却してもらう。


 当たり前だけど現金の精算にはちょっと時間がかかって、他の客にどんどんと追い抜かれていく。

 一千万預けたデポジットはほとんどが返ってくることになった。

 まあ、ちょっと飲み食いした程度だからね。

 それでも何十万も減ってるわけではあるんだけど。


 精算の間に先に受け取ったスマホの電源を入れる。

 色々と通知が流れてくるけど、それと同時に着信が入る。


 通知欄には『氷守さん』の表示。


 アセンディア研究会で緋美子さんの取り巻きみたいだった女性で、[氷結]スキルの使い手だ。

 連絡先の交換はしてあったけれど、このタイミングで通話をかけてくるというのはあまりにもタイミングが良すぎる。

 考えられるのは緋美子さんの[夢見]スキルで、この時間に電話をするという未来を見た可能性だ。


 僕は通話ボタンを押してスマホを耳に当てる。


『用件だけ伝える。可能な限り早く、可能な限り武装して、パートナーと共にあなたのユニークスキルを使いなさい』


 声は氷守さんのものだ。


「それはスキルによる啓示ですか?」


『そうだ。受け入れるも受け入れないも自由だけど、その結果受けた損害について文句を言わないでもらいたい』


「ひとつだけ確認を。[夢見]スキルは対象にとって最善の未来を予知するスキルですよね。対象者は誰ですか?」


『緋美子さまだ』


 僕がアーリアに転移することが緋美子さんの利益に、あるいは損害を抑えることに寄与するということか?

 意味がわからない。


 だけど武装してアーリアに転移して、何事もなければ戻ってくればいいだけだしな。


「わかりました。とりあえず言うとおりにします。結果の報告は必要ですか?」


『またこちらから連絡する。最善のタイミングは[夢見]スキルが教えてくれる。一秒も無駄にするな』


 氷守さんの真剣な声は、彼女が緋美子さんの[夢見]スキルをそれだけ真剣に捉えていることの証左だ。


「メル、緋美子さんの[夢見]スキルで、僕らは一刻も早く家に帰らないといけないみたいだ」


 僕がそう言うとメルは真剣な顔になった。


「聞いた話ではあるけれど[夢見]スキルが他人の行動に言及するのは珍しいね」


「そうなんだ。けどあっちの出来事って僕が動かないとなにもできないからそれでかな?」


「あっちなんだ。だったらそれはあるかも。私も、なんだよね?」


「そういうことみたい」


「急ごう。[夢見]スキルは悲劇の回避に特化してるから、なにか良くないことがあっちで起きてるんだ」


「良くないこと?」


「武装するように指定されたということは、それが必要になる(戦闘が発生する)ということだと思う。気を引き締めよう」


「マジか……」


 アーリアに転移するだけで武装が必要?

 どんな状況だって言うんだ?

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