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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第453話 レベルが上がらなくとも強くなれる

 今日は東京ドームシティホールで明日のライブに向けたリハーサルが行われる。

 が、僕は咲良社長から出入り禁止を言い渡されたので参加ができない。


 僕の暴走を恐れてのことだろうし、また僕とステラリアが一緒にいるところを撮られないようにという配慮でもあるだろう。


 メルはリハに参加するので着替えてブリギットの事務所へと出発した。

 もう一人で東京での電車移動ができるんだから、メルの順応能力恐るべしだ。

 まあ、スマホの乗換アプリは乗るべき電車の便利な車両番号まで教えてくれるから、慣れさえすればそんなに問題はないはずだ。

 僕だってアプリなしに東京の公共交通機関で移動と言われたら困る。


 僕はリハに参加するつもりで予定を立てていたので、今日がぽっかりと空いてしまった。

 だけどすること自体は積み上がっている。


 特に公的機関を巻き込むタイミングが予定より前倒しになったので、事は急を要していると言っていいだろう。


 僕も着替えてホテルを出ると、この時間にはほとんど人の出入りがないような雑居ビルを選んで侵入し、非常階段からアーリアへとキャラクターデータコンバートした。


 出現位置が森の中で一瞬呆けてしまうが、よく考えたら最後にアーリアから転移してきたのはアーリア東の森からだった。

 ゴブリンの集落で篠峰羅鍛がどうなったかを確認したい気持ちもあったけど、万が一まだ生きてたらかえって面倒なので、さっさとアーリアへ向かう。


 ベクルト剣術道場という名の空き地に到着すると、すでに門下生たちが訓練を行っていた。


 ヴィーシャさんは、……いた。


 僕の知らない門下生と模擬戦をしている。

 ヴィーシャさんの動きは以前と比べてさらに最適化されているけど、レベルは上がっていないようだ。

 相手のレベルは10前後だろう。

 ヴィーシャさんの木剣は相手の急所を捉えているが、レベル差のせいで有効打になっていない。


 ベクルトさんのところはこれなんだよな。

 それが本物の剣で意味のある攻撃なら寸止めするべきだけど、実戦で通らないなら当ててよし。そして当たったところで模擬戦が勝ちになるわけではない。形だけの勝利なんてものはないのだ。


 ヴィーシャさんは相手の懐に潜り込み、木剣を持った右手を大きく振りかぶった。だけどそれはフェイントだ。

 相手はそれに気付かず、木剣でガードしようとしたけれど、すでにヴィーシャさんの木剣は背中の後ろで左手に移っている。

 外から見てたからわかったけど、直接対峙していたら僕でもわからないだろう。

 ガードのために姿勢を固めていた相手の足元をヴィーシャさんは左から切り払う。地面すれすれの斬撃は、相手の足を持ち上げるように払われた。


 なるほど。レベル差があっても変わらないものがひとつある。

 体重だ。

 レベル差があっても必要十分な力をかければ、相手を浮き上がらせることができる。


 だけどそれは必要十分な力があれば、だ。

 レベル1で女性のヴィーシャさんにはそこまでの筋力がない。軸足には相手の体重がしっかりと乗っていて、ヴィーシャさんの木剣は叩きつけられたものの、ただそれだけだった。浮き上がらない。


 相手はガードに使っていた木剣をそのまま小さな動きでヴィーシャさんに突き出した。隙のない鋭い突きだ。

 ヴィーシャさんがレベル1のままだとして、レベル10が放った突きは木剣であっても重傷を負いかねない。

 だけど相手が放とうとした突きは唐突に崩れた。ヴィーシャさんは相手の足を切り払った姿勢からそのまま回転して、相手に背中を見せつつ自分は後ろ足で蹴り上げたのだ。軌道を逸らされた突きはヴィーシャさんを掠めるが、当たっていない。


 うっま!

 完全に意識の外だった。レベル41の僕でも食らうだろう。それで僕が放つ突きが逸れるかというと、そうではないだろうけど。レベル差は残酷なのだ。


 そして弧を描いたヴィーシャさんの足が地面についたときには、ヴィーシャさんの攻撃姿勢が整っていた。うまい。


 ヴィーシャさんの体重を乗せた突きが返される。

 相手は避けきれずにヴィーシャさんの木剣が相手の胸当ての留め具に絡んだ。狙ってできることではない。完全に偶然だ。その一撃には留め具を壊すほどの威力はなかったけれど、相手の姿勢が崩れる。

 どちらも想定していない形になったが、立ち直りはヴィーシャさんのほうが早い。

 衝撃で浮いた相手の右足をヴィーシャさんは蹴り飛ばした。右足を打ち上げられ、残った左足を、さらに一回転して勢いをつけたヴィーシャさんの蹴りが払う。


 体勢を戻そうとしていた相手はもんどり打って、顔から地面に突っ込んだ。


 その首筋に向けてヴィーシャさんは木剣を振り下ろし、寸止めした。

 本物の剣だったら首を落とせたはずだ。


「どうだ? お前ならどう戦う?」


 懐かしい声で問いかけられ、僕は考える。


「そうですね。ヴィーシャさんの攻撃は無視して体当たりを狙います」


 ベクルトさんが苦笑したのが伝わってくる。


「レベル差を考えたらそれが一番手っ取り早いわな」


 ヴィーシャさんの攻撃はどうしたって僕に致命傷を与えられない。そうであるなら、体全体を使って組み伏せてしまうのが一番簡単だ。

 変に斬り合おうとか考えると、目潰しなどを狙われて、逃走されるかもしれない。

 レベル40差がある時点で、ベクルト剣術道場的には逃げ切れたら勝ちみたいなものだろう。


「ヴィーシャに用事か? 訓練を受けないならお前から金は取れないな」


「ええ、ちょっと話をしたいんですけど、いいですかね?」


「そいつはヴィーシャ次第だ。あの子は金を払って訓練しにきてる。その時間を奪う分の対価が払えるならな」


「それは高くつきそうですね」


 若い女性の一分一秒はとても価値がある。誰もが欲しがるからだ。

 だけど僕にもとっておきがあるんだ。


「ヴィーシャさん」


 僕は組み手を終えて、相手と感想を言い合っているヴィーシャさんに声をかけた。


「誰?」


 冷たく問われる。

 まあ、そうだよね。

 だけどメルのことなら覚えてるだろ?


「覚えられてなくても仕方ないけど、メルの友達のカズヤだよ。一度組み手をしてもらったこともある」


「ふぅん? それで?」


「端的に言うよ。ヴィクトル商会への顔つなぎをしてほしい。報酬として僕は君の将来を君の父親から買う」


 僕は僕の望みを口にした。

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