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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第399話 昼に飲む酒は美味い

 橘メイの真意はともかく、デートは避けられないようだ。

 かと言って、条件が厳しすぎる。


 今をときめく橘メイが素顔を晒して、思いっきり楽しめる場所。


 もちろんひとつだけ心当たりがある。


 誰も橘メイを知らない、異世界の町、アーリアに僕は行ける。

 東京のように多様な娯楽はないが、旅行気分は味わえるだろう。


 これまで連れてきた日本人は、大体アーリアの魅力に虜になった。

 食事を除く。


 その食事だって場所を選べば、日本人の舌でも美味しく感じられるものがある。


 いいアイデアに思えるけど、難点がひとつ。


 橘メイがこのことを秘密にしておけると思う?


 なので僕はこのアイデアをとりあえず先送りにして、自分自身がアーリアに飛んだ。


 橘メイから別れの条件を聞いた翌日の早朝である。

 アーリアはもう目覚めていて、街路にはもう活気がある。


「おいおい、いつも通りなら明日のはずだろうが。たまたま俺がいたから良かったけどな」


 予定より一日早く来たのは悪いと思うけどさ。


「レザスさん、鏡は本来ヴィクトル商会の商いだと聞きました」


「お、おう。だけど別に法で定められてるわけでもないだろ」


「そうですね。ですが、敢えて言語化しないことでお互いに利益を確保する、というのは大事ではないですか?」


 レザス商会が食品を、ヴィクトル商会が鉱物を扱うと決まっているわけではない。

 だけどお互いに商圏を荒らさないことで、アーリアという町で同居できていた。

 横やりを入れれば、必ずしわ寄せもくるはずだ。


 というか、僕がいま困っている。


「魔銀を手に入れなければいけないのに、あなたに鏡を卸しているためにヴィクトル商会への繋ぎができそうにありません」


「魔銀? ヴィクトル商会に、ってことは素材としてのか?」


「ええ、絶対に必要というわけではありませんが、場合によっては今後大量に手に入れなければなりません。鉱物を扱う商会との関係を良好にする必要があります」


「だがお前の持ってきた鏡は別に鉱物というわけでもなかったろう。そりゃ商圏は被らないようにしているが、必ずしも、というわけじゃない。例えば岩塩は鉱石のように手に入るが、商いとしてはウチだ」


「ただ僕の鏡をエインフィル伯爵に売り込めばヴィクトル商会の商いに横やりを入れるってことは分かってましたよね」


「そりゃそうだが、そういうもんだろう。お前の鏡はヴィクトル商会向きだから、そっちに売り込んでこいなんてお前だって言わないだろ」


「そりゃ言いませんが、文句くらい言わせてくださいよ」


「文句を言うだけなら、……もうしばらくは聞いてやってもいい」


「あ、いま自分の時間を金勘定しましたね。そういうところですよ!」


「それはお前だって同じだろうが」


「それはそうですね!」


 仕方ないじゃん。商売人だもの。


 まあ、初めからレザスさんにどうにかしてもらおうとは思ってないよ。

 情報をくれなかった分の文句を言いたいだけで。


 ただ相手の知識不足を突くのは商売の基本だから、文句を言うくらいしかできないんだよな。

 レザスさんも分かってるから、聞いてくれてるんだろう。


「というわけなので魔銀のインゴットを大量に入手する方法を教えてください」


「流石に専門外だ。魔銀の状態で掘り出されるわけじゃないのは間違いないんだが……」


「いま何と言いました?」


「ん? 魔銀は銀ベースの合金だ。ただ原料とか配合割合が門外不出なんだよな」


「そこまで分かっているのなら……、ひょっとすると……」


 現代地球の分析技術なら解析できてしまうのでは?


 僕はレザスさんに礼を言って、皆と合流する前に魔銀の短剣を買っておいた。

 欲しかったんだよね。多分、すぐに失うんだけどね。かなしい。


 その後、レザスさんから受け取った白金貨を冒険者ギルドに預けて、パーティメンバーと合流。

 アーリアのダンジョンまで移動して、ポータルを使用して2層へと移動した。

 みんなをそこに残して、僕だけが日本にキャラクターデータコンバートして、都庁ダンジョンで変装し、装備を身に着けた小鳥遊ユウと合流。

 都庁ダンジョンの16層までポータルで移動してから、アーリアにキャラクターデータコンバートしてパーティメンバーを迎え入れて、都庁ダンジョンに戻る。


 手間が、手間が多い。


「晩飯が楽しみだなあ」


 シャノンさんが、もう終わったあとのことを言ってる。

 どこか予約しとくべきだったなあ。


 ロージアさんの指示で僕らは動き出す。

 まずは小鳥遊ユウ、というか、明確に長柄秋に変わっちゃったので、長柄秋ということにしておこう。彼女とシャノンさんの二人パーティで16層を突き進む。


 いわゆる戦闘パーティと支援パーティを分けるやり方だけど、例えば戦闘中にニーナちゃんが回復をしたり、ロージアさんが支援魔法を使うと、経験値が分割されてしまい逆に効率が悪くなる場合もあるようだ。

