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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第481話 誰もが武器を持てるこの日本では

挿絵(By みてみん)


 スタッフさんはすぐにやってきた。

 俺たちを施設内に迎え入れて、裏側へと案内してくれる。

 いわゆる“従業員専用”とか書かれた扉の向こう側である。


 思っていたよりずっと広い裏側を進んでいくと、倉庫のようなスペースに案内される。

 設置されなかったのであろう資材が置かれているから、倉庫のようなではなく、倉庫なんだろう。

『別班』の人らはずっと態度には表さないがずっと警戒している。


「そんなに肩ひじ張らなくても、本番はまだ先ですよ」


「なにかを起こそうという人間がスタッフとして入りこんでいる可能性があります」


「あ、そっか」


 僕はまだまだ思慮が足りないな。

 首謀者たちは処刑したとは言え、すでに指示が出ていればなんらかの妨害工作が行われる可能性は否定できない。

 そして相手はメディア界の大物たちだ。

 こういうイベントスタッフとつながりがあることは大いに考えられる。


「でも今からあんまりにも警戒に力を使っているとライブ本番までに体力が尽きるというようなことはありませんか?」


「ははは」


 と、隊長さんは笑いをあげる。


「どんなに体力が減っていても、最高のパフォーマンスを維持し続けられる。そういうふうに訓練されるんですよ」


「そうなんですね」


 さらりと言われたけれど、それがどれほど過酷な訓練なのか想像もできない。

 ゲーム化(ゲーマライゼーション)で体力の数値が見えるようになったから、本当に体力が1になるまで訓練ができる。

 0になっても気合いで、ということにはならない。

 体力0になると行動不能というバッドステータスが付くからだ。

 こうなるともう身動きをとることすら難しくなる。


 それに体力が減ってくるとそれだけでかなりしんどい。

 あれこそ気合いでなんとかする領域だと思う。


「それに今は警戒しているというほどではないですよ。ほぼ自然体です」


 つまり自然とこうなるまで訓練を積むってことでしょ。

 断ってよかったー!


「ちなみにそちらとしてはどういうことが起きる可能性を考慮しているんですか?」


 なにかが起きたときにおたおたしているだけにはなりたくない。

 自衛隊ならこういう場で騒動を起こす場合のシミュレーションもあるだろう。


「いろいろありますが、お伝えするのは控えさせていただきます。あなたはあなたのステージを成功させることに集中してください」


 うーん、プロフェッショナル。

 問題はライブ中に僕がすることってなにもないってことだね!


「お待たせって、すごっ」


 咲良社長が入ってきたかと思うと第一声がそれだった。

 わかる。

 自衛隊の人たちって鍛え上げられた体をしていて、なんというか僕らとはもう人種が違うみたいに感じるよね。


「おはようございます。このイベントの主催をしている株式会社ブリギットの代表を務めている花伝咲良と申します。本日は場内の警備に当たってくださるとそこのヒロから聞いております」


 一瞬でビジネスモードに切り替えた咲良社長がそう挨拶をする。


「よろしくお願いいたします。秋津警備保障の坂中と申します。ヒロさんから依頼を受けて、本日のイベントが終了するまで不測の事態に対応するため施設内を自由に移動できるようにしていただきたいと思います」


「つまり一般的な警備員として活動されるのではなく、警備Gメンのような私服警備員ということですね」


 ピリッと自衛隊の人たちに緊張が走ったような気がするけど、なんでだろうか。


 隊長さんは笑みを崩していないが、戦闘態勢とまではいかなくとも、和やかという感じではなくなっている。


「秋津警備保障は民間の警備会社ですよ。遅れました。こちら名刺です」


「これはご丁寧に。私の名刺はこちらになります」


 名刺交換が行われ、話は具体的な部分に移った。


「――つまりヒロが依頼したのは来場者の暴走というよりは、来場者、あるいは関係者として入り込んだ誰かによる破滅的な破壊工作を未然に防ぐということですね。それこそテロのような」


「そう伺っています。専門家に申し上げることでもないとは思いますが、銃刀法の改正によって一般人でも殺傷力の高い武器を持ち歩くことができるようになりました。当然、入場時に手荷物検査はされるのでしょうけれど、3Dプリンターで作った自作銃なんかはすり抜けることがありますからね」


 3Dプリンターで作られた銃は、その素材が金属ではないことが多いため、金属探知機をすり抜ける。形も銃とはかけ離れている場合があって、目視でも防ぎきることができない。

 弾丸も自作銃だと金属ではないものを使う場合だってある。


 混乱を引き起こすこと自体が目的の場合、黒色火薬を使った自作銃をいくつか用意して空砲を何発か撃つだけでも目的を達することができるだろう。


「それだと未然に防ぐことはあなた方でも難しくはありませんか?」


「必ず防げると申し上げることはできませんが、我々はこういう事態を想定した訓練を積んでいます。怪しい動きをしている人間から事前にお話を聞くことはできます」


 力強い断言。つまり積極的に警護活動を行うということだ。


「ライブの邪魔にならないようにそれができますか?」


「必ず、とは申し上げられません。ですのでライブの開始までは会場内を調べさせていただいて、入場が開始されたら入場者をチェックできるようにしてほしいと思っています」


「わかりました。では基本的に警備員として腕章は使われないということですね。用意してきたのでお渡ししますが、利用は自由にしてください」


「そうですね。抑制効果を狙うのではありませんから」


「では関係者パスと腕章をお渡しします。倉庫で申し訳ないのですが、この部屋を自由に使っていただいて構いません。お手伝いはできませんが、使っていない椅子や机は自由に設置してください。退出の際に元に戻しておいていただければそれで構いませんので。食事はケータリングを自由にお取りください。何事もなければライブ後に自由に退出してくださって構いません。関係者パスと腕章だけここに残してください」


「承知しました。全力を尽くさせていただきます」


 咲良社長が手にしたエコバッグをそのまま隊長さんに渡す。

 中身は言うまでもなく関係者パスと警備員と書かれた腕章だろう。


「よろしくお願いいたします。じゃあ、ユイ、ヒロくんはこっち。控え室に来てもらうから」


「僕も行っていいんですか?」


「控え室は今のところユラひとりで、誰も入れないようにしてあるから」


「すぐ行きます」


 こんな大きな会場でやるライブの直前に控え室に一人でいる九重ユラの姿を想像して、僕は胸に鋭い痛みを感じる。


 空虚に思える彼女だけど、痛みや悲しみがよくわかっていないように見える彼女だけど、だからこそ僕は彼女を大切にしたいと思っているんだ。

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