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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第457話 ひとりでみんなを支えるな

 話をちゃんと聞けば、つまりヴィクトルさんの奥さん、ヴィーシャさんのお母さんであるエルセリーナさんはヴィーシャさんを産んだときに、それ以上は子どもを望めない体になったということだった。


「亡くなられているのかと思ってびっくりしました。お元気そうでなによりです。はじめまして。カズヤと申します」


「またうちの人が深刻そうに話したんでしょ。でも仕方がないのよ。跡継ぎを産めなくなった女には価値がないって言われるからね。でもこの人、私を手放す気がまったくないし、他の女は愛せないって言うもんだから、ふふ。エルセリーナです。セリって呼ぶのはヴィクトルだけだから他の呼び方にしてね。お義母さんでもいいわよ」


「ママ!」


 ヴィーシャさんが思わずといった様子で声を上げて、ぱっと口を手で塞いだ。

 そしてぼそぼそと言い直す。


「やめてよ、お母様。この人、ちょっと頭おかしいんだから」


「まあまあ、ヴィーシャちゃんが人をこき下ろすなんて珍しい。よっぽど気に入ったのね」


「どうしてそうなるの!?」


 うーん、心温まる母子の会話だなあ。

 だけど話が進まなさそうだから、僕は本題に切り込むことにした。


「申し訳ありません。ヴィーシャさんに近づいたのは、ヴィクトル商会とどうしても取引がしたかったからです。そしてヴィーシャさんがベクルト剣術道場で技を磨いているのは、将来的に家を出る覚悟だからと思っていました。それくらいしか技を磨く理由が思いつかなかったので。だから彼女に自由を買い戻すという取引を持ちかけてしまったのです。僕の早とちりであったなら、申し訳ありません」


「そうなのか?」


 ヴィクトルさんがヴィーシャさんに聞く。


「そんなに家を出て行きたかったのか……」


 涙声になってる!?


「パパ! ちがうの! 家から出て行きたかったわけじゃなくて、その、あの人がちょっと苦手で……」


 声をしぼませながらヴィーシャさんは言う。


「自分に芯が欲しかったの。その気になればいつでも叩きのめせるって思わないと、辛かったから」


 そんなに!? エインフィル伯爵の三男ってどんな人なんだ。


「どうしてだい、ヴィーシャ。彼はちゃんと君を愛していると思うよ」


「どうしてもなにも、あの人が私を見初めたのって私が5歳のときじゃない……」


 5歳の女の子を見初めて婚約者に!?

 駄目な人(ロリコン)だ!

 いや、アーリアでは普通なのかもしれないけど……、普通とは思いたくないなあ。


「生まれたときからヴィーシャは天使だから、しかたがないよ」


 それはしかたがなくはないよ!

 親バカフィルターで変なことになってるよ!


「最近は手紙もこない、お茶会に呼ばれることもないじゃない。愛してくれるならしょうがないって思えるけど、もう私に興味がないんじゃないかしら?」


「そんなバカな!? ヴィーシャを愛さない男がこの世にいるはずがない」


 あんまり主語を大きくするのはよくないよ。


「もちろん私がそう感じてるってだけなんだけど」


 また話がわき道に逸れてる。

 僕は親子の会話に口をはさむことにする。


「えっと、婚約うんぬんは僕の本筋ではないので後でご家族で十分に話し合っていただくとして、僕の話を進めてもいいですか?」


「駄目だ」


 駄目なんだ。


「君がヴィーシャを幸せにする、ヴィーシャもそれを望むというのであれば、私はどんな協力も惜しまない。だがそうではないというのなら、君は商売敵だ。ヴィクトル商会にとって鏡はそれほど魅力のある商品ではなかったが、レザスのところに持って行かれたのは納得がいかない。それであいつがボロ儲けしているというのであればなおさらだ」


「その件については大変申し訳ありませんでした。鏡がヴィクトル商会の商いだとは知らず、レザス商会に仲介をお願いしてしまいました。ですが、私の持ち込んだ鏡を販売する権利はレザス商会が有しています。契約した以上、私はそれを履行せねばなりません」


「それは理解する。だが納得はできない。ヴィーシャを幸せにするか、なにも得ずにここから出て行くかだ」


「二択はそれなんですね……」


 まったくブレないところは尊敬に値する。


「ヴィーシャさんはなにを望みますか? 僕は僕にできる範囲であなたを幸せにしようと努力する覚悟はあります」


「あなたの鏡の製法を……、いえ、つまり私は両親に恩返しがしたいの。病弱で手のかかる子どもだった私をずっと支えて見守って育ててくれた。もらった以上に返したい。そしてそれはヴィクトル商会を今後ずっと盛り立てていくことだと思うのよ」


「ヴィーシャ……」


 ヴィクトルさんが感涙で溺れそうになってる。


 エルセリーナさんが座ったヴィーシャさんを後ろから抱きしめた。


「そんなことないわ。ヴィーシャ。あなたが幸せになってくれることが、私たちにとって一番の願いなの。私たちのためにあなたがするべきなのは、あなたがいつでも笑顔でいることなのよ」


「ママ……」


「商会なんてね、別に誰に継がせてもいいし、潰したっていいのよ」


「でも従業員やその家族が……」


「そうね。でも誰かを背負って潰れてしまうなら、背負うより一緒に歩きなさい。あなたは商会の従業員とちゃんとこの話をしたの? 相談はした?」


「……してない」


「案外エインフィル伯爵の子どもが代表になるくらいなら辞めるって人もいるかもしれないわ。話してみなければわからないことがたくさんあるの。みんなを支えるより、みんなに支えてもらう人になりなさい。きっとその方が喜ばれるわよ」


 その言葉はすとんと僕の胸に落ちた。

 あまりにも僕とは違う発想だったから、逆に納得してしまったのだ。

 誰からも愛され、受け入れられてきた人は、こういう発想に至るのだ。


 羨ましさとか、妬ましさは感じなかった。

 なぜならエルセリーナさんの言うことのほうが真理だと納得してしまったから。


 僕は思わず口を開く。


「そうですね。一人の人間が支えられる範囲なんて大したことない。一対一の支え合いを前提にするのは危険だ。相手が支えるのを止めたら共倒れになる。それならいっそみんなに支えてもらったほうがお互いにいい」


 助け合いは少しずつ、より多くの人からしてもらうのが適切なのだ。

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