第594話 本題に入る
どこからが浮気になるかみたいに、どこからが性的か、って曖昧な基準だよね。
僕の基準ではバニーさんに性的なことはしなかったのだけど、メルがどう判定するかはまた別の話で、長柄秋の件でメルと浮気の話をしたことがあったけれど、あの時とは状況が違うよね。
かと言ってメルが僕以外の誰かと、僕がバニーさんにしたようなことをしていたらと考えただけで発狂しそうなので、後ろめたさはものすごくあります。
僕とは違って遠慮なく楽しんでいた風の北森源治郎は、キスマークだらけになったシワシワで骨張った上半身をさらけ出したまま、マッチで紙巻き煙草に火をつけた。
ジジジとタバコが燃え、北森源治郎はふぅと天井に向かって煙を吐いた。
「でけえ魔石を山みたいに持ってるんだってな」
やっと本題か。
必要だとはわかっているけれど、前置きが長すぎる。
「瑞穂商事を通じてウチが買う。公示価格の9掛けで。瑞穂商事がミーちゃんからいくらで買い取るかは知らんが」
「僕が売りたいのは公示価格が設定されてない深さの層で得た魔石です」
「公示価格は層が進むたびに大体倍になるだろ。あの計算式のままでいい」
となると、ダンジョン管理局から戻ってきた魔石を横流しするとして、数百億か。
半分は税金で持って行かれるとしても、綾冬翁との交渉で得た物の支払いには足りるだろう。
「そうはいいますけど、オークションに出したらもっと高値がつきますよ」
「山のような在庫がなけりゃな」
それは確かに痛いところだ。
深い層の魔石にオークションで高値が付くのは希少価値が高いからでしかない。
量が出れば当然に価値は下がる。
「魔石発電が実用化できそうなら発電量に応じた価格へと改定していく。今のところは開発のための投資だな」
「魔石発電自体は現状でも技術が確立されているのでは?」
低層のクズ魔石に圧力をかけて発電するためのグッズはコンビニでも手に入る。
魔石はいわば電池のように使うことができるのだ。
「スマホの充電やLEDライトを点灯させるくらいならな。大規模な発電を行うには仕組み自体を変えなきゃならん。面倒なのは魔石というやつがそれぞれに大きさも形も違っていて、加工ができないところにある」
「そうなんですか?」
それは考えたこともなかったな。
魔石というくらいだから削ったりして形を整えることはできそうな気がするけれど。
「ダイヤモンドカッターで傷一つ作れない。つまりダイヤモンドより硬いことになる」
「じゃあ割って大きさを整えるとか」
たしかダイヤモンドは硬いけれど衝撃には弱かったように思う。
ハンマーで叩けば簡単に砕けるのだ。
魔石にもそういう性質があるかもしれない。
「怖いことを言うなよ。魔石にそんな衝撃を与えたら爆発するぞ」
「そうなんですか?」
アーリアだと結構雑に扱われているけど、爆発したところなんて見たことないな。
「魔石を油圧プレスで潰した実験がある。同じ大きさのプラスチック爆薬を遙かに超える爆発が起きた。2層の魔石で油圧プレスのほうが吹っ飛んだ。常態では安定していて、圧力をかけると電力が生まれ、破砕するほどの圧を与えると爆発する。それが魔石だ」
「つまり兵器転用が容易ということですか?」
「そうとも言い切れん。小さな魔石だったらプラスチック爆薬のほうが使い勝手がいいしな。起爆が容易だ。だが破砕に必要な衝撃が与えられるなら、魔石のほうが大きさに対して威力が高い。含有エネルギー量を爆発力に置き換えて計算すると、20層魔石なら戦術核ほどの威力が出ることになる。計算上はな」
「こわっ」
「まあ破砕には大きな力が必要だからな。そう簡単に爆発するようなもんでもねえよ」
そうかなあ。
レベル41の僕が本気でハンマーで叩いたら爆発しそう。
でもそんなことしたら僕も吹っ飛ぶだろうな。
魔石の爆発だとしたらレベル補正を貫通してくる可能性も高い。
あー、これもしかしたらアーリアだと常識すぎて誰も教えてくれなかったシリーズか。
後でメルに聞いてみよう。
「で、実際のところどれだけあるんだ。コンテナひとつってのは吹かしだろ」
「まあ、流石に。それに30層以降の魔石は放出するつもりがありませんからね」
僕が貯め込んでいる魔石でもっとも数が多いのが30層だ。
百個はゆうに超えている。でも全然足りてないんだよな。
「どこか30層越えた辺りで楽なダンジョンがあれば、さらに魔石を集めたいところですが」
アーリアの30層はドラゴンだし、それ以降も硬い敵が多い。
都庁ダンジョンはそもそも全部敵が硬い。
僕が思うにアセンディア研究会が秘匿しているらしいダンジョンが30層以降が楽なんじゃないかなと思う。
そうでないと緋美子さんたちがあそこまでレベル上げられないだろうし。
そうでもないか。
あの二人の合体技みたいなのが連発できるなら、どこのダンジョンでも40層まで楽に行けそうな気がする。
「結界装置とか言うのは作れそうなのか?」
「まあ、少し時間がかかるでしょうが」
「ウチで巻き取ってもいい。特許を横取りしたりはせんよ」
「そりゃ助かりますが、あなたのメリットは?」
「オレだって『組織』の人間だってこと忘れてない?」
そうだった。
この人、日本の未来なんてどうでもよさそうだからすっかり忘れていた。
「一度持ち帰らせていただきますね」
代筆屋と印刷屋に話をして裏取りをしてからだな。




