第597話 一夜明け
一晩中虐められた僕の目には、もどかしい快楽の果てに一睡もできないまま迎えた朝焼けの空が映っている。朝焼けと同じ色の髪の毛も一緒だ。
メルは満足したのか僕の上ですっかり熟睡している。
僕はあれだけ果てさせられたのに、不完全燃焼の獣欲が胸に燻っている。
許されるなら今すぐにでもメルをめちゃくちゃにしたいんだけど、手出し禁止はいつまで有効なんでしょうか?
ソシャゲみたいに朝五時にリセットとかない?
僕の体の上で寝息を立てるメルの太股がそれとなく刺激してきて、ぞわぞわと背筋に快感が走る。
誘惑に負けた男が落ちる地獄としてこれほど適切なものはないだろう。
本当に触れたい人に触れられず、棒のように横になっていることしかできない。
熟睡しているように見えるからちょっと触るくらいなら気づかれないんじゃないかと誘惑が頭をかすめるけど、それで失う信用を思うと身動きが取れない。
どの程度信用が残っているかもわからないけれど。
メルの温もりを感じること、どれくらいだろうか。
世界が一周するくらいの時間が過ぎたような気もするけれど、実際には朝焼けがようやく終わっただけだ。
身じろぎをしたメルが僕の胸に顔をぐりぐりと押しつけ、そしてパッと目覚めた。
異様に寝起きがいいよね。メルは。
誘惑に負けずにすんだことに僕が安堵していると、メルは太股に当たる硬い感触に気づいたようだった。
メルは眉の間にしわを寄せ、ジト目で僕を見上げてくる。
「どういうことなの?」
「だって……」
全裸のメルがずっと密着してるんだよ。
そりゃこうもなるよ。
でも結構ヒリヒリとした痛みがあります。
「だって、じゃない! これだけ元気だとなんだか昨日のことも信用ならなくなってきたなあ」
「誓って性的なことはしてないよ」
快楽の拷問で自白させられてたよね。僕。
「その性的って、どこからなのかなあ」
そりゃ昨晩メルにされ続けたようなことだよ!
「触ったりはしたんでしょ。キスは?」
「唇にはしてない、です」
「どこならしたんだ!」
このやりとり昨晩もありました。
「首とか、鎖骨とか、もうちょい下とか」
「おっぱいじゃんか!」
おっぱいじゃないよ。もうちょい上だよ。
いや、広義ではおっぱいに含まれるのか?
どこからがおっぱいで、どこからがおっぱいじゃないんだ。
そもそもおっぱいとはいったい。
「脱がしたり、服の上からとか、そういうこともないんだ」
「でも露出の多い格好だったんでしょ!」
いまの君ほどではないけれど、まあ、はい。
「メル、昨日の兎さんのことより君のことを考えたい」
「いま挿れたいだけでしょ!」
それを言われると否定できなくて辛い。
決してそれだけが目的ではなくて、本当に昨日のあれこれよりメルのことを考えていたいんだけど、欲求が無いのかと言われたら、あるよね。
「もう、しょうがないなあ。……ってなるわけないんだからね!」
メルは僕の上から横に転がるようにベッドから降りて、スタッと立ち上がる。
「シャワー浴びてくるけど、入ってきたら駄目だからね」
そんな、これじゃ生殺しだよ。
いや、昨晩枯れるほど搾り取られたばかりだけど。
メルがシャワールームに入っていったので僕も起き上がり、ベッドの周りを片付けることにした。
流石にこのままって訳にはね。
せめてゴミくらいはちゃんとゴミ箱に入れて、口を縛っておくことにする。
僕の遺伝子なんだけど、目的を全うできないからゴミだね。かなしいね。
びしょ濡れのスーツはどうしたらいいんだろう。もう駄目かな、これ。
一応クリーニングには出してみたい。
こういう高級スーツのクリーニングだとどこに頼めばいいんだろう。
白藤綾乃には頼りたくないから、咲良社長に聞いてみるか。
しかしこうなるとドレスコードの関係で部屋から出られないな。
僕に残された服はスーツケースで持ち込んだ着替えの普段着だけだ。
そして乱雑に脱ぎ捨てられたメルのドレスにため息を吐く。
もー、これだから僕の知らないところで脱いじゃダメって言ってるのに。
形を整えてメルのドレスもスーツケースに入れる。
こっちもクリーニングに出した方がいいな。
そうやって部屋を片付けているとメルがシャワーから出てきた。
着替えを持っていかなかったのか、バスタオルを体に巻き付けた姿だ。
絞っただけの髪がぺたりと体に張り付いている。
「ひーくん、髪乾かして」
アーリアの公衆浴場だと温風の魔道具があって、これがドライヤーみたいな役割をしている。ドライヤーに比べたらかなりダイナミックな感じだけど。
僕はメルの荷物から、なんかがなんかでなんか髪にいいとかいうドライヤーを取り出すと、椅子に腰掛けたメルの後ろに回った。
メルの髪は長いので乾かすのが大変だ。
こういう時はアーリアの温風の魔道具が楽だなあ。
足元からぶわぁぁぁって程良い暖かさの風が全身の水分を飛ばしてくれる。
メルが使っていたところは見たことがないけれど、髪の毛の長い男性が使うと、髪の毛が強い風で逆立ってて面白いんだよね。
もちろん魔石を使っているため、温風の魔道具は使用料がかかる。
でも公衆衛生の一環ということなのか、かなりお手軽な値段なので気軽に使える。
だけどこうしてドライヤーでメルの髪の毛を乾かしていくのも好きだ。
弱めの温風で全体を乾かしていって、ヘアオイルを塗って、冷風で仕上げをする。
メルの髪は少しクセがあるので、乾き具合が逆にわかりやすいところがある。
ドライヤーを当てた後は丁寧に櫛を入れていく。
「こんな感じで如何ですか? お嬢様」
「褒めてつかわす」
「有り難き幸せ」
「じゃあひーくんもシャワー浴びてきなよ。そしたら朝ご飯食べよ。もー、お腹ペコペコ」
「それだけど、ドレスコードの問題があるから、ルームサービスを頼もうかなって。先に注文してからシャワーを浴びるよ」
僕らはルームサービスのメニューと睨めっこし、それが終わってから僕はシャワーを浴びた。




