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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第408話 チャンスの女神の前髪をもぎとる

 その後、曲ごとの振り付けの確認や、通しでの練習を終え、一旦これ以上はやっても無意味だという結論に僕らは達した。

 橘メイの調子さえ取り戻せば後は完璧だ。


 それはそれとして、今日のイベントはまだ終わっていない。


「さてちょっと早いけど、ここでレッスンを終わろうか」


「まだスタジオの時間は残ってますよ」


 白河ユイが冷静に言う。

 そういうところは変わってないんだ。


「そうだけど今日は咲良社長も誘って晩ご飯にしようか。お店を予約してあるから」


 あと二人分枠は残ってるんだけど、手の空いている職員さんがいたら誘おうか。

 正直、誰かストッパーがいてくれないと、このメンツは怖いんだ。


 普段着というか、変装した一行とともにブリギットに戻る。


「おはようございまーす」


 挨拶をしたところでガタッと椅子が鳴って、咲良社長が立ち上がった。


「ヒロくん、なんじゃい。あのメールは!」


 ああ、YouTubeやTikTok関連を委託したいので見積もり出してくださいってメールを見たんですね。


「なにって、そのままですけど。仕事の依頼です」


「LINEかなにかで聞けや!」


「思いついたのが深夜だったので起こしたら悪いかなあって」


「君からのビジネス感丸出しのメールを見たときの私の感情分かる!? この人でなし!」


 ひどい言われようだけど、咲良社長が僕に本気なのだとしたら、いきなりビジネス調のメールは距離を取りたいって意味に見えるかぁ。


「まあ、それはそれとして咲良社長、今からステラリアの皆と晩ご飯いきません? 職員さんで時間を作れる方も二名まで枠があります。というか、参加してもらえたら助かります。お願いします。後生ですから。誰か、助けて……」


 職員さんたちはキョロキョロとお互いに周りを見回して、おずおずと一人、二人と手が挙がった。


「常森さん、田畠さん、ありがとうございます!」


 名前を呼んで参加を確定させる。

 もう逃がさないからね!


「枠ってことは予約してあるの?」


 咲良社長がデスクの上を片付けながら言う。


「ちょっと伝手を使いました」


 僕がレストランの名前を口にすると、ガタガタッと他の職員さんたちが立ち上がる。


「行きたいッ!」


「どうして手を挙げなかった私!」


「一生の不覚すぎる!」


 泣き崩れる職員さんたちをよそに咲良社長は呆れた顔をしている。


「あんなとこよく予約取れたわね。日曜の夜なんだけど……」


「なんか接待用の特別な個室があるそうで、土日は逆に空いてるみたいです」


「はあ? そんな部屋があるの知らないんだけど。それどこ情報よ」


「ちょっと知人にお願いしたら快く予約を取ってくれましたよ」


 無駄に脅したけど、あれはじゃれ合いみたいなもんだからセーフ。


「君の交友範囲どうなってんの?」


「いや、伝手の伝手みたいなもんなので」


 代筆屋との繋ぎは鳴海カノンの手柄だ。

 まあ、交友範囲ってそうやって拡がっていくものなんだろうけど、僕は経験がなさ過ぎてね。確信が持てないよね。


「それじゃ参加メンバーはステラリアの皆とヒロくん、オリヴィアさん、私に常森さんと田畠さんね」


「異議あり! 異議ありです! 常森さんはまだ仕事を抱えています。ここは必要なことは終えてだらだらしていたこの坂井に、坂井に参加の許可を」


 腰を浮かせ、右手を挙げて異議を唱えたのはワーカーホリックなところがある坂井さん。


「坂井さん、それでよく参加できると思ったわね……。タイムカードは押してあるの?」


「任せてください。押してありますよ!」


「ならさっさと帰りなさい。タイムカードを押したら会社に残っちゃ駄目って言ってるでしょ。日曜夕方に帰りたくないのはちょっと分かるけど」


 僕は分かんないな。なんかあるのかな?


「日曜夕方、しかも夏休み。路上には暑さも気にせずそこら中で若い男女がイチャコライチャコラ。まだ職場のほうがマシなんですよぉ!」


 闇がそんなに深くない案件だった。

 そもそも日曜に仕事してるのもどうかと思うよ。

 芸能界ってそんなもんかもだけど。


「参加は常森さんと田畠さんで決定。チャンスの女神に後ろ髪はないのよ」


「ぐぬぬ、どっちにしてもイチャコラ見せつけられるならそっちが良かった。咲良社長、ファイトです。私は応援しています」


 ああ、手を挙げなかったのはそれが原因なのね。

 というか、そんな風に思われてたのね、悲しい。当たってるけど。


「ん、ん~、ヒロくん、もう一枠取れない?」


「コースで予約してるんで諦めてください。こういうのは緩めるとどこまでも枠が拡がっていくんです」


 ホテルの宴会場かなにかを借りて立食パーティ方式にするべきだったか?

 いや、でもそれすると他のメンバーにも同じことし続けなきゃいけなくなりそう。

 今回のもそうか。


「ええと、今回はユイちゃんの誕生日プラス一周年ライブの決起会です。比重は決起会が中心です。そういうことだからね!」


「私の誕生日はついでですか……」


 しゅんとする白河ユイ。

 以前ならこういうことを言っても小揺るぎもしなかったのに、感情が揺れるようになっている。歓迎すべきことなんだけど、今は嬉しくないよね。


「ついでだけど、ついでじゃないよ。ユイちゃん、18歳のお誕生日おめでとう!」


 どうにもなんないので勢いで押し切ろうとする。


「18歳の誕生日なのでプレゼントを希望します」


「それは後でね」


「雑誌がいいです。ゼクシィって表紙に書いてある雑誌。付録でついてくる用紙も使いましょう」


 それは結婚情報誌だよね!

 付録は多分婚姻届だよ!


「ぬ、抜け駆けだ!」


 鳴海カノン、抜け駆けというか君はとっくに同じ地点にいるんだよなあ。


「今のままでいいって言ってたのに!」


「それはヒロさんの所有物だという状態が維持されていればの話です。ヒロさんから解放された今、ヒロさんとの繋がりを求めるなら当然こうなります」


「当然ではないよ」


 色々と段階をすっ飛ばしているよ。


「これこれ、これが見たかったんだよお」


 常森さぁん!? 仕事が残ってるのに立候補した理由それ?

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