第41話 部屋を内見しよう
僕らはまず単身者用だという集合住宅に行ってみることにした。表通りに面した大きな建物で1階には商店や飲食店が入っている。裏手にある階段から2階まで上がり、鍵を使って部屋に入った。
「へぇ、思っていたよりは広いんだな」
トリエラさんの宿の部屋より一回りほど大きい。ベッドと収納が少し、ただそれだけの部屋だが、僕の用途には足る。要はキャラクターデータコンバートを人目の無いところで使えたらそれでいいのだ。
「ここでもいいんじゃない?」
「でもやっぱりトリエラさんのところからはちょっと遠いんだよなあ」
徒歩で30分というところだ。これがメルが普段から通るルート上にあればいいのだが、そうではない。部屋の様子を見てもらうためには行って帰って1時間を無駄にさせることになる。
「でもここなら家賃が半分以下だよ。朝のジョギングの時にちょっと寄ればいいだけだし」
「そう言われたらそうなんだけどね。まあ、両方見てから考えよう」
僕らは鍵を閉めてその部屋を後にする。それから30分ほど歩いて本命の集合住宅へ到着。本当にトリエラさんの宿から目と鼻の先だ。裏手なので後頭部くらいだろうか。
3階の空き部屋の鍵を開けて入る。
「うわ、ひっろーい」
おそらく家族での入居が前提の部屋なのだろう。テーブルが4人掛けであることからもそう思う。日本風に言うのであればダイニングキッチンになるだろう。
入って左側に個室が2つ並ぶ。個室はトリエラさんの宿の部屋くらいの大きさで今はベッドが1つだが、2つでもなんとか入るだろう。片方のベッドはセミダブルくらいの大きさだった。こちらが夫婦の部屋という想定のようだ。
「こんなに広くても持て余すんじゃない?」
「部屋のひとつはメルが使っていいよ。別に住めって言ってるんじゃなくて、僕があっちから来るのを待つことだってあるだろうし、自分の部屋があったほうがくつろげるでしょ」
「自分の部屋は嬉しいけど、自分で面倒を見なきゃいけないでしょ。宿屋暮らしはシーツは毎日替えてもらえるし、掃除もやってくれるしで楽なんだよねえ」
「じゃあメルは単身者用の部屋のほうがオススメなんだ?」
現代日本人には時間は金を払ってでも買え、という感覚があるけれど、この世界の住人であるメルはまた違うのかも知れない。
「こっちでもいいけど、私は部屋の掃除とかしないからね! 絶対に!」
「まあ、別にメルに掃除してもらおうとか考えてたわけじゃないけど、そう言われると心が揺れるなあ」
宿屋暮らしでいいんじゃないという気持ちすら芽生えてくる。いや、宿屋で部屋を借りておきながら出入りもなく無人のままというのもおかしいので、やっぱり部屋は借りなきゃいけないんだけど。
「私の方が宿を変えるという手もあるしね。トリエラさんのところの月貸しはかなりお得なんだけど、今後のことを考えるとダンジョンのある西側の宿に移るということを考えてもいいかもだし」
「それを言われると前提条件が崩れ去るなあ」
「それも踏まえてとりあえず単身者用の部屋でいいんじゃない? お金がちゃんと回るか、まだ決まったわけじゃないでしょ」
「それもそっか。荷物も無いし、引っ越しというほどの手間もかからないしね」
僕は単身者用の部屋を借りることに決める。メルには1人でも行けると伝えたのだが、最後まで付き合うと一緒に来てくれることになった。




