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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第452話 私が先に好きだったのに

 翌日、週刊火曜が発売された。


 あえてツッコんでなかったけど、発売日が毎週水曜日なんだよね。

 雑誌名間違えてない?


 癪ではあったけど、コンビニで一部買ってきて中身を確かめる。


「ふぁ~、おはよ。ひーくん。それ買ってきたんだ。どう?」


 欠伸をしながら、ベッドの上で上半身を起こしたメルが言う。

 いつもは早起きなメルだけど、昨晩はいっぱい疲れさせちゃったから仕方がないね。


 昨晩の僕はなんというか余裕がなかった。

 僕は血に酔っていたし、メルがくれた言葉にのぼせ上がって、つい彼女を強く求めてしまったのだ。


「事前に告知された通り。寸分違わずに載ってるよ」


 週刊火曜の編集部から僕らに紙面が告知された時点ですでに印刷物が取次に渡っていたのだから、当然内容の修正などできない。

 僕が橘メイの手を引いてホテルに入る写真がモノクロで載っている。僕の顔にはぼかしが入っているから、僕が特定されることはないだろうけど。


「みんなの反応は?」


 メルの言うみんなとはステラリアではなくファンのことだろう。


「あんまり良くない。事前に配信で伝えてあったことでマシにはなってるんだろうけど、やっぱり写真という画の力は大きいな」


 今朝僕がSNSをチェックした限り、割合で言うと橘メイを信じているのが2割、騙されたというのが7割、とりあえず様子見というのが1割ってところか。

 だけどこれはSNSで発信している人の割合なので、ライブに来るファンの中で割合がどうなっているのかはわからない。


「ただトレンドに載るほどでもないよ」


 これは【回復魔術】関係がトレンドを独占しているためだ。

 テレビ局はもう少しファクトチェックに時間をかけるだろうと思っていたけど、東京テレビが夜のニュース番組で先陣を切ったため、今朝からは各局がそれ一色だ。

 誰でも体力や傷を癒やせる有用性と同時に、その社会に与える影響などについて、様々な専門家が意見をぶつけあっている。


 少なくとも僕らの一手は世間からステラリアを忘れさせることに成功している。


「それに加えて枕営業の誤解かあ」


 メルが顎に手を当てて考え込む。


「ニャロさんは咲良社長に記者会見をさせるつもりだし、僕もそのつもりで準備をしてる。咲良社長の性格からして、自分が矢面に立つ方法を選ぶはずだ」


「そうだろうね。記者会見というのはよくわからないけど、つまり声明を出すってことだよね」


「うん。間違ってないよ」


 僕はメルに説明するために、考えをまとめる。


「ステラリアとファンに限って状況を整理しようか。ステラリアには二つの疑惑が同時に向けられている。ひとつは橘メイの不純異性交遊、もうひとつは枕営業だ。どちらも性的なもので、ステラリアの清楚系というブランディングを傷つけている。この二軸はそれぞれ独立しているけど、ステラリアのイメージを毀損するという形でシナジーを起こしているんだ」


 火のない所に煙は立たないという格言がある上に、二カ所から煙が立っているから真実味が増している。


「でもひーくんがメイちゃんをホテルに連れ込んで押し倒したのは事実なんだよね」


 僕は即座に土下座した。


「はい。申し開きもございません。でもなにもしてないよ」


「そこ見解に違いがありそう。押し倒したはもうなにかだよ。なにか」


「どこからが浮気になるかみたいな話?」


「視線を交わしたら浮気だよね」


「浮気のラインがめちゃくちゃ動いてる!?」


 メルさん、あの、僕がハーレム作っても仕方ないみたいに言ってませんでしたっけ。

 作らないけどさ! 確認したい気持ちが生まれちゃった。言わないけど。


「ユウくんと、ユイちゃんとはキスもしてるし、こうなってくると逆にカノンちゃんが可哀想じゃない? 私が先に好きだったのに。ってやつだよ」


 それは【僕が先に好きだったのに】の女性版?