 なのでこの戦い方はシャノンさんが敵を鎧袖一触できる範囲に限られる。


 まあ、16層なら余裕だよね。

 道順も分かっているので、僕が先導して突き進む。

 困ったことに長柄秋を背負っていると、戦闘支援と見做されてしまうようだったので、本人に走ってもらっている。

 ランニングはしているという自己申告があったとおり、走るだけなら問題はなさそうだ。レベルが上がって、本人の体力などが上がっているのも大きいだろう。

 非戦闘時ならニーナちゃんが体力を回復しても経験値の分割は発生しない。


 僕が索敵しながらポータルを目指し、接敵するとシャノンさんがぶっ倒して、そこまで走った分の体力をニーナちゃんが回復する、というサイクルで20層まで来た。


「時間的にはお昼だし、一度休憩に外に出てもいいかもね」


「昼飯もこっちで食えるのか!?」


「まあ、できないことはないよ。そうしようか」


 平日のまだ12時前だから、急げば混み合う前に店に入れるかも知れない。

 わちゃわちゃと面倒な手順を踏みながら、僕らはファミレスに腰を落ち着ける。


「ここはどういう店なんだ?」


「ファミリーレストランって言って、騒がしい子どもを連れてきても許される飲食店ってところかな。だからメニューもちょっと子ども向けなところはあるかも」


「へー、でもそんな子ども連れがいるわけでもないんだな」


「それは立地の問題だね。この辺だとビジネスマン、まあ、書類仕事をしてる人たちの利用がメインだと思う。今日は休みの日だから、あんまり客はこないかもね」


「休みの日って決まってるのか?」


 そういやアーリアには週とか安息日の概念がないんだった。

 昔の日本も正月や盆とかしか、皆まとめて休むという習慣がなかったらしいし、これもキリスト教による文化汚染と言えるのかもしれない。


「逆に聞くけどアーリアの人っていつ休んでるの?」


「そらまあ、適当に。職によるだろ。生きるのに足りてたら休む。冬に備えて蓄えはいるだろうけどな」


 そういえばアーリアだと店舗もなんか不定期に休んでるよね。

 あの店行くかって行ってみたらお休みということは往々にしてある。


「なるほどなあ。こっちだと休みの日ってある程度決めておかないと、一生働かされかねないんだよね。ほとんどの人が雇われの身だし」


「こえーな、みんな独立しようとかはしねーの?」


「うーん、国の法で雇われの身分が保証されてるから、リスクを負ってまで独立しようとしない人が大半かな」


「よく分からん。そんな法があったら、店側が人を雇いにくくないか?」


「確かに雇い主側の負担は大きいね」


 雇われている側は受け取った額面が会社が自分に払ってる額だと思うかもしれない。

 でも実際には給与明細の引かれてる税金って会社が国にちゃんと収めている。

 その上、社会保険料なんかは会社側の負担分もあって、その分は給与明細に記載の義務がない。


 社会保険料が上がって手取りが減った場合、雇用主も同じだけ負担が増えているんだよなあ。


「あたしら冒険者みたいな自由業にはあんまり関係ねーな。金が無くなったらダンジョンに潜るだけだし」


「それって冒険者が続けられなくなった時にどうするの?」


「だから屋台を出せるくらいの蓄えは残すんだよ」


「なるほど」


 日本には日本の、アーリアにはアーリアの道理がある、ということだ。


 メニューと注文方法を説明している間にシャノンさんとエリスさんが勝手にタブレットで生ビールを注文する。

 もうその注文方法に慣れちゃったのか。

 あるいはそれだけ酒が飲みたかったのか。


 今日は休日だけどビジネス街にあるファミレスでビジネスマンを眺めながら昼時に飲む生ビールは実に美味しいだろうな。

 精神的な意味で。


 今日は客が少ないだろうと思っていたら、案外に探索者の利用も多い。

 都庁ダンジョンの傍だから、そらそうか。

 時間が自由な探索者が先に席を半分くらい埋めてしまっている。

 これ平日だとビジネスマンは辛いなあ。


 まあ、需要があれば商機を見て供給も増えるでしょ。

 街頭でお弁当とか売ったら儲かるかもしれない。すでにあるかもしれないけど。


 でも僕が手がけるにはちょっと面倒だ。

 そういうことを手がけようとしてる人に伝手があれば出資するんだけどなあ。

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