第42話 部屋を契約しよう
お婆さんの不動産屋に戻ってきた僕たちは単身者用の部屋を借りることに決めたことを伝える。
「そうなると思ったよ」
どういうわけかお婆さんにはこうなると分かっていたようだ。そう言えばわざわざ単身者用の部屋も見るように鍵を勧められたんだった。その辺は長年の勘とか、そういうものなのだろう。
「それで今日から部屋を使うことってできますか?」
「敷金と今月の家賃、それからウチへの手数料を払ってもらえるなら構わないよ。日割りはやってないからね」
「全部でおいくらになりますか?」
「ええと、家賃が銀貨7枚、敷金が銀貨10枚、うちの手数料は家賃1ヶ月分だから銀貨7枚で、合わせて銀貨24枚だよ」
「退去するときに部屋を壊していたり、汚れたりしていなければ敷金は返ってくるんですよね?」
「もちろん。原状回復のため以上に取られることはないよ」
砂糖などを売ったお金はすでにメルと分配して、僕の手持ち資金は銀貨50枚と少しくらいだ。そのおよそ半分が無くなることになる。家族向けの部屋だとお金が足りなかったかも知れない。
「分かりました。それでお願いします」
僕はカウンターの上に銀貨を置いて行く。
「24枚、確かに頂いたよ。契約書がこれだ。記入しておくれ」
羊皮紙には契約の文言と貸し手と借り手がそれぞれサインなどを書く欄がある。貸し手のところはすでに埋まっており、僕は借り手のところにサインした。
「冒険者証の番号も書いておいてくれると助かるね」
「ここですか?」
「そうだよ」
僕は胸元から冒険者証を取り出して、番号を書き写した。
「それで家賃はこちらに払いにくればいいんですか?」
「ああ、それで構わないとも。ただし手間賃として別途、銅貨5枚をもらうよ。この老骨じゃ部屋の持ち主に金を払うにしても誰かを雇わなきゃいけないからね」
「部屋の持ち主に直接払うこともできるんですか?」
「できると言えばできるけどね、相手がいつでも家にいるとは限らないよ。会えるまで根気よく通うか、結局配達人を雇うことになるだろうね」
「こちらに持ってくることにします。初回は手数料がいらないんですね」
「そういうことになってるからね。別にサービスってわけじゃないさ」
なるほど。そういうものであるらしい。
「予備の鍵とかありませんか? 2本使いたいんですけど」
「単身者の部屋だからねえ。部屋の持ち主なら持ってるだろうけど、鍛冶屋で合鍵を作った方が早いんじゃないかね。もちろん退去時には合鍵も合わせて返してもらわなきゃ困るけどね」
「分かりました。そうします」
お婆さんから合鍵作りもやっているという鍛冶屋の場所を聞いて、不動産屋を後にした。すぐに合鍵を作ってもらいに行こうかとも思ったが、もうしばらくしたら日が暮れそうだ。鍛冶屋の仕事も終わるだろうし、そろそろ僕も日本に帰らなくてはならない。
「メル、今日は部屋に戻って日本に帰るよ。明日は仕事なんだよね?」
「うん」
「えっと、7日後と8日後の予定って分かる?」
「酒場に行かないとそんな先の予定までは覚えてないよ」
「暦が合わないから予定が立てづらいな。今から酒場に行って予定を確認ってできる?」
「それは大丈夫」
「それじゃ行こうか。そう言えばメルが酒場で働いてるところ見たことないや」
「ええー、見なくていいよ。給仕してるだけだよ」
「制服とかってあるの?」
「そんなの無いよ。衛兵さんとかじゃないんだから。汚れたら困るからエプロンだけ着るけど」
「そういうもんなんだ」
「そういうもんだよ」