「鳴海カノンに隙を見せたらダメだ。一瞬で外堀が埋まる」


 鳴海カノンに好意を見せたが最後、地術でも習得してるんじゃないかというほどの勢いで距離を詰めてきそうだ。

 施錠して寝たのに、起きたら全裸の鳴海カノンが隣で寝てても、驚きはしても不思議には思わない。

 もちろん印象の話で、実際にそんなことが起きるとは思っていないけどね。

 頼むぞ。本当に。


「ある意味信頼してるのかな。カノンちゃんの行動力を」


「行動力なのかな?」


 鳴海カノンからは時々オカルト的な理外のパワーを感じるんだけど。


「話を戻そ。要は問題が二つ同時に発生してるってことだよね」


「そう。橘メイの件は謝罪配信で先手を打った。枕営業は咲良社長に任せるしかない」


「じゃあもうできることはないんじゃ?」


「状況が良くなってるならそれでもいいんだけどね……」


 SNSの状況を見る限り、先行きは暗い。

 このままではライブは失敗するだろう。


 正直なところ僕も挽回は無理だと思っている。

 深い傷を負ったら数日では治らないのと同じで、攻撃を受けた時点で敗北しているのだ。


「長期的に見れば、ライブ自体は失敗でもいい。信頼回復のほうが重要だ。だから僕はライブの中止と返金もやむなしだと思うんだけどな。資金面での援助は僕がすればいいしさ」


「でも楽しみにしていたファンの期待を裏切ることにならない?」


「今のままライブをやっても、ファンが求めるショーにはならないよ」


 事態はすでにどうやって傷を浅くするか、という話になっている。

 僕が裏でやっていることだって、追撃を防ぐのが目的で、現状を良くするという趣旨ではない。


「たとえどんなに才能があっても、なにもかもトントン拍子に行くわけじゃないってわかってはいるんだけどね」


 でも橘メイの才能を見ちゃうとな。

 もしも彼女が何の障害もなく頂点に向かって進んでいればと、つい夢想してしまう。


 僕はステラリアの味方だけど、だからこそ正直に言うと、ステラリアというアイドルグループは未完成だ。よく言えば発展途上で、悪く言えばトップアイドルになるには実力が足りていない。


 ただ、これは僕の意見だ。

 世間の実体とは乖離がある。


 僕が観測する限り、どうもアイドル業界って実力が飛び抜けていることが成功の要件ってわけでもなさそうなんだよね。

 オリコンチャートの上位にいるアイドルが、実力ではステラリアに劣っているということはある。


 これを僕なりに解釈すると、つまりアイドルの実力とは、歌唱力でも、ダンスの上手さでもなく、広くファンに愛されるかどうかなのだ。


 でもそれって媚びるって意味でもないんだよね。

 そういう手法でやっているアイドルもいるけれど、トップに立っているかというと、そうではないよね。


 僕が思うに、ファンを引きつけて止まないのはアイドルが放つ輝きだ。

 目を焼いて、脳を焼く、そんな強い輝きを放てるかどうか。


 ステラリアはすでに原石とは言えないくらいに磨かれている。

 だからこれは環境の問題だ。


「でもライブの中止を咲良社長が受け入れない以上、ライブでのパフォーマンスにすべてがかかってる。僕らの仕事はライブで彼女たちにどう光を当てるか、だ」


 きっとブリギットに足りないのはトップアイドルを作り上げるノウハウだ。

 裏方がうまく光を当てさえすれば、彼女たちは魅力的な輝きを放つに違いないのに。


「うーん、それって根本的に違うんじゃないかな?」


 考え込んだ僕にメルが言う。


「反射する光は光源には敵わないよ。彼女たち自身が光らなきゃ。一等星みたいに」


「――!」


 その言葉に僕は衝撃を受けた。

 ぐるりと前提がひっくり返った感覚。


 そうだ。

 夜空に輝く星は恒星なんだ。

 僕が考えなければいけないのはどう光を当てるかじゃない。

 その輝きをどう観客に見せるかだ。

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