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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第484話 現代版蟹工船

挿絵(By みてみん)


 僕は慌てて言った。


「カノンちゃん、落ち着くんだ。前にも話したと思うけれど、僕には君と結婚できる戸籍がない」


 立ち上がり、一応メルを守るようにする。

 いや、鳴海カノンにメルを害することができるとは思っていないんだけど、呪いとかはかけられそうじゃない?


 僕がそう言うと鳴海カノンの瞳からとたんが生気の失われて、ふらりふらりとこちらに歩み寄ってくる。


 ほら、やっぱり!


「ではなぜそのヴィーシャさんという方をお嫁にもらうという話が発生しているのでしょうか? よくは知らないんですけど、きっと私のほうが予約は先ですよね。ということは順番的にはまず先に私がお嫁さんにされなければなりませんよね。ちがいますか? わたしはまちがったことをいっていますか?」


 だから鳴海カノン、なんで君はホラー方向に行っちゃうのさ。


「これは順番の問題じゃないんだ。必要性によって発生した案件で、形だけそういうことにしなければその子の身が危ないということなんだ」


「それはそれ、これはこれですよね」


 大前提がひっくり返った!?


「大丈夫です。私も形だけで構いません。愛なんて後からついてくるって死んだお婆ちゃんも言ってましたし、とにかく籍さえ入れちゃえばなんとでもなるんだそうです」


 鳴海カノンのこれは隔世遺伝なのか!?

 闇の深い血族だ!


「無理だよ。僕に結婚できる籍はないんだから」


「そう言われると思って、買っておきました。戸籍。入籍はまだなんですけど。やっぱり婚姻届は二人で出したいじゃないですか」


 鳴海カノン!?


「22歳で公的証明書を作ったことのない綺麗な戸籍です。ちょっと相場より高かったんですけど、これもありですよね? ね?」


 こわ。素直に怖い。

 普通にナシなんだけど、僕自身が戸籍買ってるところを見られているから、一概に否定しにくい。


「代筆屋のところで買ったの?」


「いいえ、あそこはヒロくんにつながっちゃったので、別のところで買いました」


 思っていたより裏社会に顔が広いじゃないか。鳴海カノン。


「ああ、そういえばヒロくん宛てに伝言を預かっています。しばらく身を隠す、連絡は不要。とのことです」


 よかった。反社の人たち無事だったのか。

 よかったのか?


 どっちでもいいか。


「カノンちゃん、あの人たちと連絡取るのやめなよ」


「ええっ、でも借金のことがなければ顔の広い人たちですし、いい弾……雨よけになるんですよね。他のその筋の方からちょっかいをかけられなくなりますし」


 反社の人たちもこうなった鳴海カノンから話を持ってこられたら怖かっただろうな。

 やってることは完全に虎の威を借る狐なんだけど。


「というわけで、これはヒロくんへの誕生日プレゼントです。綺麗な戸籍と綺麗な私です」


 ホラーというより、スリラーかサスペンスになっちゃった。


「あれ? 僕、誕生日のこと言ったっけ?」


 そもそも九月一日って柊和也の誕生日だし。


「さあ? でも知ってますので。ねえ、ひいくん」


 鳴海カノンの唇が、ひいらぎくんと動いた気がした。

 こいつ、探偵かなにかを使って僕のことを調べたな!


 僕はさほど身辺を隠すことに気を使っていたわけではないから、これまで明かしてきた情報から柊和也に行き当たるのは不可能ではないだろう。

 それにしたって優秀な探偵か、あるいは……。


「探偵事務所か」


 大手の探偵事務所なら人海戦術が使える。

 必要な費用さえ払えば、この短期間に僕のことを調べ上げることができるかもしれない。


「というか、僕が渡したお金をなにに使ってんの!?」


「ヒロくんからもらったお金ですから、ヒロくんのために使っています」


「それ、僕の(かっこ)ことを手に入れる(かっことじ)ためにってことじゃない?」


「そうですが? これでもちゃんと気を遣っているんですよ。もう婚姻届出しちゃおうかと、どれだけ思ったことか。事実婚ならぬ、現実の婚姻です」


「そりゃ婚姻届が受理されたら結婚はしてるけどさあ。それ相手が僕じゃなくない?」


 無駄に自分の戸籍に傷がつくだけなのでは?


「ヒロくん。法は案外いい加減です。ひとりが複数の戸籍を所有するという状況に対応していませんし、想定もしていません。つまり私がヒロくんの戸籍を買って、ヒロくんに押しつけることに法的に問題はないんです」


「あるよ!」


 僕ですら他人の戸籍を取得するのは違法だと思いつつ、必要性があるからやっただけだよ!


「ですが、当人はすでにベーリング海で蟹の藻屑、ではなく海の藻屑ですし」


「それどうなってんの?」


「死んだら戸籍は売却するという契約になっていたそうですね。これで海に消えた乗組員は最初からいなかったことになって、みんなハッピーハッピーです」


「現代版蟹工船!?」


 資本主義の犠牲となったのだ。


「借金は船に乗った時点で完済しています。もっとも借金という命綱を失った彼に船の上でなにが行われたのかまでは私は知りませんけどね」


 うーん、借金という命綱かぁ。

 いかにも裏社会の用語って感じがする。

 そら、借金を完済したら債務者じゃなくなって、利用価値がなくなるもんなあ。


「婚姻届は九月一日に出しに行きましょうね。記念日が記念日になって覚えやすいですよね」


「ごめんね。カノンちゃん。その日は先約があるんだ」


 その日は米軍から誕生日プレゼントを100人くらいもらうからさ。


「それ、私じゃないよね」


 そう言ってメルがにっこりと笑った。

 あ、これから僕は死にます。

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