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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第402話 一方的に知られているのはちょっと怖い

「ようこそ! 魔石の買取ですね」


 顔を引き攣らせたまま、それでもなんとか笑顔を浮かべようとするのは立派だよね。

 今後も贔屓にさせてもらいますよ。


「こんにちは。今日は16層から23層まで行ってきました。残念ながら24層へのポータルは見つけられませんでしたが、23層でそこそこ頑張ってきましたよ」


「あ、あの、ここでは20層相当までの買取しか機械が対応してなくて、ですね」


「ええ、ですからもう上席の方を呼んでいただいたんですよね?」


 僕はにっこり。受付さんはなんというか微妙な表情。


「お席におかけください。すぐに担当者が参りますので。それであのそちらの方は?」


「ちょっと手伝ってもらった臨時のパーティメンバーです」


「23層に臨時で参加できる探索者なんて聞いたことがないんですよぉ」


 まあ、間違ってはいないよね。長柄秋は戦闘参加してないし。


「いらっしゃるのは前回対応していただいた方ですか?」


「そうなります」


「それは助かります。せっかくなんでいらっしゃるまで歓談でもしましょうか。23層をうろうろしたんですけど、誰とも会いませんでした。いま都庁ダンジョンの最前線ってどの辺りなんですか?」


「ここにいらっしゃる探索者の方で一番多いのは10層くらいなんですけど、攻略クランのような最前線だと専任の担当者が対応しているのでちょっと分かりかねます」


 ん~、誤魔化そうとしてるけど、別にいいか。

 本気で探りたいわけでもないし。


「10層だとあんまり儲からないですよね?」


「そうでもないです。レベルに余裕を持たせて多く狩るパーティのほうが多いですので」


「ああ、安全を取るとそうなりますよね」


 だとすると、概算だけど一日で一人5万くらいからの収入かな?

 もうちょっと行くかもしれない。


 リスクを取らずに安全に倒せる層で数を狩れば、真っ当な労働に比べたら稼げるし、レベルさえ上がれば将来性もある。


 ただ最前線でリスクを背負ってレベルを上げている人たちには周回遅れで置いて行かれてしまう。


 というのが大半の探索者の現状なのか。


 足りないな。

 と僕は思った。


 運営が引き起こすと僕が想定しているイベントの難易度には全然足りない。


「お待たせしました。樋口さま」


 奥から現れた見覚えのある男性が僕の名を呼ぶ。

 へえ、マイナンバーカードを通してないのにそっちの姓で呼ぶんだ。


 前回は三津崎さまと呼ばれていたから、僕について調べている、というか調べ続けている、ということになる。


 うーん、よく知らない相手が僕について詳しいっていうの、なんか怖さがあるな。


 でもステラリアのメンバーはこれが平常なんだろう。

 良いマネージャーであるために、大切な知見が得られた、ということにしておこう。


「とりあえず別室でお話を伺います。お連れ様もどうぞこちらに」


 男性に案内されて買取所の奥へ。

 ガラス張りの応接室がいくつも並んでいて、なるほど攻略クランはこういうところで対応してもらってるんだなあと小学生並みの感想が浮かぶ。


 男性に案内されて中に入ると、ぱっとガラスが曇り不透明になった。


「あまり見られたり、聞かれたくないでしょうから。余計な配慮でしたか?」


「いえ、色々と助かります」


「どうぞおかけください。今日は23層まで行かれたとか?」


「販売されている地図が正確で助かりました。残念ながら24層へのポータルは見つけられませんでしたが。どこかと情報を取引できたら嬉しいんですけどね」


「はは、それは樋口さまの個人情報がちょっと漏れちゃっても仕方がない、ということでしょうか?」


「登録メールアドレスくらいなら」


「知らないメールアドレスから連絡があるかもしれませんね」


 ははは、と僕らは笑う。

 長柄秋はそんな僕らをドン引きの表情で見ている。

 こんなの序の口だよ?


「それで今日手に入れた魔石を売っていただけるということでよろしいのですか?」


「持って帰ってもいいんですけど、その意味も特にないな、と。宝石より価値のあるものをバックパックで無造作に運びたくないですしね」


「見せていただいても?」


 僕はバックパックをテーブルの上に置く。

 中身が多いから、ちまちま出していくと時間がかかりそうだもん。


 男性は中身を確認して息を呑んだ。

 まあ、無造作に入れてあるからなあ。


「はは、なるほど。本物ですね。失礼ですが、たったお二人でこの量を?」


「パーティメンバーが必ずしも一緒にダンジョンに出入りする必要はありませんよね」


「そうですね。そういう法があるわけではありません」


 僕は言外に仲間がいるよと伝え、相手は分かった、追及はしない。と返した。

 確定させない方がいいこともある、と分かっている相手だと話しがしやすい。


「この大きさの魔石がこの量となると、私の裁量権を超えますね。支部予算でならなんとか。数日いただけますか? つまり月曜には振り込まれるようにするので、いったんこちらで預かってもよろしいですか?」


「預かり証はいただけるんですよね?」


「それはもちろん。概算だけ出しておきましょう」


 そう言って男性はスマホと定規みたいな装置を取り出した。


 あれは簡易測定器だ。

 スマホのアプリとカメラ、そしてあの装置で連動して、魔石の価値を調べてくれる。

 複数個でもまとめて計算してくれるし、足したり、割ったり、機能が多くて便利なんだよな。

 国が主導して作ったアプリとは思えない出来だし、頻繁にアップデートがある。


 男性はバックパックからテーブル上に魔石を出して、スマホで撮影して、その分の魔石を横にどけ、またバックパックからという作業を繰り返す。


「この桁数にも対応してるのは、開発者に先見の明があったのか、仕様書を書いた誰かがぶっとんでいたか、ですね」


 と男性はぼやく。


「あくまで簡易測定なのでかなりブレは出ますが、今の計算式だと概算で130億円くらいですね」


「簡易測定アプリって23層の魔石も対応してるんですか?」


「私たちは機能制限が解除されているので21層以降の魔石にも対応しています。とは言え40層の魔石とか言われても、誰も見たことがないので価値のつけようがありませんが」


 うーん、アーリアの冒険者ギルドには預けてあるんだよなあ。40層の魔石。

 出す意味もないから死蔵かあ。

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