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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第420話 常識は当たり前ではない

 橘メイの足が限界みたいだったので僕は伝手を使って馬車を借りた。


 アーリアの中でも馬車は行き来しているけれど、ほとんどが荷馬車だ。人を運ぶような箱馬車は貴族か、相当な金持ちくらいしか使わない。

 だけどレザスさんところは普通に移動用箱馬車があるからね。

 そいつをさくっと借りてきました。


 なにより橘メイが足を痛めるようなことがあってはいけない。

 それでも最後のほうでニーナちゃんに回復してもらう、と心の中でメモをする。

 橘メイには万全の状態で一周年ライブに出演してもらわなければいけないからだ。


 しかしながら箱馬車で市場に乗り付けるそれは、どこのお貴族様だ、って感じだ。

 服装もアーリアらしくないし、異国のお姫様でも訪ねてきたのではないかと思われるだろう。

 僕が伸ばした手を受け取って、橘メイは馬車から降りる。


 橘メイ自身が状況の特異性に気付いていないのが救いだ。注目を集めるのにも慣れていて、今くらいでも不自然に思っていない。

 アーリア基準で言うとめちゃくちゃ注目されてますけどね!


 僕がエスコートしているため誰も絡んではこないけど、僕が故郷から貴人でも連れてきたと思われているんじゃないだろうか。

 エインフィル伯に連絡が行く前に退散したほうがよさそうだな、これ。


「異世界、というわりには人間ばっかりなのね。人種は違うけど」


「そうだね。アーリアで他の人種を見たことはないな」


 普通、この手のゲームは色んな種族が出てきそうなものだけれど、アーリアでそういう人間以外の種族にお目にかかったことはない。

 そもそもいないのか、あるいは文明の進み具合からして行き来がないとも考えられる。


「おじちゃん、卵、2個もらうよ」


 僕は銅貨で支払って鶏卵を2個買う。

 他の卵もあったけど、これが一番無難でしょ。

 橘メイも文句は言わない。おそらく頭の中にあった光景に一番近いのが鶏卵だからね。


 卵2個を手に、今度は肉を売っている屋台へ。


「ベーコンある? あんまり干からびてないヤツ」


「あるにはあるが、この時期はお高いぞ」


 アーリアには豚がいないので、家畜というと羊なんだけど、普通はこの時期に肉にしたりはしない。

 冬になって、羊の食べるような餌が自然から手に入らなくなると、頭数の調整のために干し肉に変えるのが一般的だ。

 だけど予定より増えた羊を間引くことはあるし、または急に金が必要になって家畜を売り払うこともある。

 そうした羊の肉は保存食として干し肉になるより、食堂などで提供されたり、こういう肉屋に回ってくる。


 ベーコンは塩漬け肉の位置づけで保存食扱いなんだけど、からっからの干し肉と比べたら保存性が落ちる代わりに美味しい。

 わざわざベーコンにする手間がかかる分、ただの羊肉より値段が高くなる。


「200グラムくらいください」


 重さの単位とかは適時、異界言語翻訳さんがうまいことしてる。

 アーリアの重さの単位はグラムとは違うけれど、僕が200グラムのつもりで口にすれば不自然ではない程度にアーリアの単位でキリのいい数字を出してくれるのだ。


「卵とベーコンだけ受け取ってどうするの? 料理できるの?」


「できないこともないけど、アーリアの市場はなんというか緩いからなんでもありなんだ」


 僕は鉄板を使って焼き物を作っている屋台に行く。


「こいつを焼いてくれないか? 焼き代は、銅貨10枚くらいでどう?」


「20枚ならやってやってもいいぞ」


「12枚。こっちは別の店に頼んでもいいんだけどな」


「15枚。3枚の差で他の店をわざわざ探してまた交渉するか?」


「いいよ。はい。銅貨15枚とこれね。目玉焼きってできる?」


「両面焼きだ。うちの店から出てきたもんで腹壊されても困る」


「じゃあ、それで」


 僕らのやりとりを橘メイは口をぽかんと開けて見ていた。


「ええ? そんなのありなの?」


「焼けた鉄板がそこにあって、腕のいい料理人がいるなら、対価を払って作ってもらうのが一番でしょ」


「でも、ここって、その、名前分からないけど、それ作ってるお店よね」


 橘メイは店の売り物を指差して言う。

 色々な具材を焼いて提供している店だけど、僕も料理名は知らないな。


「別のものを作ってもらうってそれ大丈夫なの?」


「逆に聞くけど、なんでダメなの?」


「ええと、それは――、普通じゃないし」


「それは理由にならない。僕と彼は交渉し、同意が得られたから問題はない」


 眉を顰めて、でも反論できずに橘メイは言葉を詰まらせる。


「とは言ったけど、それはこっちの世界での理屈。日本で同じことをしたりはしないよ。あっちだと法の問題とかもあるしね。僕が言いたかったのは、あっちの常識をこっちで当てはめちゃダメってこと。違う世界に来ているということを分かってもらいたかっただけなんだ」


「それは分かったけど」


「つまり逆もありうる。日本では大丈夫なことが、こっちではダメだったりする。だから自分勝手な行動だけは避けてほしい。これは安全確保に必要なことだ」


「むぅ、分かったけど、なんか楽しくない」


「ほら、できたぞ。訳分かんない言葉でくっちゃべってないで、さっさと食ったらどうだ」


 箱と板を使ったテーブルと椅子で僕らはベーコンと卵を焼いたものを食べる。

 ナイフなんてないので、フォークでぶっ刺して噛みきるしかない。


「思ったよりベーコンが臭いかも」


「まあ、たぶん羊肉だしなあ」


「羊なの?」


「この辺りに豚はいない。言葉は変換されるからこの言語圏のどこかに存在はしているんだろうけど、アーリアにはいないね」


「それに目玉焼きがよかったんだけど」


「こっちだと衛生面から卵に生の部分は残さないほうがいい。これはどっちかというとあっちでも日本が特殊で、他の国で卵を生食しようとしちゃダメだよ」


「卵に衛生面とかあるの?」


「そりゃあるよ。理由は言わないけど」


 鶏の場合、うんこの出る穴と卵の出る穴は同じだからね。

 食事時には出したくない話題だ。


「ちなみに今の食事はこっちではとても日本人の舌にあった感じだ。他の食事に期待はしないほうがいいね」


「楽しくないぃ」

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