第491話 【小鳥遊ユウ】は刺し貫く
星が終わりを迎えるときのまばゆい爆発は、夜を昼に変えてしまうほどだと聞いたことがある。
私が目にしている光も、そういう類いのものなのではないか。
そう不安を抱かせるほどに強い光。
メイが、橘メイが本気を出したらこうなるのだ。
誰もが目を奪われた。
私たちも例外ではなかった。
日々の練習のおかげで動きは止まらなかったけれど、きっと私たちがなにもしていなくっても、誰も気付かなかったんじゃないかな。
それほどまでに、橘メイはすべてを持って行った。
ただ“かわいい”というだけが、ここまで暴力的になるなんて思いもしなかった。
釘付けになる。って言葉があるけれど、文字通りの意味だったんだ。
あまりにもすごいものを見ると、人は目を離せなくなる。身動きが取れなくなる。なにも考えられなくなって、呼吸すら忘れる。
きっと橘メイはこのかわいさですべてをひっくり返せる。
遠く離れていた観客たちの心は、橘メイがわしづかみにして、この場に引っ張ってきた。
いま橘メイが観客へレスポンスを求めたら、彼らは総立ちになって応じるだろう。
熱気と言うよりは驚喜であり、狂気だった。
観客はすべての注意を橘メイに向けていた。
彼女が次になにをするのか、その毛先の動きまでも見逃すまいと凝視していた。
だから橘メイが振り返って私に、ボクに、小鳥遊ユウに向かって手をあげたとき、ボクがそれに応じられたのは、単にボクも観客と同じで、メイの次の動作に注意を払っていたからなんだ。
パシッと手のひらが打ち合わされて、くるりと立ち位置が入れ替わった。
私が、ボクが、小鳥遊ユウがステージの最前列に送り出された。
一瞬呆けた。
意味がわからなかった。
だけど次の瞬間に、弾けるように理解した。
つまり、そういうことだ!
次はお前がやってみろ、と。
お前にならできるだろ、と。
橘メイは小鳥遊ユウにそれができると信じているのだ、と。
そう示されたなら、応えるしかないじゃないか!
曲の振り付けはもう橘メイがめちゃくちゃに壊してしまった。
ボクはボクの引き出しから、曲に合わせた答えを導き出さなきゃいけない。
しらないよ、そんなの!
ただ曲は完璧に頭に入っている。
この先になにが起こるかをボクは知っている。
だから魅せるよ!
ボクの魂の輝きを!
ボクのダンスは男性的な動きが多い。
ボクの少年っぽさを最大限に生かした振り付けだ。
それなら死ぬほど頭と体が覚えているからさ!
踊れ! そして止まれ!
ボクが一番格好よく見えるポーズで!
観客を魅了するんだ。
ボクは橘メイにはなれない。
あんなにかわいくないし、体つきだって貧相だ。
動きにキレがあるわけでも、わけのわかんない魅力があるわけでもない。
だけど!
ボクにはボクの理想がある!
こう魅せたいと思うボクがいる!
頭に浮かんだのはボクの大好きなひと。
ごめんね、ヒロ。
君のことは大好きだけど、君のようになりたいとは思わないんだ。
ボクは夜のとばりにはならない。
それを刺し貫く光になりたい!
橘メイの目がくらむような光じゃなくて、もっと鋭くて、そう、まるで鋭い槍のような。
ボクにはみんなまとめて魅了するような、そんな力はないからさ。
あなたに!
あなたに!
あなたに!
あなたに!
いま目の前にいるひとりひとりのファンに向けて、全力でアピールする。
見なよ。いまのボクを。
なよっとしたかわいい王子様なんかじゃない。
あなたの心を貫いてみせる。
女性ファン向けのメンバーだと思って、ボクには目もくれていなかった男性ファンにも、ボクは惜しみなくアピールする。
やあ、ボクは格好いいだろ。そしてオマケに女の子なんだぜ!
ボクにもちゃんと女の子としての魅力があるって知ったからさ。
みんな、そういうのが好きだろ。
男の子みたいに思ってた子が不意に見せる女の子らしさとかさ!
見なよ!
こんなに魅力的な子が踊ってるんだ。
ボクは橘メイではないけどさ。
小鳥遊ユウだって悪くはないだろ?
ちょっと試しに推してみなよ。
ちょっと一回だけでもいいからさ。
そしたら良さがわかるから。
ね?
どうかな?
ボクはボクにできる最高を弾けさせる。
勝てないまでも、負けやしない!
ステージでも、そして恋でも!




