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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第9章 瑞穂の亡霊たち

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第596話 極楽という地獄

 メルを後ろから抱きしめながら、目の前の男たちを睨み付ける。

 だけど敵意ヘイトが出るほどではない。

 メルをナンパしたくなるのは男性として当然のことだからだ。


 人の女に何してんだ! という姿勢は見せるけど、心の中から怒っているわけではない。


「なんだよ。冷めるわー。行こうぜ」


「シケてんなあ」


 僕の心中を知ってか知らずか、男たちは口々に文句を言いながらこの場を離れていく。


 その間、僕の腕の中でじっとしていたメルは、頭を振ってゴンと後頭部を僕の胸に打ち付けた。


「ナンパされる前に来てねって言ったよね」


「ごめん。思ってたよりも手間取って」


「それはいいよ。間に合った判定にしてあげる」


 あぶなー。北森源治郎のところからプールに直行してよかった。


「で、この匂いなに? 女物の香水だよね」


 やっぱりシャワー浴びてから来ればよかった!


「これは、えっと、ちょっと兎に絡みつかれて」


「なんだそれ」


 するりと僕の腕から抜け出したメルが、くるりと回転すると、見事な回転蹴りが僕の脇腹に入る。


 僕は吹っ飛ばされてプールの水面で一度跳ねてから、水没した。

 慌てて水を掻いて顔を出す。

 ちょっと水を飲んでしまって気持ち悪い。


 周囲は騒然としている。

 プール内で誰とも激突しなかったのはメルがちゃんと僕を蹴り飛ばす方向を調整してくれたからだろう。


 メルはちゃんと僕が死なないように手加減もしてくれるし、周りがちゃんと見えている。

 それにしても威力が控えめだった気がするけど。


「げほっ、ごほっ、言い訳は後でするとして、遅くなって本当にごめん」


 僕はプールの中をメルに向かって歩く。

 プールの端に辿り着いたら、メルが手を伸ばしてくれた。


「だからそれはいいって言ってるじゃん」


 メルの手を借りてプールから体を引き上げる。その途中でメルは手を止める。


「で、兎ってなに?」


「バニーガールって言ってもわからないよね。なんというか女性の接待係というか」


兎女バニーガール? よくわかんないけどえっちなやつか!」


「あ、はい」


 非情にも手は離されて僕はもう一回プールに沈んだ。

 水面に顔を出した僕の顔にメルの足裏が押しつけられる。


 沈めようとしてない? そりゃするか。


「ごめん! 本当にごめん!」


 がぼがぼと沈められながら僕は必死に謝ることしかできない。

 流石に殺人現場になりそうだと思ったのか、警備員たちがやってきて、メルをプールサイドから引き離す。

 僕は警備員の手を借りてなんとかプールから上がった。


 あーあ、アルマーニがずぶ濡れだよ。

 メルを抱きしめた時点で濡れてたっちゃ濡れてたけど。


「ひーくん、行くよ!」


 警備員を振り払ったメルにネクタイを掴まれて僕は連行されていく。


 メルはちゃっかりプールサイドにある施設でバスタオルを借りて、自分の水気を拭くとそのまま長い髪の毛ごとバスタオルを頭に巻き付けて、もう一枚バスタオルを借りると、僕にぶん投げた。


 っても服ごとずぶ濡れだからいくらバスタオルがあっても限度があるよね。

 靴に水が溜まってちゃぽちゃぽなってるし。


 一応首から上だけバスタオルを当てて水気を拭うと、メルが再び僕のネクタイを掴んで連行していく。

 エレベーターに乗って僕らの客室へ到着する。


 メルは止まることなく、僕はシャワールームに叩き込まれる。


「脱げ」


「はい」


 えっちな雰囲気じゃないよ。

 どっちかというと刑罰的なやつ。


 びしょ濡れの衣服に苦労しながら全裸になると、メルが指で床を指す。


 僕は即座にその意図を理解した。


「はい」


 正座する。全裸で正座。

 これがバニーガールの誘惑に負けた男の末路だ。


 メルはシャワーヘッドを手にすると、温度を確かめもせずに僕に向けて全開にする。


 夏で良かった、のかな?

 船上だからということもあるのかもしれないけど、ほどよい冷たさの水が頭から降り注ぐ。

 ガコンと目の前にボディソープが落ちてくる。


「洗え。臭いがしなくなるまで」


「はい」


 僕はボディソープを手に取って泡立てようとする。

 するんだけど、シャワーがずっとかかってるから、ボディソープが流れていっちゃうよね。


「あの」


「なに?」


「いえ、なんでもありません」


 有無を言わせない目で睨まれて、僕はボディソープを直接頭に出して、シャワーで泡立ったそれで体を拭い続けた。


 本当に僕が悪いのでなにも言えない。

 メルがナンパ男をきっぱり拒絶してる裏でなにをやってたんだ、僕は。

 北森源治郎や『組織』の協力を得るより、メルの気持ちのほうがよっぽど大事だろ。


 僕は自然とメルに向けて頭を床に打ち据えた。

 人は心から反省するとこの姿勢になるのだ。


 僕がその姿勢を堅持していると、やがてシャワーは止まった。


「はぁ~~~~~~」


 めちゃくちゃ大きなため息を吐いたメルは、僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 いや、違うな。泡が流れてきてるから、これは洗われてるんだ。

 怒っているにしては優しい手つきだった。


「ひーくんなりに理由がちゃんとあったんだよね」


「そうだけど、君を不快にさせたのは事実だ」


「それはそう」


 だよね。


「だから徹底的に洗ったげる。体の隅々まで、私が満足するまで、全部」


「あ、いや、それは」


 なんか嬉しいけど、変なことになっちゃわない?


「ほら、立って」


 メルに促されて僕は立ち上がる。


 目の前にはビキニ姿で頭にバスタオルを巻いたメル。


 メルは視線を一度下に落とした後、僕をジト目で見上げて言う。


「なに期待してんの? そっちには言ってないんだけど」


「ごめん、つい」


「はぁ~~、いっか、これだけ元気ってことはそういうことだろうし」


 泡だらけの手でメルは僕をむんずと掴んだ。

 むず痒い快感が走る。


「ひーくんから何かするの絶対に禁止ね。全部上書きしてあげる」


 そして極楽のような地獄が始まった。

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