第401話 君に決めた!
「レベル20になりました。出ました。選択肢です」
「変に読み上げないようにね。選択したことになるから」
事前にも言ってあるけど、再度注意しておく。
○○と××はどっちがいいの?
って質問しようと口に出して、前者が選択されてしまうという悲劇はままある。
「助言はしない。スキルは自分の人生を左右する選択だ。自分で考えて決めてほしい」
「時間をかけてもいいんですよね?」
「選択肢が出ている間、そのスキルに関する熟練度は得られないけど、保留はいくらでもできる。だけど選択できるスキルが変わることはないから、保留し続ける意味はないよ」
僕がそういうと長柄秋は指先を額にあてて考え込んだ。
「これ、迷いますね。じっくり考えたいです」
「じゃあ、戻ろうか。結局24層へのポータルは見つからなかったかぁ」
「未踏破の層を初日でポータル発見できたら快挙だぜ」
僕のぼやきにカラカラとエリスさんが笑う。
「しかし誰とも遭遇しないってことは、攻略組はもっと奥の層にいるってことですよね」
「そらまあ、自分たちが攻略中とか、その手前の層の情報を公開はせんだろ。普通」
「ばったり遭遇しても困るんで、ちょうどいいんですけどね。情報売ってくれないかなあ」
「金は難しくても情報でならいけるんじゃね? こっちはあんまり情報ないみたいだし」
「レベル40でもう1つスキルを選択できるってのは案外知られてなさそうですしね」
地球でレベル40到達の話は聞かないから、多分まだ誰も知らない。
この確定スキル入手はレベルが20上昇するごとに発生するのだ。
「選択肢が出るのも困りものなんですよね。知られているように熟練度がすでに高いものが選択として出るのであれば、もうちょっとで自力習得できるかもしれないわけですから」
ロージアさんが困り顔で言う。
「それはそうなんですよね」
例えば熟練度が0.5と0.9のスキルが選択肢として出てきていても、その熟練度はマスクされていて分からない。
0.5のほうを選択できれば、0.9はそのままの活動を続けていればじきに習得できるだろう。
だが0.9のほうを選んでしまったら、熟練度0.5のスキルが1に到達するのはいつになるかまったく分からない。
でも[気配察知]と[潜伏]が選択肢として出てきて、自分は普段から周りに気を配っているから、気配察知はそのうち手に入るだろう。それよりも熟練度の低そうな潜伏を確定入手しておくか、と選んだら、その後、いつになっても気配察知が習得できない、というのもアーリアでは聞く話だ。
なのでアーリアでは、効率の良さより、自分が入手したいスキルを選ぶべきだと言われている。
もちろんそのことは長柄秋にも伝えてある。
迷うということは、舞踏系も、歌唱系も出てきたってことかな。
小鳥遊ユウの課題として考えるなら舞踏系がいいと思うんだけど、これは僕の意見だからな。
彼女の人生の選択だ。
横から口を出すべきではない。
僕らは23層のポータルに到達して、一旦アーリアのダンジョンに飛ぶ。
「晩飯はあっちで食うから、迎えに来いよ」
「私は帰ります」
ニーナちゃんは下の弟妹がたくさんいるから、毎日外食ってわけにはいかないよね。
「食事代の代わりにニーナちゃんには今日の報酬をおまけしとくね」
ちょっと色をつけてニーナちゃんに報酬を渡す。
大人組はみんな日本で晩ご飯のようだ。
「じゃあ、秋ちゃんを送って戻ってきますから、しばらく待っててくださいね」
「早めにしろよ」
「可能な範囲で」
都庁ダンジョンに戻ってきて、長柄秋と一緒にダンジョンの外に出る。
バックパックには8割ほどが魔石でぎっしり埋まっている。
これ邪魔だなあ。
売っちゃうか。
「魔石の売却益はどうしようか」
「えっ?」
「一応、今回の件は僕が依頼主で魔石の預かりは僕になってるけど、秋ちゃんの関与がないわけじゃないし、1割くらいは渡しておいたほうがいいかなって」
そうしないと鳴海カノンの時に五千万渡したことと整合性が取れないしね。
「あの、聞くの怖いんだけど、それっていくらくらいになるの?」
「あーっと、今回一番多いのが23層の魔石で、この前売りに行ったときは20層までだったから……。ごめん、普通には売却できないと思う。でもダンジョンから出てきたところで売っておく実績もいるからなあ」
何十億かの取引になることは間違いなくて、もしかするともう一桁上がる。
「ひぃぃ」
長柄秋と出入りしてるデータに紐付けていいのか、これ。
「なんというか、悪いけど五千万で許してくれない?」
「それでもあたまおかしくなっちゃうんだけど。でもどうして五千万なの?」
僕はついと目を逸らす。
「どうして?」
「カノンちゃんの件で彼女に五千万渡したのでバランスを取ろうかなって思ってしまいました」
でもあれ汚い金なんだよなあ。
一旦引き上げて、綺麗な金と交換してあげよう。
汚い金は代筆屋に押しつけたらいいや。
「あたまおかしい!」
「ですよねー」
そんなことを話しながらも魔石買取所に到着してしまう。
カウンターの列を見た時に目が合って、その瞬間に顔を引き攣らせた見覚えのある彼女のところに行こう。話が早そうだし。
僕がそちらに向かって行くと、彼女は受話器を取り上げて、あわあわと何かを話している。
ほら、話が早く済みそう。




