第46話 メルの仕事姿を見よう
砂糖1kgが銀貨100枚になる。ガラスポットも前回ほどではないがいくらかの値が付きそうだ。砂糖を4kg持ち込めば銀貨400枚超で、金貨10枚にはなるだろう。それくらい出せばあの鍛冶屋の男もメルの価値が分かるはずだ。
いや、僕にとってメルの価値はそんなもんじゃない。砂糖4kgなんて言ってしまえば2,000円もしない。メルの価値は2,000円か? そんなことはないだろう。貯金を全部下ろしてきたって到底届かない。
僕は鼻息も荒く、メルの働く酒場に向かった。
まずは腹ごしらえをして、それから金策を考えよう。流石に昨日の今日で砂糖を再び持ち込んでも、まだ捌けていないだろう。すぐに稼ぐならば別の商材が必要になる。できれば調味料以外のものがいい。
ちょうどお昼時ということもあって酒場は昼食に来た客で混雑していた。
「いらっしゃいませー!」
聞き慣れたメルの声が僕を出迎える。
「あれ? ひーくんだ。お昼ご飯食べに来たの? やだ、来るなら教えといてよ! ちょっと待ってね、すぐ席に案内するから!」
店中の男たちの顔がぐるりとこちらを向いた。見ない顔だが、あいつメルちゃんとどういう関係だ? という声が聞こえてきそうだ。というか聞こえてきた。は、お前らなんてただの店の客だろ。僕はメルに合鍵を渡す約束すらしてるんだぞ。
ざっと店内を見回してみた感じ、店内の給仕はメルともう1人の女の子で回しているようだった。
「はい。お待たせ。こちらの席にどうぞ! えへへ、なんかお仕事モードだと逆に恥ずかしいね」
そう言ってメルははにかむ。見たことのある私服にエプロンを着ているだけだが、これまでで一番可愛く見えた。服装が、じゃないぞ、メルが、だ。
よく考えたらこんなに可愛い子が僕と一緒にダンジョン攻略する約束してるって変じゃない? いや、僕の魅力じゃなくてキャラクターデータコンバートのおかげだってことはよく分かってるつもりだけど。
「何にする? お得な日替わりもあるよ! なんと銅貨4枚!」
店で座って食べて屋台より安いとなると、賑わっているのは当然だと言えるだろう。それに加えてメルが給仕してくれるのだ。いや、メルとは限らないんだけど。
「じゃあ、それで」
「はーい! 大将! 日替わり一丁!」
「はいよ! 4番あがり!」
厨房の方から大きな声で返事が返ってくる。
「それじゃひーくん、ゆっくりしていってね」
そう言ってメルは給仕の仕事に戻っていく。なんとなくその姿を見ながら、日替わりができあがるのを待とうと思っていると、隣の席のおっちゃんがガタッと椅子を鳴らして接近してきた。筋骨隆々で、いかにもこの世界の職人と言った風情だ。
「おぅ、おめえ見ない顔だな。メルシアちゃんのなんなんだ?」
喧噪がすっと静まった。完全に静かになったわけではないが、店の誰もが僕の返事に耳をそばだてているように思える。僕は胸元から冒険者証を取り出した。
「メルの冒険者仲間ですよ」
「冒険者……仲間……? メルシアちゃん、冒険者になっちまったのか?」
「そうですね。昨日ですけど、一緒に登録しました」
「おぅふ……」
どよどよと店内がざわめいた。
「おめぇ、馬鹿! メルシアちゃんが冒険者になっちまったら、お店辞めちまうだろうが!」
「でも冒険者になるのはメルの希望だったので。応援してあげないんですか?」
「ぐぅ……、でも冒険者は危険な仕事だろうが、おめえみたいなのが守ってあげられるのかよ!?」
「守ってあげなきゃいけないほどメルは弱くないですよ。むしろ僕よりよっぽど強いです。でも、そうですね。メルの装備は最優先で揃えたいですね。そうだ。合鍵なんかよりそっちのほうがよっぽど大事じゃないか」
「あァ!? いま合鍵つったか! おめえ合鍵つったんか!!」
職人っぽい男性にいきなり胸ぐらを掴まれて揺さぶられる。
「メルシアちゃんは俺たちの娘みたいなもんだ。おめえみたいな何処の馬の骨とも知れないヤツに!」
「はい。ジルさん、そこまで。ひーくんも誤解されるようなこと言わない」
コンコンとメルがお盆で僕らの頭を叩いた。喧嘩両成敗ということらしい。優しい叩き方だったけれど。
「冒険者にはなったけど、まだお店を辞めると決まったわけじゃないよ。冒険者としてやっていけるって確信が持てるまではね」
「でも、それって確信が持てたら辞めちまうってコトだろう? それにまだ冒険者をやるには早いんじゃないか? もうちょっとここで稼いでからでも」
確かにメルは幼い。僕よりも年下に見える。年齢を聞いたことはないけれど、人種的なことを考えると実年齢はそれよりも若いだろう。アーリアではいくつから成人として扱われるのかは知らないが、日本人的な感覚からすれば、探索者になれるかなれないかくらいに見える。
「別に焦ってるわけじゃないけど、ひーくんと出会えた“現在”だと思うんだ。ここで手を伸ばせなかったら、私は一生羽ばたけないと思う。ジルさんたちには応援して欲しいかな」
「だ、だけど、こいつなんかと組むこたぁないだろ」
「む、ジルさんでも言って良いことと悪いことがあるよ。ひーくんは凄いんだから。きっといつか私の夢も叶えてくれる。そんな気がするんだ」
「こいつが……、そうか、それなら俺たちに言えるこたぁもうねぇ。頑張りな!」
「ありがとう! でもまだ店を辞めるわけじゃないからね。こんな空気にされたら明日から来にくくなっちゃうよ」
「辞めると決まったらちゃんと教えてくれ。送別会をしなきゃ、なあ!」
「おうっ!」
店のあちこちから声が上がる。やっぱり皆聞き耳を立ててたんだね。




