第415話 星を贈る
コース料理の流れをいちいち説明していると夜が明けちゃうから、さっと終わらせるね。
形式張った食事会というよりは、和気藹々とした感じで食事は進んだ。
多少のトラブルはあったけれど、特筆するようなことでもない。
リカバリもできたしね。
デザートと食後の一杯を終えて、今は歓談中だ。
いつの間にか席順も最初とは違っていて、自由な感じでそれぞれに時間を過ごしている。
白河ユイと鳴海カノンが僕との結婚を巡ってバトルを再開するようなこともなくてよかった。
「はい、それじゃみんな」
僕は手を打って注目を集めてから言った。
「僕からユイちゃんへの誕生日プレゼント、をあげるとなんかややこしいことになりそうだから、ステラリアの皆にプレゼントを用意してきたよ。先になっちゃうけど、一周年のお祝いだと思って欲しい」
わぁっと歓声。
「ただ、誕生日だから最初に渡すのはユイちゃんにするね」
僕が合図をすると食事を運んできていたワゴンに、プレゼントが乗ってやってくる。
こっそり用意してたけど、大変だったんだよ。これ。
僕はきらびやかな包装紙に包まれた小箱を白河ユイに手渡す。
「開けてもいいですか?」
「もちろん」
白河ユイは几帳面に包装を解いていった。
他の面々も何が出てくるのかと興味津々で覗き込んでいる。
包装の中から出てきたのは細長いジュエリーボックスだ。
白河ユイがそれを開くと、プラチナのネックレスが現れた。
ペンダントトップは星の意匠で、五つのダイヤモンドが輝いている。
「すごい、いいんですか?」
「もちろん。言っちゃうと同じものを他の皆にも用意してある」
「つけてください」
そう言って白河ユイは両手で自分の髪を持ち上げた。
え? 正面から? こういうのって後ろを向いてもらうものじゃない?
白河ユイは完全に待ちの姿勢でじっと僕を見つめている。
これ、全員にやらないといけないかあ。
僕はネックレスを手に取ると、白河ユイの首に回した。
いや、正面からだから留め具が目で見えないな。
指先の感触でなんとかしないといけないんだけど、僕の不器用さを甘く見るなよ。
僕が四苦八苦していると、白河ユイはむずむずと唇を動かしたかと思うと、急に顔を寄せてきた。
ネックレスを繋ぐために両手を白河ユイの首に回していた僕は避けられない。
唇が触れる。
上がる悲鳴と絶叫。
これ、ネックレスがまだ留まってないんだけど、どうしたらいいの!?
なんて迷っている間に留め具がうまく噛み合った。
僕は回していた手を離して、白河ユイを引き剥がす。
「ずるい!」
と、そう叫んだのは鳴海カノンだ。
「ヒロくん、次、私!」
と完全にキス待ち顔で僕の前に立つ。
鳴海カノンが目を閉じているのをいいことに、僕はネックレスを取り出して、背後に回り込むと、さくっとネックレスを留める。
「お゛か゛し゛い゛よ゛!」
アイドルが出していい声じゃないよ、それは。
「ヒ~ロ~、わたしも~」
九重ユラがぺったりくっついてきたので、同じようにネックレスを留めてあげる。
「これはボクがつけるには可愛すぎるかな。然るべき時に使わせてもらうよ」
包装を解いて、中身を確認した小鳥遊ユウはそう言って、ボックスを閉じた。
ありがてぇよ。マイフレンド。
「私は自分でつけるわ」
顔を真っ赤にしながら橘メイは僕の手からプレゼントをひったくる。
驚くほど丁寧に包装紙を解くと、自分の手でネックレスをつけた。
「いいわねぇ。いや、良くないわ! ヒロくん、あなた避けられたでしょ!」
「どう反応するべきか迷ってしまって……」
「ひーくんは後でおしおきね」
ひぇぇ、処罰装置が作動してしまった。
「あ、もちろんオリヴィアにも用意してあるよ!」
僕はワゴンから別にしてあった箱を取って、メルに渡す。
「ふぅん」
半目で僕を見ながらビリビリとメルは包装を破く。
こういうのって国民性が出るよね。
メルの手にしたジュエリーボックスから現れたのは、プラチナのネックレス。
ペンダントトップは指輪で、シンプルなプラチナリング。
結婚指輪のデザインに寄せてもらった。
「これは?」
「こっちでは結婚すると左手の薬指に指輪をするんだ。結婚してますって証としてね。でもオリヴィアの活動を考えると結婚は公表できないから、指輪はつけられない。だからネックレスにしたんだ」
「ん~、おしおきは一旦保留」
保留止まりなんだ……。
「ありがと、ひーくん。ところでまだ箱が残ってるのはどうしてかな?」
ワゴンの上にはまだひとつプレゼント包装された箱が残っている
「これは咲良社長に、と思って」
「あー、それはそうだよね」
「え? 結婚指輪?」
「違います」
箱の形が他のみんなと一緒でしょ!
咲良社長に残った箱を渡すと、やっぱり丁寧に包装を解く。
「これは、紋章、いえ、盾の意匠?」
「あんまり女性らしいとは言えませんけど、子どもたちを守りたいと言っていた咲良社長に相応しいペンダントトップが他に思いつかなかったんです。普段使いはできないと思いますけど、お守り代わりに受け取っていただければ」
「守護者の証ね。嬉しいわ。百人力よ。――え、あれ」
咲良社長の目から涙がこぼれ落ちる。
「なんだこれ、なんだこの気持ち」
ハンカチを取り出して、涙を拭った咲良社長は、すんと鼻を鳴らした。
「ああ、そうか。なんだかんだ言ってヒロくんは私のことをちゃんと大人として扱ってくれているんだ。私にちゃんと守らせようとしてくれている。ありがとう。ヒロくん。これは戦いの時に取っておくわね」
「はい。可能な限りは手を貸します」
「あなたはやりすぎるから心配なのよね……」
僕は足りないよりはやり過ぎるくらいでちょうどいいと思うんだけどね。




