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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第9章 瑞穂の亡霊たち

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第511話 人生を選ぶ

「そう、ですか。前からその予定でしたもんね」


 僕らが最初に会いに行ったのはニーナちゃんのところだ。

 診療所ではなくて、家の方。

 僕はニーナちゃんの家を知らなかったのでメルに案内してもらってきたけど、思っていた以上にボロい家だ。

 一軒家ではあるけれど、あまり治安の良くない辺り。

 今のニーナちゃんの稼ぎがあれば、余裕で引っ越しができるはずなのにな。


 家から少し離れた、大通りに出て僕らは話をしている。


「私は行けません。蓄えはありますし、パーティが解散なら自分で診療所を開こうかなと思っています」


 一応、僕らの旅に同行してくれないか誘ってみたけれど、やっぱり答えは思っていた通りだった。


「診療所? 冒険者は続けないの?」


「やはり危険のあるお仕事ですし。カズヤさんみたいに念には念を入れて安全に行く人は少ないんですよね。普通はもっと稼ごうとして無茶をします。うまく行けば別の町へ。失敗すれば墓地へ。冒険者を続けると、どちらにしても今の生活を失うんですよね」


「そっか」


 ニーナちゃんにとって優先すべきが家族の維持であるのなら、冒険者稼業からは手を引くのが正解だということだ。


「でも引っ越しはしたほうがよくない?」


「両親にお金があることをあまり知られたくないので」


 その一言にはニーナちゃんの複雑な家庭環境が滲み出ていた。


「それは……、家を出たほうが」


「弟や妹たちがいますし、それでもやっぱり親なので」


「ひーくん、その辺の話はもう終わってるんだ。ニーナちゃんは無理をしているわけでも、犠牲になろうとしているわけでもないよ。これはニーナちゃんの選択した人生なんだ」


「……」


 僕は手を握りしめて言いたい言葉を飲み込んだ。


 人を勝手に不幸だと決めつけて、その場所から引っ張り出すことが常に正しいとは限らない。


 白河ユイのときは事態が切迫しすぎていてそうするしかなかった。

[調教]スキルが覚醒すれば、白河ユイや周りの人間の人生が壊れてしまうからだ。


 だけどニーナちゃんはそうではない。


 彼女は幼いけれど、冒険者を続けていけば得られるであろう栄光を知っている。

 回復魔法使いとして大成するのが約束されている。


 だけどそうなったときに家族がいなくなっていたら、それは彼女にとって幸せではないんだろう。

 少なくとも彼女はそうだと決めて、選択を済ませている。


 なら僕にできることはそれを尊重することだけだ。


「残りの期間で、そのヴィーシャさんという方に、回復魔法使いのあり方をバッチリ伝授しますのでご安心ください!」


「報酬にはきっちり色を付けるよ」


「はいっ! 期待していますね!」


 ニコッと笑われてしまえば、もうこれ以上彼女をスカウトなどできようはずもない。


 僕らはニーナちゃんを家に送っていって、次はロージアさんのところに行くことにした。

 オスカー衣料品店でいつものようにロージアさんを呼び出してもらい、外のカフェで話をする。


「水魔法使いでしたら私でなくともいらっしゃると思いますよ。熟練度も高いわけではありませんし」


 ロージアさんの言うことは正しい。

 魔法使いの中で水魔法使いはもっともありふれている。

 これはアーリアの人たちが飲み水に[湧水の魔術]を使う関係で、水魔法の熟練度が上がりやすいからだ。

 ある程度の年齢なら、大抵は[水魔法]スキルを持っている。


 そして早い内に[水魔法]スキルを獲得した人は冒険者になって熟練度を稼ぐ。

 パワーレベリングをしたロージアさんの[水魔法]スキル熟練度はレベルに見合っているとは言えない。


 だからどうせ町を離れるなら別の水魔法使いを探してもいいのではないか? とロージアさんは確認を取っているのだ。


 だけど……。


「僕はロージアさんに来てもらいたいと思ってるんです。無理強いするつもりはありませんが、来てもらえると嬉しいな、という感じで」


「うーん、中途半端なんですよね。せっかくならもっと情熱的に口説いてください」


 今日はどうなってんの?


「カズヤさん、あなたは私に安定した人生を捨ててついてこいと言っているんです。誰でもいいけど、どっちかというとあなたがいい。みたいな言葉に人生を預けられますか?」


 殴られたような気分だった。

 僕は軽い気持ちで言っていた。

 でもロージアさんからすれば、それは人生を変える選択なのだ。

 説得するなら言葉を尽くせとロージアさんは言っている。


「僕は――」


「待って、ひーくん」


 メルに静止されて、僕は言葉を止める。


「よく考えて。これは交渉なんだ」


 交渉? 取引? いったいなにを?


 決まっている。これはスカウトの場だ。

 ならばロージアさんの価値について交渉している。


 でもロージアさんは別についてこなくてもいいって言って……。


 いや待てよ。

 ついてこなくても別にいいというのは、逆に言えばついてきてもいいわけで、どっちでもいい、つまり選択権が自分にあるときは交渉は強気に出るべきだ。


 だけど、ロージアさんは情熱的に口説けと言った。

 具体的でない要求をしてきている。

 僕なら大きめにふっかけて、そこから交渉する。

 ロージアさんがそうしなかった、そもそも言葉を尽くせと言ったということは。


 あー、そういうことか。


「ロージアさん、僕らと一緒に来てください。今更新しい人を入れるような賭けはしたくありません。熟練度より、僕らとのチームワークのほうが大事です」


「むー、まあ、いいですけど」


 ロージアさんは最初からついてくるつもりだったんだ。

 ただパーティ内で自分の価値をあげるためだけの交渉だった。


 僕がどうしても来てほしいと情熱的に言ったからついてきた、ということにすれば、今後僕に対して強く出られるもんね。


 どうして女の人はこういうことするの?

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