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ユニークスキルで異世界と交易してるけど、商売より恋がしたい ー僕と彼女の異世界マネジメントー  作者: 二上たいら
第8章 輝ける星々とその守護者について

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第398話 別れの条件

「じゃあ、結局どうしたらいいのよ?」


「そもそも君のは恋じゃない」


 性欲が先にあるでしょ。たぶん。


「その気持ちにちゃんと向き合って答えを出して欲しいところだけど、残念ながら僕たちには時間がない。今のままでは一周年ライブが悲惨なことになる」


「あ、あんたが来なければいいのよ」


 そんな寂しそうに言うなよ。

 ちょっと心が揺れちゃうだろ。


「それはそうするとしても、咲良社長が言ってたでしょ。特定の誰かに好意を抱いているその気持ちにファンはとても敏感だ。葛藤の末、ファンを選んだというのであればともかく、今の君はそう見えない。これまで君はファンに向けて100%のパフォーマンスを見せてきた。だから例え100%だったとしても、ファンではない誰かに向けられたものならファンは気付くよ。少なくともいつもの君とは違うことには気付く」


「むむむ」


 橘メイも思い当たる節があるらしい。


「嫌だったけど、僕が振ってもいい。ただそれだと君はしばらくパフォーマンスが落ちるでしょ」


 多分、橘メイは演劇で言うところの没入型なのだ。

 自分で作った設定に心からのめりこんで、そのものになってしまう。

 だから恋人に振られた、という設定を放り込むとしばらく落ち込むのは目に見えている。

 下手をすると髪の毛ばっさりと切ってきそう。


「なので忌々しいけれど、僕に失望してもらって君のほうから僕を振る、という本来の形に持って行けたらと思ってる」


「失望? そもそも失う部分がないんじゃない?」


「僕が君の好みのタイプじゃないことは分かってるつもりだったけど、なんかちょっとイラッとするな」


「えー、私に好かれたいわけ?」


 ぐへへと橘メイは顔をだらしなくする。

 アイドルの顔じゃないよ、それは。


 僕はさっさと爆弾を落とすことにする。

 こういうのは早いほうがいいと今回のことでよく学んだ。


「僕は先日オリヴィアと入籍した。既婚者だ。だから君が僕を恋人だと思っているのなら、それは不倫だ」


「はい? あれ、ガチだったの?」


 配信でメルがネタっぽく天丼してたやつね。

 本当のことなんですよね。あれ。


 僕は頷き、そして追撃した。

 悪い、マイフレンド、犠牲になってくれ。


「そして僕は昨晩、小鳥遊ユウとキスをして、同じ部屋で一晩を過ごした」


「こ、この外道……、あれ、ちょっと待って、その言い方ってことは一線は越えてない?」


 こいつ意外と聡いんだよなあ。

 わざと誤認させようと思ったのに、気付くか。


「キスとか、体に触れるのが一線でなければね……」


「オリヴィアが知ったら、あんたが切られるんじゃない?」


 そうしたら晴れて僕は君のものってか?

 僕をホールドしようとする握力が強すぎない?


「オリヴィアはもう知ってるから、それは脅し文句にはならない」


「そっか。でも私はオリヴィアにあんたを誘惑していいって言われてるわけだし、これ、奥さん公認浮気なのでは?」


 そう言って橘メイは後ろに体を倒す。

 ベッドの上に横たわろうとして、頭を壁にぶつけた。


「いったぁ」


 シングルベッドの幅の狭さを考慮に入れてなかったな。

 前のあれそれはキングサイズだったから、横向きでも余裕だったもんね。


「ほら、おいで」


「今の流れで誘惑できると思ったの? なんで?」


「だって私だし」


 その根拠のない自信は橘メイらしくてとてもいいと思うよ。


「オリヴィアがいいって言ってるんだし、据え膳じゃないの」


「僕は次なにかしたら処するって言われてるんだよね」


 その前提があるので冷静でいられる部分はある。

 橘メイみたいに魅力的な女の子と同じ部屋に二人きりで、相手はベッドの上で頬を染めて僕を待っている。

 メルがいなかったら飛びついているか、逆に僕の中の童貞心が勝って挙動不審になるか、どちらかだ。


「オリヴィアはなんでそんなことしてるの?」


「僕のほうが聞きたいよ。考えられるのは試されてるってところかなあ。でも小鳥遊ユウとのことを知られる前なんだよね。配信の時だと」


 だから逆にメルにとって僕が小鳥遊ユウに手を出したのは都合が良かったのかな?

 僕の処罰装置になるという話に持って行くために、橘メイを焚き付けたけど、先に僕が自爆してしまい、橘メイは勝手に燃え上がってるだけになってしまった、みたいな。


 そのくせ、メル自身はあれ以降、めちゃくちゃ僕へのスキンシップ増えたんだよな。

 僕を処すのがメルの望みか?


「あー、そういう」


 橘メイはベッドの上で横たわったまま、何かに納得したようだった。


「悪い女だなあ」


 そう言いながら橘メイはベッドの上で起き上がった。


「ん~、分かった。条件付きで別れたげる」


「条件? 内容によるとしか言えないな」


「……デート」


 消えそうな声で橘メイは言った。


「え?」


「ちゃんとしたデートがしたいの。変装とかせずに、思いっきりオシャレして、顔も隠さずに、私の好きな私の姿でデートがしてみたい。その別れ際に振ってあげる」


「それはかなりの難題だね」


 ステラリアの知名度は一般的にはそれほどでもない。

 所詮は中堅アイドルグループだ。センターとは言え、メンバーの一人一人まで知られているわけではないだろう。


 だけど橘メイだけは別だ。

 メルとやった配信がトレンド入りし、アーカイブの再生数が伸び続けている。

 ステラリアは知らなくても、橘メイは知っている、という層すら生まれている。


 素顔を晒して町を歩けば、すぐに橘メイがいると誰かが気付く。

 その隣に男がいるとなると、こっそりスマホのカメラを向ける人は多いだろう。

 スキャンダルだ。

 しかもその男はオリヴィアと一緒にいるところも撮影されている。

 それはもう大炎上するに違いない。


「誰も君を知らない土地を見つけなきゃいけないわけか」


 なお、メルの初配信は英語字幕バージョンが勝手に作られて、それが本家より伸びているので海外も苦しい。


「つまり『|私を月に連れてって《Fly me to the moon》』ってこと?」


「別の言葉に言い換えると?」


「別れる気がないやつだ、これ」

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