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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第9章 瑞穂の亡霊たち

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第516話 水がない

 地獄、というものについて真面目に考えたことはある?


 大抵の人はなんとなくのイメージしかないと思う。


 日本人の場合、鬼が罪人を釜ゆでにしているとか、溶岩が流れる荒れ地、みたいなイメージがあるのではないだろうか。


 少なくとも僕はそれだ。


 いわゆる仏教的な地獄を絵画にしたものを見たことがあるからだろう。


 アーリアのダンジョン30層はちょうど岩地だ。

 26層から始まる岩地の最終層。


 西洋竜ドラゴンの闊歩する、アーリアのダンジョンにおける難所。


 ほとんどの冒険者は29層で必要十分にレベルを上げてから、30層は駆け抜ける。


 だから僕は地獄にここを選んだ。

 ポータルの開通以外の目的で30層にポータル移動してくる冒険者はいないから。


 そして僕の思惑はちゃんと成立した。


 僕がブリギットになにか危害を加えようとしていた人たちの第一陣を30層に送り込んだのが8月29日。

 8月29日を含んで今日まで、わずか4日で、いくつもの死体が転がっている。

 生きている者もまともに動けないようだ。

 死体かどうか判断に迷う者も多い。


 わずか4日で人がここまで衰弱する要因はなにか?


 渇水だ。


 人の体は飢えにはしばらく耐えられる。

 だが渇きには耐えられないのだ。


 脱水症状という言葉を聞いたことはあると思う。

 だけど深刻に考えたことはないのでは?


 僕ら日本人は飲み水に困ることがないから、なおさらそうだと思う。


 アーリア人もそうだよね。

 なんせ湧水の魔術で飲み水に困ることがない。


 だけど人間は水を飲まずにいるとわずか数日でこうなるのだ。


 30層は吹き抜ける風のある階層なのでひどく空気がこもっているというほどではないけれど、嘔吐物や排泄物の臭いが鼻を突く。

 乾燥しているから腐敗はそれほど進行していないが、それも時間の問題だろう。


 僕がキャラクターデータコンバートで強制連行してきた134人はパニックに陥った。

 ただでさえいきなり知らない場所に転移させられ、その先には無数の犠牲者が、つまり自分たちがどうなるかをまざまざと見せつけられたのだ。


「それではさようなら。これならどの国でも通じるかな? bye-bye」


 僕は手を離して、すぐにキャラクターデータコンバートした。


 横田基地の掩体壕に戻ってきた僕は、まだ驚愕が抜けきっていないスミスさんたちに迎えられる。


「My god! Really? Teleportation skill outside dungeon. And can involve another people who out of party. Not few, over hundred people!」


 英語はよくわからないけど、驚かれているのはリアクションでわかるよ。


「とりあえず僕の用件はこれで終わりです。湧水の魔術はどうされますか?」


「そうですね! 場所を変えましょうか!」


 スミスさんのテンションが急に高くて僕びっくりしちゃう。


 軍人としては見過ごせないスキルだよね。

 僕一人をHALO降下させて、現地に着地したら転移で軍隊連れてこれるわけだから。


 スミスさんたちは僕が任意の場所に転移できるかもしれないと思ってて、必要以上に警戒しているとは思う。

 たとえば僕が訪れたことのある場所に自由に転移できるのだとすれば、すでに横田基地は僕の転移可能範囲ということになる。

 実際はそうではないのだけど、そう恐れるのは自然なことだ。


 従って、その後案内されたのは飛行場の隅っこの方だった。


 重要施設に僕を近付けたくはないよね。わかる。


 続々と屈強なマッチョたちが集まってくるのはマジで怖いのでやめてほしい。


 もちろん湧水の魔術はメルも使えるので、手分けして指導することにした。

 というか、僕は英語でのコミュニケーションができるほどではないので、僕が見本を見せて、メルが構成への指導を行うという形だ。


 メルは米兵さんたちにも人気で、あちこちから声がかかる。

 英語でやりとりするんだけど、[聞き耳]スキルを使ったところで僕には英語力が足りないんだよな。悲しい。


 レベルアップで間違いなく頭は良くなったんだけど、言語能力、特に会話については実際に体験しないとなかなか伸びないみたいだ。


 ところで炎天下で湧水の魔術を構成だけして発動させないのもったいなくない?

 構成の維持にもある程度魔力を使うのだ。


「あー、この辺、水浸しにしてもいいですか?」


「What?」


 スミスさん、どこ行ったんだ、スミスさん!


「あい くりえいと うぉーたー いっぱい、えっと、あ ろっと! OK?」


「Sure! I wanna see how you do it!」


 たぶん、大丈夫みたい! サムズアップしてくれてるし。


 僕は湧水の魔術を発動させ、手のひらから水をあふれさせる。


 ふー、すっきりした。

 構成だけ作って魔術を発動させないのって、なんかもやもやするんだよね。

 こう、バットを振りかぶったけど、振らないみたいな。


 僕の手からあふれ、流れ落ちた水はアスファルトの地面に吸い込まれて消えていく。


 あれ、なんか全然水たまりができない?

 すごくない? このアスファルト。

 まるでスポンジみたいに水を吸い込んでいくんだけど。


 アスファルトって結構水たまりできるよね。

 雨の日とか、歩行者としては車が通るときに水しぶきが起きないか注意してるもん。


 僕がアスファルトに感心している一方で、米兵さんたちは、Oh! とかWoh! とかリアクションも大きく反応してくれている。


 言うて、湧水の魔術って熟練度とか関係ないからね。

 魔術自体がシステム設計通りのスキルではないバグ技だし。


 ただ込める魔力で水量は変わるし、継続力も変化する。

 いまの僕の魔力ならこの辺一帯水浸しにできる、はずなんだけどな。


 なんて僕が思ってる間にも、何人か湧水の魔術を習得できた人がいたみたいだ。

 メルの指導がいいからだな。


「じゃあ後は内々で教え合っていただいて」


「What?」


 誰かー! 日本語できるひとー!

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