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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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438/550

第433話 現代社会を吹き飛ばす

411話がすっぽ抜けていたため、挿入しました。

ブックマークのエピソードがずれているかもしれませんのでご注意ください。

 反社の人たちに最初の対策について伝えた後、僕はもうひとつの策のために、アーリアにキャラクターデータコンバートした。


 日暮れ時、アーリアではそろそろ終業の時間だ。

 僕は足早に目的地に向かう。


 入り口で僕の顔を見た丁稚は、もう慣れたもので主人へと取り次いでくれる。

 応接室に通された僕のところにレザスさんが怒鳴りながらやってくる。


「だから予定外で来るときは先触れを寄越せっつっただろうが」


「すみません。緊急です」


 僕が真面目にそう言ったからか、レザスさんも姿勢を正して聞く体勢になった。


「お前さんの緊急という言葉には重みがある。金の重み、命の重みだ」


「承知の上で言っています。今すぐ用意できるか確認したいものがあります。今すぐです」


「言ってみろ」


「小回復魔術か湧き水の魔術構成の魔道具です。存在はするんですよね」


 もっと早く気付くべきだった。

 結界装置の中身は魔術構成を物理的に再現したものだ。

 だったら他の魔術だって物理的に再現したものが存在しているはずだ。


「魔道具じゃねぇけど、小回復魔術の模型ならあるぞ。貴族や金持ちが子どもに学ばせるように小回復魔術の構成模型を遊び道具にさせるのはよくあることだからな。俺も息子にやったし、息子も孫にやってるはずだ。だが今すぐ手に入れるとなると、誰かのを取り上げるしかないな。息子が孫に贈った分が俺からの分を流用していないのであれば、息子の手元には本人の分があるはずだが……」


 ちょっと寂しそうにレザスさんは言う。

 自分が贈った物を息子さんが大事に手元に置いているかどうかだ。あるいは孫に贈っているほうが嬉しいのかな?

 僕には子どもも孫もいないので、そこら辺の機微は分からない。


「今すぐに確認できますか? 売っていただけるのであれば、金貨で千枚出していい」


「おいおい、冗談だろ。そりゃ安くない代物だが、中古品なら金貨数枚で手に入るぞ」


「現物が今すぐ欲しいんです。支払いは後で。その条件で金貨千枚出します。約束します」


「すぐに確認させる。おい、誰か。マティスのところに使いを出せ!」


 流石のレザスさんもほぼ利益で金貨千枚となると目の色が変わる。

 レザスさんは飛んできた丁稚を馬車に乗せるか迷った末、走ったほうが早いと、使いに向かわせた後もそわそわ落ち着かない。

 なぜアーリアではありふれた魔術構成の模型を僕が緊急で、それも大金をはたいて欲しがるのか聞きたいのだろう。

 だがそれが僕の触れてはいけない部分に関わっていると理解しているから聞けない。レザスさんの頭の良さならそこまで考えている。


「駄目なら駄目で仕方ないです。そのときは通常価格で買いますよ」


「お前、そりゃ脅し文句だぞ」


 とは言ってもスマホもないこの世界では使いに出したら連絡の取りようもない。

 相変わらず雑味の強いお茶もどきのおかわりを僕は要求する。


「本当に急いでるんだろうな?」


「それはもう。金貨千枚分急いでますよ」


「そうは見えねぇんだよなぁ」


 まあ、ダメ元ではあるからね。


 僕の狙いは簡単だ。

 元々予定していた魔術の公表を前倒しして、その大爆発で、週刊誌のスキャンダルを吹き飛ばす。

 少なくとも世間的には橘メイのスキャンダルなんてどうでもよくなるだろう。

 ファンの間では、それはもう、どうしようもないよね。

 今日の配信がファンの心に届くことを祈るしかない。


「ありましたっ!」


 絶叫とともにドアが開いて、汗だくの男性が複雑に絡み合った金属の塊を僕らに向けて掲げた。

 一目見て分かる。小回復魔術の構成を物体として形にしたものだ。


 なるほど、これを手本に魔力を流せば、小回復魔術の習得は早いだろう。すぐに模型なしでも使えるようになるに違いない。


「いただきます。よろしいですね」


「金貨千枚だぞ。いいな?」


「取引成立です」


 僕は男性から小回復魔術の構成模型を受け取って、自分の部屋に戻り、日本へとキャラクターデータコンバートした。

 反社の事務所がある民泊と化したマンションの暗がりに出現した僕は、急いでエレベーターに駆け込んだ。

 マンションを出たところですぐに歌舞伎町の代筆屋に電話をかける。


『おいおい、忙しいな。今度はなんだ?』


「印刷屋に繋いでください。今すぐに一仕事してもらいます。言い値で払いますよ」


『ぼったくるっても、物事には限度があるんだよなあ。なにをさせんの?』


「3Dスキャナーで取り込んだとある物体のデータを、スマホやパソコンから閲覧できる3Dデータに変換して、ファイル共有サイトにアップロードしてもらいます」


『そんなに手間でもなさそうだが、技術的な詳しいことは分からんのよな。今すぐってなら、まあ、二千万くらい?』


「ぷっ」


 僕は思わず吹き出してしまう。

 奇しくも僕が反社たちにつけた価格と同じだ。


「後払いになります。僕に支払い能力があることは信用してもらっているとは思いますが」


『保証料で10%増しだ。日ごとに複利で10%な』


 なんの担保もないとは言え、十日で一割のトイチならぬ一日一割、つまりイチイチは高くない?

 まあ、問題なく払えるという前提で言ってるんだろうけど、それにしたってあっという間に何倍にもなりますよ、それ。


「明日払いに行くようにします。印刷屋のところにもう向かっているので連絡頼みます」


『はいよ。寝てても叩き起こすように手配しとくから』


 大通りに出て、僕はタクシーを捕まえる。


 手の中には爆弾。

 現代社会を吹き飛ばす大爆弾だ。

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