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GAMELIZATION ~ゲーマライゼーション~ NPCの生存戦略  作者: 二上たいら
第9章 瑞穂の亡霊たち

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第591話 煙に巻く

「じゃあ私はプールに行ってくる。ナンパされる前に迎えに来てね」


 ディナーが終わった後、メルはそう言って本当に一人で行ってしまった。

 無理難題だよ、それは!


 ナンパされて欲しくないという気持ちと、メルほど可愛い女の子が一人でプールにいてナンパしないとしたらこの船の男性陣は目付いてんのか? って気持ちが混ざり合って、僕の顔が痙攣する。


「いいんですか?」


 崖から突き落としておいて、そんなことを宣う白藤綾乃に僕は恨みがましい目を向ける。


「ホクシンの創業者と会える機会を逃すことはできません」


 というか、この船って地上のことは忘れて楽しむ場だと思ってたんだけど、全然そんなことありませんでしたねえ!


「そもそもホクシンの創業者が乗っているならそっちを先に出してくれたら色々話が早かったでしょうに」


「北森様は純粋に休暇としてこの船に乗っておいでなので……」


「ならどうして?」


 いや、考えるまでもないか。

 綾冬翁が口を出したのだ。


 だとすると北森源治郎の機嫌が悪い、ということも考えられるなあ。


 白藤綾乃が先導して向かったのは客室のあるフロアの一番上、より高級な客室が集まっているフロアだ。

 その中でも一際豪華な扉のインターフォンを白藤綾乃は押した。


「お楽しみのところ失礼致します。白藤綾乃です。樋口湊さんを連れてまいりました」


 返事はなく、しばらくして扉が内側から開かれた。

 バニーのお姉さんによって。


 は?


 思考が一瞬止まる。

 室内からは重低音やや強めの緩いシンセサウンド。

 あまり聞き慣れない感じだけどLo-Fiヒップホップってヤツかな?


「どうぞ♡」


 バニーのお姉さんが手招きしてくるけど、え? これなんか間違ってない?


 助けを求めて白藤綾乃に目を向けると、彼女は目を伏せ首を横に振った。


「こういう方です。諦めてください。あと一人で行ってくださいね。私は呼ばれませんでしたので」


 嘘でしょ。

 それ先に言ってよ。


「やん、なんか可愛い。早く、一緒に楽しいことしましょ」


 バニーのお姉さんに手を引かれて僕は扉を潜る。

 せめて最後に一言だけ言っておきたい。


「このことは秘密に!」


 閉まり行く扉の向こうで白藤綾乃はクスリと笑みを浮かべ、そのまま振り返った。

 無情にも返答はないまま扉が閉まる。


 室内は薄暗くシンセサイザーの音と、独特の臭いが充満している。

 タバコ、にしては煙が多すぎるし、フルーティーだ。


 僕の腕に絡みついたバニーのお姉さんは、グイグイと僕を部屋の奥のほうに引っ張っていく。


「おじいちゃ~ん、お待ちかねの若い子ですよ~」


 そして連れて来られたのは海が一望できる部屋の奥、ソファに座り、なんか長いパイプを持った枯れ木のようなお年寄りの前だった。

 左右にバニーのお姉さんが一人ずつ付いている。

 テーブルではひょうたんみたいな形のガラスっぽい機械に液体が入っていて、コポコポと気泡が湧いていた。

 もしかしてこれ、水タバコ(シーシャ)か。


 老人はパイプを咥え、そして心配になるほど大量の煙を吐き出した。


「よぉ、駆けつけ一服だ」


 ドスの利いた声ぇ。

 パイプを差し出され、つい受け取ってしまう。


 どうしていいのかわからず困惑していると、まだ僕に絡みついたままのバニーのお姉さんが耳元で囁く。


「口の中に溜めて味わう感じで、肺には入れないで。ゆぅ~くり溜めて、はい、じょーず♡ じょーず♡」


 これ、なにプレイ?

 お爺さんとの間接キッスです。


「お口を大きく開けてゆぅ~くりと吐き出しましょうね♡」


 言われるがままにすると、柑橘系の味わいが広がっていく。

 思っていたよりずっと爽やかだ。

 ちょっとクラッとする感じがある。酩酊感とでも言うのだろうか。


「これで、いいですか?」


 ホースの付いたパイプを返すと、お爺さんはそれを受け取った。


「イケるクチだな」


 そう言ってお爺さんは自らもパイプを吸って、煙を大量に吐き出した。


 僕との間接キスを楽しんでいるわけではないよね?


 まあ、この人が北森源治郎で間違いないだろう。

 違ったらびっくりだよ。


「座れ、小僧」


 パイプを隣のバニーさんに渡して、北森源治郎は言った。


 拒否する理由もないので僕はバニーさんから少し距離を置いて座る。

 僕に絡みついているバニーさんも一緒にソファに座った。


 いや、広いな、このソファ。


 体に伝わる柔らかくて暖かい感触については極力意識しないようにしながら、僕はポーカーフェイスを保った。


「北森源治郎さんですね」


 世界的な大企業であるホクシンの創業者。

 だけどへりくだるつもりはない。

 ここにいる僕と彼はまだ取引相手ですらない。


「ゲンちゃんだ。ミーちゃん」


 ミーちゃんって僕のこと!?

 この人、源氏名でしか人の名前を覚えないとかか?


「同じパイプで煙を吸った穴兄弟だろ」


 やだなあ、その穴兄弟。

 そうじゃなくても穴兄弟ってなんかヤだけど。


 あとパイプを受け取ったバニーさんがごく自然に吸ってるんだけど、雰囲気チルすぎない?


「単刀直入に、お話があると聞きました」


「おいおい、野暮だな。まずは雰囲気を楽しんだらどうだ?」


「愛する人を待たせているので」


「小僧の愛する人は少し待たせたくらいで腹を立てるくらい狭量なのか?」


「そんな! ことは、まあまあ、ありますが」


 もう結構付き合いが長いけど、メルの怒るポイントがまだわかってないところあるよね。


「黙って俺に付いてこいってくらいの気概を見せたらどうだ?」


「今は令和ですよ」


「だが昭和のこんな老いぼれたじじいが令和に女を侍らせてる」


「前言を撤回します。時代の問題ではありません。社会の常識だってどうでもいい。僕は彼女と並び立つと決めた。付いてこいとは言いません。背中を追いかけることもしません。話し合い、目標を定め、共に困難に立ち向かい、一緒に進むと決めたんです。僕と彼女は対等だと僕が決めたからそうなんです」


「ふぅん」


 鼻を鳴らすと、北森源治郎はバニーさんからパイプを奪い取って、煙を大きく吸い込んだ。

本作は未成年者の喫煙を推奨するものではありません。

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めちゃ血来
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